第11話 第一試合


闘技大会は闘技場がある聖天王国で行われる。

闘技場には大勢の人が集まり、試合前にも関わらず、大賑わいである。

闘技場を見渡せる一番上の席には各国の王が座っており、豪華な食べ物や飲み物が用意されている。


「実に良い雰囲気ではないか?」


観客を見渡しながら、ベネガル帝国の王ラサール・ジョイス・ウェイド・ウォーレンが問いかける。


「自信があるようだな」


その問いかけに聖天王国の王レイビスタ・リオーネ・レストレンジが答えた。


「自信?違う違う。我が英雄が勝つのは当たり前の事であり、事実だ」

「噂は聞いております、ウォーレン様」


とギルド連合国ソサエティの王ラル・ノクテス・ラジールが言う。

それに対して、ラサールは皮肉混じりに言う。


「ほう?冒険者共にすら、名が知れ渡っているとは光栄な事だ」


他の三人の王は何も言わずに闘技場を観ている。

ラサールが鼻で笑う。


「ふっ、英雄のいない国の王達も今日は楽しんでもらえるだろう」


英雄が不在の国の王も招待されるが、闘技大会に出場する権利はない。


「なんじゃ、そんなに強いのかね?お前さんところの新しい英雄とやらわ」

「ええ、もちろん。是非、楽しんでいってくださいシュルツ王」


ヨハネス・フルドア・シュルツ王。ナトゥーア邦国の王であり、王の中で一番年老いた男である。


観客席の一番上の所から、魔法によって声を大きくした者が叫ぶ。


「ついにこの日がやってまいりました!!!誰が最も勇者に相応しいのか!!?それを証明するため、各国の英雄が今ここに集結!!!誰が一番強いのか決めようではありませんか!!!申し遅れました!わたくしがこの闘技大会の司会進行を務めさせていただきます!皆様よろしくお願いします!!!」


観客から歓声が上がる。


「これより、第一試合を始めたいと思います!!!出場者の入場です!!!」


闘技場の扉が開かれる。

金髪の男が現れ、その後ろから三人の女性が現れた。

司会者が大きな声を出す。


「最高位ランク到達者であるベネガル帝国の英雄ゼロ!!!その圧倒的強さはまさに最強!!!」


三人の女性を連れて入場してくる金髪の男は高価なフルプレートに身を包み、腰には二本の剣を携えている。

ゼロは軽く手を挙げ、声援に応える。

今度は反対側の扉が開かれた。


「対するは双子の冒険者!!!最速のルーキーリリとルル!!!彗星の如く現れた注目の冒険者!!!初戦から大注目の対戦です!!!」


審判と見られる者が頭を下げる。

そして、闘技大会のルール説明がされる。


「最初の試合となりますので、ルール説明をさせていただきます。まず始めに今回、対戦していただく人数は二対二です。それぞれ二名を選んでください。また、魔法、スキル、アイテムの使用は可でございます。前の勇者が残した魔法アイテムによって、防御結界を展開させておりますので観客席に危害が及ぶ事はありません。我々審判が勝敗が決したと判断した場合、合図をしますので直ちに戦闘をやめてください。また、相手が負けを認めた際も戦闘をやめてください。有望な人材を失う訳にはいきませんので相手の命を奪う事も禁止とさせていただきます。合図は試合開始と終了とも同じものです。ルール説明は以上です」


審判は両者を見て、質問がないことを確認すると早速合図をする。

闘技場全体に大きな音が鳴り響く。


司会者は息を吸い込み、大きな声で叫ぶ。


「さぁ!!試合開始だあああ!!!」

「やれやれ……か弱い女の子たちが相手か」


金髪の男ゼロがため息をする。

連れである女性の一人が声をかける。


「あ、あの!それでしたら……私達が代わりに相手をしましょうか?」


声をかけてきた女性に対して目で威圧する。


「余計な事はいらないぞ。むしろ、俺が一人で戦う。俺の強さをこの場にいる連中に教える。邪魔しないでもらいたい」

「は、はい!失礼しました!」


女性は慌てて謝罪をした。

ゼロは、前に歩き始める。


「君らの噂は聞いているよ、最速でランクフォーまで到達したらしいな。たが、所詮はランクフォー。最高位ランクである俺の敵ではない」

「ふーん」


リリは空返事をし、鞘から剣を抜く。


「ほう?やる気はあるみたいだな」


リリは剣を構えながら、走り出す。


「たが、今から力の差を見せてやる」


ゼロは地面を力強く殴る。

地面が粉々に割れ、走ってきたリリの行手を拒む。

歓声が上がり、闘技場全体が盛り上がる。

司会者も大きな声を出す。


「地面が粉々に割れたあああ!!!」

「まずは一人」


ゼロは高くジャンプをし、身動きの取れないリリに攻撃を仕掛ける。

それと同時に後方にいたルルの持つ杖が紫色の光を放つ。


「……グラビティ」


周りにある岩や瓦礫がゼロとリリを巻き込みながら、宙に浮かび上がる。


「なに?この程度の魔法で俺を倒せるとでも?」


ゼロは異変に気がつく。


なかなか身体が地面に落ちない?


周りは岩で覆われており、地面を確認する事ができない。

ゼロは大きな岩の上に立つ。

そして、同じように大きな岩に立っているリリを見つける。


「即席のバトルフィールドってことか?」


リリが動き出す。

宙に浮いている岩を足場にして移動を開始した。


なんだ?俺の周りを移動しやがって……

ゼロはいきなり背中に衝撃を感じる。


なんだ!?斬られた……?


一定の速度でゼロの周りを移動していたリリだったが、攻撃する時だけ速度を上げ、ゼロの死角から攻撃を仕掛けた。


くっ……!まただ!


斬撃は防具を着けていることもあって大したダメージではなかったが、今まで一方的に戦ってきたゼロにとって、相手に主導権を握られている事が何よりも許せなかった。


魔法で一気にかたをつけてるか?

いや、剣で斬られた以上、同じ方法でやり返す!

絶対に斬り返す!

チカラの差を見せつけてやる!


「調子に乗るなよ!!」


ゼロはただ立っている事をやめ、リリを追うために岩と岩を移動し始める。

そして、リリをあっという間に捉える。


やはり、俺の方が移動速度も上のようだ!


「悪いな、これがチカラというものだ」


剣を抜き、大きく振りかざした。




岩が浮かび上がり、闘技場全体で歓声があがる。

闘技場の上空には浮かんだ岩が連なり、大きな塊ができていた。

聖天王国の英雄である心也と陽は観客席とは別に案内された席から、この第一試合の様子を見ていた。


「闘技場というものを初めて見たけど、こんな感じなんだね!」

「あまりいい気分にはなれない……戦いを見て楽しむなんて、それも人と人の戦いを」


隣にいた男が声をかけてくる。


「ただの試合だぜ?気にかけるなよ、英雄さん」


二人は誰?という目線を送る。


「あぁ、俺はオレグ。見ての通り、冒険者さ」


手を広げて、装備を見せる。

一目で分かるくらい高価な防具に身を包んでいる。

さらに隣にいる髪の短い女が声をかける


「ちょっと何に話してるのよ?」

「いいじゃないか、お互いに認識をさせるためにここに座らせたのかもしれないしな」


今度は別の男が話し出す。その男の横には髪の長い別の女も座っている。


「ギルド連合国の英雄。いや、異世界転生者と言った方がわかりやすいかな?ジンだ。で、髪の短い方がユリアで長い方がサシャという。そして、上に座っているいるのが公国の英雄。グレースだ」


そう言われ、上を見るとそこには綺麗な女が三人座っている。


三人とも凛とした綺麗な女の人達だ

この人達が他の国の英雄なのか


「ちょっと!何を勝手に語ったてんのよ!」

「そうです!馴れ馴れしくしないで!」


三人の内、左右に座っている女が反論してくる。


「名家のお嬢様らしいが、この通り口が悪い。ちなみに左に座っているのが、チョコ。右に座っているのが、バニラだ」

「な、なんですって!というか、また勝手に人の名前を!」

「グレース様も何か言ってくださいよ!」

「………」

「グレース様ってば!」


グレースは一言もしゃべらず、闘技場を見ている。

またしても闘技場全体に歓声があがり、心也は闘技場へ目を向ける。

すると、青髪の美少女が宙に浮かんでいるのが見えた。


空を飛んでいる!


オレグが感心したように言う。


「最速でランクを上げただけあるな、あれだけの数の岩を浮かせてただけでも凄いのに空も飛べるとは」


さらにサシャが補足する。


「それだけじゃないわ、短縮詠唱よ。詠唱も魔法陣もなしで魔法を使っている」


宙に浮いている青髪の美少女は続けて魔法を使用する。

杖の先端から、稲妻が発生し、岩の中へ消えて行く。

すると、岩の中から男の声が聞こえてくる。

その光景にチョコとバニラが驚きの声を上げる。


「また別の魔法を!」

「それに命中したの?どうやって場所を?」


岩に覆われているため、外から中の様子がわからないはずなのにどうやら命中したようだった。


「探知系の魔法も同時に発動しているとか?」

「ありえんだろ!そうなったら、一体いくつの魔法を同時に使用してんだ!?」


青髪の美少女は岩の塊の周りを飛び回りながら、魔法を使用し始める。


「なぜ、移動しながら魔法を?」

「狙いを定めるいるとか?」

「なるほどな」


周りの者達は何かを理解したジンを見る。


「どういうことだよ、ジン」

「見ていればわかるよ」




ゼロは眉をひそめる。


外からの魔法攻撃が邪魔すぎる……!

目の前をちょこまかと動く小娘を斬りたいが、タイミングよく邪魔が入る

そして、外に気を向ければ、いつの間に懐に入られ、斬られる

先からこの繰り返しだ……くそが!


ゼロは地味にダメージが蓄積されていく。

特に精神的な部分に……


なんという屈辱!

魔法を使ってこの状況を打破するか?

いや、それで勝っても俺のプライドが許さない!

この際、外からの魔法攻撃は無視しよう

痛みは感じるが、大したダメージではない

岩の上を移動するあの小娘を先に片付ける!


ゼロは一気に加速し、リリとの間を詰める。

攻撃を仕掛けた時、外から魔法の攻撃を食うが、ゼロは気にせず、攻撃を続ける。

しかし、攻撃は避けられる。


くそ!避けられただと!?

痛みで僅かに攻撃速度が落ちたか?


その後も同じ事が何度か繰り返される。

一撃で倒せる力があるが、当たらなければ意味がない。


ちょこまかと動きやがって、動かなければ……

ん?待てよ……そうか!


ゼロは岩を斬り、粉々にし始める。


「はははっ!これでいける!やはり、俺は最強だ!」


足場になっている岩を全て無くせば、動き回る事ができなくなる

そうすれば、俺の攻撃を避ける事が出来なくなるはずだ

さらには岩の陰で見えづらくなっていた外からの攻撃にも反応できるようになる

俺の勝ちだ!


そんな中、リリが呟く。


「そろそろかなー」

「ん?何がだ?」


ゼロの足元が揺れ、身体がぐらつく。


なんだ?


魔法の効果が切れたのか、浮いていた岩は落下し始める。

その流れにゼロも巻き込まれる形で一緒に落下する。

いきなりの出来事にゼロは反応する事ができなかった。

そして、ゼロの頭上めがけて地面が迫ってくる。


なに!?どういうことだ!?

地面はこっち側だったのか!?


いつの間に感覚がおかしくなり、上と下が逆転していたようだ。

衝撃に備えるが、地面に強く叩きつけられる。


くっ……!


残りの岩が後を追うように落下してくる。

そして、岩が体に覆い被さり、身動きが取れなくなった。


くそ、やられた……!

だが、この程度のダメージなど……

まだ戦える!


岩を退かそうと力を入れるが、首筋に冷たいものを感じ、見上げる。

そこには、笑みを浮かべている小娘の姿があった。


「にゃはは!わたしたちのかちかな!」


闘技場全体に大きな音が鳴り響き、大きな歓声と響めきに包まれる。

どうやら、審判が勝敗を決めたようだ。


「ま、まて!まだ、俺は負けてない!」


く、くそ……!こんな小娘どもに……!ありえない!


ゼロは岩を退かし、立ち上がる。


「審判!見ろ!俺はこの通りまだ戦える!」

「ゼロ様。申し訳ありませんが、勝敗は決まりました。あちら側の勝利です」


審判が手を向ける方を見る。

少女達が話をしながら、喜びを表している。


「なんと!!!勝者は双子の冒険者!!!最速のルーキーリリとルル!!!」


司会者の声が鳴り響き、さらに闘技場が歓声に包まれる。


「くそ!俺が本気を出せばあいつらなど……!おまえら帰るぞ!」

「は、はい!」


ゼロは苦虫を噛み潰したよう顔をしながら、歓声のあがる闘技場を出て行く。




心也は思わず、拍手をしていた。

ジンに話しかけられる。


「見事な試合だったな」

「あ、はい」

「岩を浮かしたのはこれが狙いだったわけだ。感覚が狂って気付いたら、地面だったという」

「でもさ、ジン。どっちが上か下かくらいわかるものじゃないのか?」

「オルグの言う通りだ。普通ならな。だがな、身体能力が高いとそれが気にならない時がある。時に感情が昂っている時などは……冷静じゃなかった彼にも落ち度がある」

「なるほどね」

「それと英雄と呼ばれている者が初戦で負けてはいけない。英雄が負けていいのは英雄にだけだ」


上に座っていた三人の女達が立ち上がる。


「次は君達の番か、油断するなよ」

「グレース様がそんなヘマするとでも?」


グレースの代わりにチョコが答えた。

三人は離席する。


「これより、第二試合の準備をしますのでしばらくお待ち下さい!!!」


司会者の大きな声が聞こえてきた。




邦国の王ヨハネスが笑みを浮かべながら言う。


「あれが帝国ご自慢の英雄様かいの」


帝国の王ラサールは悔しそうな声を出す。


「今回はたまたまーー」

「たまたまか、前代未聞の間違えでは?英雄が一回戦目で負ける事など今まであったかな?」


王国の王レイビスタが話に割り込んできた。


「うるさい!そもそもなぜ、二対二なのだ!前回は一対一だったではないか!」

「なぜ?我が国の英雄が二人だからに決まっているだろ?だから、私から提案したのだ」

「……!」

「新たな英雄が見れなければ、民が悲しむだろ?」

「ぐぬぬ……そ、それと!あの者達はなんだ!ランクフォーと聞いていたが、どういうことだ!」

「ウォーレン様。正直、僕も驚いています」


国の立場を考えれば、ある程度の戦いは見せなくてはならなかった。

相手が英雄という時点で勝ち目はないが、簡単に負けてしまえば、あの国には英雄しか強い者がいないと思われてしまう。

負けたとしても見せ場さえあればと連合国の王ラルは思っていた。

しかし、結果は勝利という形になった。


まさか勝ってしまうとは……

でも、これでまた帝国との仲が悪くなるのかな……

それにしてもとんでもない子達だ

使用した魔法はどれもランクフォー内の魔法であり、特別凄い魔法ではない

でも、二人の連携もさながら、戦い慣れている印象だった

あの若さでどうやって……


「どのような理由があろうとも結果が全てじゃからの」


邦国の王ヨハネスはまた笑みを浮かべる。

司会者が大きな声を出す。


「お待たせしました!!!準備が整いましたので、これより第二試合を始めたいと思います!!!」


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