第13話 第三試合


ジンが声援に応えていると重装備のフルプレートではなく、軽量の鎧を着た二人の女性が入場してくる。


「対するは!!スティーシャ公国の近衛隊であるモモとミカンだ!!!」


近衛隊は女王を護衛する部隊であり、チョコ、バニラの門下生でもある。

また、入隊できるのは剣の腕がある女性のみとされ、その特色からもスティーシャ公国が女尊男卑である事がわかる。

二人は周りを見渡しながら、言う。


「うわぁ…凄い熱気!」

「この中で戦うのですかぁ〜」


見渡している時、観客席の上の方に座っているグレース、チョコ、バニラを見つけた二人は頭を下げる。


「相手はあの有名な英雄ジン様だけど、簡単には負けられない!」

「そうだね!!」


師範であるチョコ、バニラの他に憧れであるグレースが見ているため、二人の気合が入る。



「女性騎士集団が相手か」


ユリアがジンに問いかける。


「ねぇ?これ私の魔法必要?」

「念の為さ」

「念の為ねぇ」


油断は絶対にしない

誰が相手であろうと……


「技の発動と共に強化魔法を頼むよ」

「わかったわかった。本当に用心深いだから」


審判は準備が整った事を確認すると合図を鳴らす。


「さぁ!!!試合開始だぁ!!!」


モモ、ミカンは剣を構える。

それに対してジンの構えは抜刀せずに剣に手を添えているだけである。

しかし、先に動いたのはジンであった。


「先手必勝」


ジンの体が光を帯びる。


俺はこれで三度目の異世界転生となる

先の異世界もこの異世界同様に魔王がいた

やられる前にやらなければ生き残れない厳しい世界だった

そこで身に付けたのがこの戦闘スタイル

ひたすらスピードを極めて、誰よりも先に攻撃できるように努力をした

その結果、一瞬で一撃で相手を倒すチカラを手にした俺は魔王を倒し、世界を救った


「強化魔法レイズ」


ユリアがジンに強化魔法を付与し、ジンの体はさらに光が増す。


そして、前の世界では一人だったがこの世界には頼もしい仲間がいる

俺はさらに強くなれる!


身体能力が向上したジンは一気に攻撃を放つ。


出し惜しみは一切なしだ!


抜刀 一矢先攻 一閃


ジンが動いたと思ったその瞬間には刃がモモの首元の手前にあった。

その速さにいつ剣を抜いたのか分かった者はいなかった。

一部の者を除いて……


「俺の勝ちかな?」

「あ、あ、はい!そのようです!」

「こ、降参です!」


何が起こったのか分からなかったモモ、ミカンの二人は慌てて頭を下げ、剣をしまう。

そして、試合終了の合図が遅れて鳴り響く。

あまりの速さに観客の反応も遅れていたが、鳴り響く音に観客も徐々に歓喜の声をあげ始める。


「な、な、なんと!!!何が起こっただ!?一瞬で勝敗が決まってしまった!!!これが英雄ジンだ!!!」


剣を鞘に戻したジンは手を挙げ、歓声に応えている。


「見えたかの!?今の速さ!」


邦国の王ヨハネスが興奮しながら言う。


「僕には全く」


連合国の王ラルと同様に他の王達も首を横に振る。


「そういう貴方は見えたの?」


スティーシャ公国の王マリンが聞く。


「まさか、見える訳が無かろう!彼のスキルである先手必勝を見切れたのは一つ前の勇者くらいじゃろ?そう考えると本当に惜しい男を亡くしたものじゃ」



今の試合を遠くから見ていたリリとルルの姿があった。


「へーいまのがばっとうじゅつってやつか」

「……抜刀一矢先攻一閃という技」

「まぁまぁのはやさだね!すきるじゃないんだっけ」

「……厳密に言えばね。条件付き転生だからこの世界のスキルを新たに取得はしてない。力をそのまま引き継いだけ、どちらかと言えば転移に近い」

「なるほどね」

「……前の世界では今の技などを使って悪を滅ぼし、世界を救ったみたい」

「せかいをすくった?」

「……それが目的、あるいはそれが許される世界だったじゃない?」

「ふーん」

「……一度、世界を救っているという事は彼にとって自信になる」

「あぶないねーそういうの!そのじしんがなくなったらどうなちゃうだろ?」

「……今の所は精神的に追い込まれないと思うけど、今後どうなるかは彼の選択次第」

「うーん」

「……どうかした?」


リリは王達がいる方を見る。


「いや、あれがにんげんのりーだーたちとおもうと、なんかなぁ」

「……あの人達はそこまで重要じゃない。でも、言いたい事はわかる。自分の事しか考えてない人達。そういう人達には何が本当で何が嘘なのか判らない」


ルルも冷たい目で王達を見る。


「……さて、次は二人組の英雄」

「たのしみだね!」

「……興味があるの?驚いた」

「すこしだけね」


と言ったリリの目は輝いていた。

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