第29話 賢者
ギルド連合国サエティの長であるラルは双子の冒険者リリとルルを魔族の国へ送り出した後、アルメン共和国で何が起こっているのか情報収集をするために各地にいる冒険者の協力を求めた。
すぐに報告が受けられるようにラルは集会所にある自分の部屋で待つ事にした。
続々と冒険者から情報が集まる中、ある一報がラルに届く。
慌てて部屋に入ってきた冒険者は息を切らしながら言う。
「た、たいへんです!え、英雄が!ジンさんが!」
「ジンがどうした?」
「ま、魔王に殺されました!」
魔王だと?
あのジンが死んだ……?
そんな、わけ……ありえない
ラルは頭を抱える。
「魔王が現れたのか?」
「は、はい!私は姿を見ていませんが、情報元は公国の英雄だそうです!」
「公国からの……」
あの国が嘘を言うとは思えない
そういうことを特に嫌う者たちだ
つまり……
「あのラルさん……まだ報告することがあります」
「まだ他にも?」
これ以上の悪い知らせはないだろう
「はい……アルメン共和国内だけではなく、グレー森林でも戦闘があったそうです。そこでどうやら、帝国の英雄が魔王を倒したらしいです」
「帝国の英雄が魔王を!?」
闘技場で見た時、うちの冒険者に負けたけど、それなりの強者であることはわかっていた
あのジンが倒せなかった魔王を倒したというのか
「待って、グレー森林?」
おかしい
グレー森林には赤月の者達を向かわせたはず……
伝達が伝わらなかった?
いや、あの双子が伝達をしないことはないはず……
伝わったけど、グレー森林で魔王に遭遇したと考えるべきかもしれない
そうなるともう一つ気になるのが
「アルメン共和国を襲撃した魔王とは別?」
「どうでしょうか?でも、その可能性は高いかもしれません」
「別の魔王も動いていたとなると……」
魔王が動くこと自体滅多にない
それが同時期に
魔王同士が連携でもしているというのか
これは一大事……
それとグレー森林に魔王が現れたことも驚きだが、なぜ、そんなところに帝国の英雄が?
帝国の王はずる賢いが、これほど先まで物事を読めるとは思えない
となれば、偶然?
すべて偶然?
部屋にいる別の冒険者が大きな声を出す。
「それよりも!ラルさん!どうしますか!襲撃された共和国を助けないと!共和国の人々がが酷い目に!」
「魔族はそのような愚行はしない」
ラルは強い口調で言ってしまう。
「ラル……さん……?」
「あ、ははは!悪い悪い忘れて。ジンがやられたと聞き、気が動転しているみたいだ。魔王が現れた以上、グレー森林も警戒しよう。
一応、赤月の者達を向かわせているけど、いつまた攻めてくるかわからないからね」
いや、偶然と片付けるのは浅はかかもしれない
何者かが裏で糸を引いている可能性の方が大きいと考えるべきだろう
なぜなら、あの者、魔族の王は賢いからだ
ここは魔族の国インゼックト。
インゼックトは人間の国から一番遠い所にあり、広大な領地がある。
そのため、ここに暮らす魔族達は人間という存在を知っている者の方が少ない。
伸び伸びと暮らす魔族達には自然と笑みが広がっている。
インゼックトの中心には大きな城がある。
魔族の国で一番の大きさと言っても過言じゃない。
その大きな城の中に天井の高い大きな空間がある。
広々とした空間に立派な椅子、王座があり、
堂々と魔王ベルゼブブが座っていた。
広大な領地を収めるだけの威厳と佇まいを放っている。
そこに魔王レヴィアタンが姿を見せる。
立派な扉が開かれ、魔王ベルゼブブの方へ歩いてくる。
「なんだ、オマエはあの計画には参加しなかったのか?」
「そういう〜貴方こそ〜」
「話を待ちかけられたが、断った」
「あら〜とてもおもしろいのに〜」
「なるほど、参加はしているのか。なら、出番はこれからか?」
「いいえ〜違うわ〜貴方の相手をしろと言われたのよ〜」
「そういうことか。安心しろ、邪魔はしない」
「あら〜そうなの〜?てっきり〜ニンゲンの肩を持つかと思ってたのに〜」
魔王ベルゼブブは笑い声をあげる。
「俺様が今のニンゲンを?あり得ないだろ。ニンゲンというのは愚かな生き物だ。魔族よりずっと利口なはずなのに自分達の弱さも知らず、受けた恩も忘れる。争いを好み、野蛮で残酷だ」
「あ〜たしかに〜そう言われればそうね〜恩をすぐ忘れるには同意ね〜それはそうと〜死んだらしいわよ〜」
「死んだ?誰が?」
魔王レヴィアタンはクスクスと笑いながら言う。
「アスモデウスとベルフェゴールよ〜戦いに敗れたらしいわ〜」
魔王ベルゼブブも動揺する事なく、冷静に言い放つ。
「誰に敗北したのか知らないが、所詮は魔王の名を借りた者でしかない。俺様やオマエのように元から魔王であったわけではないからな」
「そうね〜名を引き継いだだけで本当の魔王ではないものね〜後にも先にも本当の魔王は〜私達を含めた最初に名を頂いた者だけ〜」
「こうなってくると魔王の数は減らしてもいいかもしれないな、数にこだわる必要もない気がしてきた」
「でも〜領地はどうするの〜?そこに住む者達は〜?わたしはこれ以上面倒を見るつもりはないわよ〜」
「領地の問題はたしかにあるな」
魔族の中にも自分勝手で野蛮な奴らはいる
それを統制するのも魔王の役目だ
「現状、アスモデウスとベルフェゴールの領地で問題は起こってるのか?」
「さぁ〜わたしが知るわけないでしょ〜だって興味がないもの〜」
魔王ベルゼブブはため息をつく。
「そうだったな。もし魔王がいなくなった事で混乱し、内乱でも始まっているようなら、そこに出向くまでだ」
「意外と律儀よね〜」
「俺様は魔王としての役目を果たしているだけだ」
それを聞き、魔王レヴィアタンは目を逸らし、話を変える。
「となると〜あの者がサタンの名を引き継がなかったのはこのことを理解していたから〜?」
「あの者?サタン?あぁ、新たな魔王の事か。考えすぎかもしれないが、その可能性は十分にあるだろう。名が持つ意味を理解しているのかもしれない。名とはその者の全てだからな」
「なら〜ますます期待しちゃうわね〜」
「ほどほどにしておけよ。この事態を良く思ってないかもしれない。あれを刺激したくはない」
「え〜わたしは歓迎だけど〜世界の在り方が変わるかもしれないし〜それに〜ルシファーは動くみたいよ〜」
「やはりか。まぁ、サタンがいなくなった時点でそうなることはわかっていた」
「ルシファーもある意味律儀よね〜」
「律儀というか、いまだに縛られている。今後もルシファーには注視するべきだな。あれがルシファーを使いどう動くのか見極める必要がある」
魔王ベルゼブブは腕を組んだ。
ルシファーに関しては他にも気になることがある
そして、それは目の前にいるレヴィアタンにもだ
レヴィアタンがここに来てから、本人には悟られないように観察をしていた
洗脳されていないかどうかを
とりあえず、洗脳はされていない気がする
魔王会議の場に現れたルシファーみたいな雰囲気はない
あの時のルシファーは自らの意思はあるみたいだったが、どこか違う雰囲気があった
新たに魔王になったあの者は何かと怪しい
そして、今回の侵攻も……
レヴィアタンの言葉通りなら、主犯はあの者で間違いないだろう
「どうかした〜?」
「ちょっと考えていただけだ」
魔王ベルゼブブは王座から立ち上がる。
「あら〜何か気になることでも〜?」
「まぁな、少し出る。アスモデウスとベルフェゴールの領地を見てくる」
「本当に律儀ね〜なら帰りますわね〜」
さて、これからどうなることか……
魔王ベルゼブブは不安を抱いた。
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