第12話 第二試合
スティーシャ公国の英雄グレース・スペンサーは仲間であるチョコ、バニラと闘技場に入場するために扉の前で待っている。
周囲からは無口でクールな美女として知られている彼女であるが、実は違う。
この世界に転生される前から内気で恥ずかしがり屋であった。
そのため、言葉数が少なく無口なだけのである。
周りから見れば、冷静そうに目を閉じ、精神統一をしているように見えるグレースであったが、内心ドキドキである。
ど、どうしよう……
これから……沢山の人達の前で……
「あぁ!集中しているグレース様カッコイイです!」
バニラはグレースの内心を知る由もなく、羨望の眼差しを向ける。
集中している訳ではないだけどなぁ……
今度はチョコがガッツポーズしながら、言う。
「グレース様、とっとと勝ちゃいましょう!」
この子も何言ってんのぉ……
「チョコ!しっかりやるのよ!グレース様の邪魔をしたら許さないからね!」
先の対戦で今回の大会は二対二である事が分かった。なので、グレースとチョコが出る事になっている。
司会者が次の試合の紹介を始める。
「第二試合の出場者の入場です!!注目は!!聖天王国騎士団の副団長であるテンマ・エルザビ!!!そして、スティーシャ公国の英雄グレース・スペンサー!!!」
呼ばれた者達が闘技場内に入ってくる。
歓声が上がり、中にはグレース様と呼ぶ声がちらほら聞こえてくる。
それぞれ別の扉から入場した両陣営は闘技場の中央付近まで歩み寄る。
「流石の人気ですね。グレース様」
白銀の鎧を着たテンマは笑みを浮かべ、会釈する。
グレースからの返答は一切ない。
なんか笑ってるですけどぉ……
「相変わらず、無口なお方だ」
喋るのが苦手なだけなんですぅ……
あれ……?
グレースは相手が一人である事に気が付く。すると、テンマは審判に目を向けながら言う。
「試合をする前に一つ提案したい事があるのですが、いいでしょうか?」
「提案ですか?」
「見ての通り、友達がいないものでね」
軽く手を広げて見せる。
「そこで提案というのは、一騎討ちをお願いしたいのです」
「一騎討ちですか……グレース様側がそれでもよろしいのであれば」
審判はグレース様を見る。
その視線から逃げるようにグレースは隣にいるチョコを見る。
「違いますよ。私はグレース様、貴女と手合わせしたいのです」
ですよねぇ……
とても断れる雰囲気じゃないし……
仕方がなく、グレースは無言で頷く。
それを確認したテンマは笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。それでは」
テンマは鞘から剣を抜き、構える。
試合が始まったと思い、観客席から声が上がる。
「グレース様!頑張ってください!私は後ろで見守ってます!」
そう言うとチョコは後ろの方へ移動する。
やだよぉ……沢山の人の前で……
グレースは目を閉じ、剣の握りを触る。
軽く息を吐き、華麗に剣を抜く。
試合開始の合図が鳴り、歓声がさらに上がる。
「第二試合が始まりました!!!どうやら、今回は一騎討ちのようです!!!」
テンマが先に仕掛ける。
ステップを踏みながら、グレースに攻撃をする。
目を開けたグレースは向かってくるテンマの攻撃を弾き、防ぐ。
先程まで内心ドキドキであった彼女はどこにもいない。
剣を持った彼女は内気な恥ずかしがり屋ではなく、皆が思っているクールな美女へと変貌する。
そして、グレースが所持しているスキルが発動する。
「剣綺(けんき)」
スキル名 剣綺(けんき)
観る者を虜にする華麗な斬撃の乱舞。
美しい乱舞に観客のほとんどが言葉を失い、闘技場が静かになる。
テンマもその美しさに少し反応が遅れ、軽くダメージを負う。
これが剣綺!なんという美しさ!
しかし、テンマもステップを踏みながら、斬撃の乱舞を耐える。
周りからはまるで二人がダンスを踊っているかのように見えた。
斬撃の乱舞は一向に終わる気配がない。
それどころか、速度とキレが増し、次から次へと斬撃が飛んでくる。
防戦一方となったテンマはどうするべきか思考するが、その思考も徐々に防ぐ事の意識に変化してしまう。
テンマはその場から下がろうと後ろへ体の重心を傾けた。
その変化をグレースは見逃さなかった。
さらに速度とキレが増した会心の一撃をテンマに喰らわせた。
その衝撃でテンマは後ろに吹き飛ばさられる。
くっ…!
地面と鎧がぶつかる音が鳴り響く。
テンマはすぐに起き上がろうとするが、すでに間を詰めていたグレースの剣先が首元を捉えていた。
「お見事です。グレース様」
試合終了の合図が闘技場全体に鳴り響く。
勝敗はあっという間に決まってしまった。
「勝敗は決まったようだ!!!勝者はスティーシャ公国の英雄グレース・スペンサー!!!」
拍手と歓喜が闘技場を包み込む。
グレースは剣を華麗に振り回しながら、鞘に収める。
「流石!グレース様!かっこよかったです!」
後ろで見ていたチョコが駆け寄ってくる。
剣を離したグレースは元の恥ずかしがり屋なグレースに戻っていた。
は、はやくこの場から去りたいよぉ……
「すごい!!」
心也も観客と同じように拍手する。
「相変わらず、美しい斬撃だな」
「はい!とても美しかったです!」
隣にいる陽が少し拗ねた感じで言う。
「美しいねぇ……心也はあーいう感じがいいのね」
「え、いや、そういうわけじゃ……」
ふーんと言いながら、陽はグレースを見ている。
なんか顔が怖いですよ……
「いやぁ〜青春だな」
「何言ってんだか、青春が何なのかも知らないくせに」
オレグの言葉に対してユリアがぼそりと言った。
「は?これで使い方合ってるよな?なぁ?ジン」
「どうだか、次は俺達の番だ。行くぞ」
「お〜い、ジン」
ジンは立ち上がり、その場を後にする。
他の三人も立ち上がり、ジンの後を追った。
その際、サシャが振り返り、言葉を残す。
「次の試合はもっと凄いのが見れると思うから、楽しみにしてて」
「団長なら勝っていたか?」
王国の王レイビスタが後ろにいる団長に聞いた。
「私でも勝つのは難しいかと。グレース様の太刀筋は独特すぎます。あれを全て対応するのは至難の技です」
「私の娘に敵う騎士などいません」
自信満々な笑みを見せる彼女の名はマリン・アデライン・スペンサー。
スティーシャ公国の王であり、人間の国で唯一の女王である。
「娘?異世界転生者じゃろ?」
「そうかもしれませんが、娘同然に接してきました」
「なるほどな。だが、騎士という事なら連合国の英雄もなかなかだと思うぞ」
「あはは……やめてくださいよ。そんな滅相もない。それに彼は騎士と言うより、剣士ですよ」
闘技場内ではすでに次の試合の準備が終わり、出場者が入場していた。
「おお!来おったか!」
邦国の王ヨハネスの声色が高くなる。
「次の勇者は彼で決まりじゃろ!」
他国の王にそれだけの事を言わせる英雄。
「さぁ!!さぁ!!大注目の英雄の登場です!!ギルド連合国サエティの英雄!!ジン!!!」
ジンと言う言葉が闘技場を支配する。
その言葉にジンは手を挙げ、答えた。
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