第10話 闘技大会


勇者と魔王の戦いから約一ヶ月が経った。

新しい異世界転生者である英雄達は成長し、その実力は魔族の国でも噂される程になった。

そんな人間の国では、次の勇者は誰なのかの話で持ちきりである。

ギルド連合国サエティ内の集会所にいる冒険者達もその話で盛り上がっていた。


「いや、帝国の英雄が一番強いだろ!」

「何言ってやがる。クールな女騎士グレース様こそ至高」

「おいおい、それはおめぇの好みの話だろ!」

「全く君達は面白い話をしているね」


冒険者達の会話に背の低い男が入ってくる。

冒険者達はその男を見ると頭を下げる。

彼の名はラル・ノクテス・ラジール

連合国の長であり、王である。


「そういうのはやめてくれよ」

「いやいや、王には頭を下げないとな!」

「そうだ!そうだ!」


ラルは王であるが、冒険者という立場もある。

そのため、自他共にその地位を気にして接する者は少ない。

むしろ、今のように地位をいじられる事の方が多い。


「英雄の強さなら、僕らの英雄も負けてないと思うけどなぁ」

「その通りですよ!でも、こいつは女にしか興味がないんで」

「そうだったね。それよりも人を探しているんだ」

「人探しですか?どのような者を?」

「最近、急成長をしている双子の冒険者をね」

「あぁ、あの子らですか!とんでもない成長速度ですよ!俺らなんかあっという間に抜かされましたわ!」


と笑いながら話す。


先輩としてのプライドというものはないのかとラルは思ってしまう

しかし、それだけの強さがあるという事なのかもしれない

鑑定士が作成した書類も今まで行ったとされる依頼内容にも目を通したが、至って普通であった

ランクが上がる速度が早い以外は……


「実力はどれほど?」

「十分強いですよ!」

「おっ!噂をすれば……」


例の双子、リリとルルが集会所に姿を見せる。


「きょうはなにする?」

「……うーん」

「噂は聞いているよ、まずはランクフォー到達おめでとう」


いきなり声をかけられたリリは軽率な反応をする。


「え、あ、ありがとう!!」

「……ちょっと何してるの?」


リリの軽率な反応にルルが注意をした。


「えっ?だれ?この人」

「……相手はこの国の王様」

「あ、すみません!」

「そういうのは気にしなくていいよ、僕も冒険者の一人だし、堅苦しいのはなしね」

「うん!わかった!」


ラルはリリのフレンドリーな感じに驚く。


「あはは!元気でいいね」


なるほど、そういう感じの子か


「……私達に何か用でしょうか?」


逆にもう一人の方はしっかりしている


「なになに?たのみごと?」

「そうだね。頼み事と言えば頼み事かな……闘技大会の事は知っているかな?」

「とうぎたいかい?」

「……勇者を決める大会」

「え、そうなの?」

「その通りだね。まぁそれだけが選考になる事はないけど、誰が強いのかははっきりする」

「……その大会に私達と何か関係が?」

「各国の英雄の他に出場者をそれぞれの国で決めないといけないんだ。そこでその役を君達にやってもらおうと思っててね」


ルルは辺りを見渡す。


「……私達でいいのですか?他に相応しい冒険者の方々がいると思います」

「えー、おもしろそだし!でたい!!!」

「相方の方はそう言ってるよ?君達は実力も話題性もある。適任だと思うんだ」

「……話題性」

「あまりこういう事は気にしたくないだが、国の立場というものがあるんだ。英雄の他に自分達の国にはこんな強者がいるんだという事を大勢の者に示す事ができる。国の威厳ってやつさ、本当にくだらないんだけどね……最速の新人と呼ばれている君達が出れば、注目されるだろうし、それらを示す事ができるかもしれない」


この一ヶ月でランクフォーまで到達したリリとルルには、最速の新人という二つ名がある。

その名は人間の国全体に広がっており、注目されている。


「俺達も構わないぞ!なぁ!皆!」

「お前達が出ろ〜同じ冒険者として応援してるぜ!」


周りで聞いていた冒険者達も頷く。


「……そうですか、わかりました。出ます」

「よし、決まりだね。申請などは僕の方でやっておくよ、よろしくね」

「うん!」

「……はい」


話を終えたリリとルルは受付嬢と依頼の話を始める。

その姿を見ながら、ラルは思う。


話した感じでは至って普通

強者である重圧も感じない

だが、ランクは嘘を付かない

出場する冒険者が彼女達で良いか疑問に思うが……

現状、他に適任者が思い付かない

二つ名とその話題性に賭けるか……




依頼を終えたリリとルルはサエティ内にある自宅に帰ってきた。

報酬金で買ったものであり、決して大きい家ではないが、二人で住む分には丁度いいくらいの大きさである。


「……予定通り。これで大会に出れる」

「にゃはは!!たのしみだね!!」


リリとルルが最速でランクを上げていたのは

闘技大会に出場するためであり、周りに注目される事で出場権を勝ち取る算段であった。


「……それとーー」

「かんぺきなえんぎだったでしょ!?」

「……あ、うん」

「こうみえてりこうだからね!」

「………」

「ってそこはへんじするところでしょうがああ!」

「……うるさい。次の選択はリリに一任する」

「えっ?きめていいの?」

「……うん。私は戦えればそれでいい」

「わかった!!まかせて!!」


リリは眼を輝かせる。


「そういえばさ!あのラルってひと、このくにおうなのでしょ?」

「……そう。あとランクファイブの冒険者」

「へーあれでらんくふぁいぶか」

「……この世界の強さの基準は低い。ワールドレコード通り」

「そっか……」

「……まだ、ランクファイブの冒険者は他にもいる」

「あ〜さんだいぎるどのひとたちか!え、そっちのほうがらんくうえじゃん!そのひとたちがでるせんたくはなかったの?」

「……あの人達は大会に出ている暇はない」


リリは少し考え、ルルの答えの意味を理解する。


「ん?あぁ〜そっか!!さいぜんせんでね!」

「……そう。苦労して魔族から奪い取った土地。簡単には手放さない。でも、大会の間だけ何人か帰ってくる可能性もあった」


いつ魔族達が取り返しに来るかわかないため、ランクファイブの冒険者達は奪い取った土地の警護をしている。


「……でも、私達がいたからその可能性はなくなった。私達が代わり」

「そういうことだね!さてさて、どんなせんたくをしようかな?たのしみ!」




稽古場に心也とリベルド騎士団がいる。


「闘技大会ですか?」

「そうだ。明日、開催される」

「明日ですか!?急ですね」

「あぁ、闘技大会には各国の英雄である異世界転生者が出場する事になっている。言わば、現英雄の中で誰が一番強いのかが明確になる大会だ」

「と言われても……強制ですよね?」

「そうなるな、勇者を決めるための選考に関わってくるので出る必要がある」

「そうですか……勇者……」

「何を弱腰になってる」

「弱腰というか……」

「まぁ、実戦経験は少ないかもしれないな。稽古や依頼などをしたとは言え、まだ一月だ。たが、毎日のように王国で一番の騎士と手合わせしたのだぞ」


自分でそれを言うのかと思ったけど、僕のために言ってくれているのが伝わってくる


「とにかく自信を持って」

「はい……団長は出場しないのですか?」

「王の護衛をしなくてはならないので、出れない。しかし、副団長は出るようだ」

「副団長ですか」

「聖騎士である副団長はかなりの実力者だ。気を付けろよ」

「はい……」


副団長……聖騎士か……



その夜

城内の一室から灯りが漏れている。


「心也、明日は闘技大会みたいだね」

「そうだね……いきなりすぎるよ」

「えっ、知らなかったの?」

「陽は知ってたの?」

「知ってたよ!だって街中で話題になってたし」

「あぁ、そういうことか」


団長との稽古ばかりで街とか行ってなかったから、気がつかなかった


「なになに?乗る気じゃないの?」

「いや、だって……相手は同じ人達だよ?魔族じゃない」

「そうかもしれないけど、本気で戦うわけじゃないだろうし……ほら、同期?の異世界転生者も気になるけど、先輩?の異世界転生者に会えると思えば」

「そうか、僕達と同じ奇遇の人達だ」

「そうそう、何か役に立つ事が聞けるかもしれないよ」


陽の言葉を聞き、心也は思い付く。


「そうだよ!なんで今まで気にしてなかったんだ?いきなり異世界に来て、どうすれば良いのか……元の世界には帰れるのか……思えば、一緒に召喚されたあの人とは噂は聞いてたけど、会ってなかった」

「そういうこと!だから、いい機会だと思うんだ。じゃあ、また明日。おやすみ!」


と言うと陽は部屋を出ていく。


今まで強くなる事しか考えてなかったし、それしかしてこなかった

この世界についても少しの事しか知らない

明日、同じ異世界転生の人達に話を聞けば何かがわかるのかもしれない

少しだけやる気が出てきた心也は眠りに着いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る