第14話 第四試合


いくら試合だと言われても騎士団長以外と戦った事がない心也によっては初めての実戦と変わりがない。

緊張というより、恐怖の方が大きい。

心也は隣にいる陽を横目で見る。

いつもと変わらないその顔に安堵するが、逆に恐怖を感じた。


「大丈夫だって!訓練の時と変わらないよ!それにさ、あの団長と毎日闘ってたんだよ?自信持ちなよ」

「そ、そうだよな……」


騎士団長からもらった剣に手が触れる。

聖天王国で一番の職人が作った剣である。

他にも心也と陽が身に付けている装備はどれもこの闘技大会のためによりすぐりの職人達が手がけた装備である。


「それに一人じゃないよ」


と言い、陽は笑顔を見せる。


そうだ、陽も一緒にいる

きっと大丈夫だ


目の前の扉が開かれ、闘技場から声が聴こえてくる。


「さぁ!!!入場して参りました!!!聖天王国の二人の英雄です!!!」


心也は深呼吸をし、歩き出した。

すでに闘技場には対戦相手である二人組の男達がいた。

体の細い男と体の大きな男の対称的な二人組である。

どちらも鎧ではなく、ローブに身を包んでいる。


どっちも魔法使い?


「対するのは!!!ベネガル帝国魔法部隊所属の二人組ゲイドとガイルだ!!!」


呼ばれた二人は腕を組み、強気な表情を示す。

ベネガル帝国は魔法に力を入れており、数多くの優秀な魔法使いがいる。

彼らもその部隊の一員である。



先程の試合と同じように見ているリリとルルの声が聞こえてくる。


「……あれが帝国の魔法部隊」

「よわそう」

「……この世界では十分強い。聖天王国の英雄はあれをどうやって対処するつもりだろう」


そう言うとルルの眼が青色に光り始める。




審判は両者の準備が出来ている事を確認する。


これから戦いが始まるんだ

緊張とかで心臓がドキドキする


心也は落ち着く為に団長からもらった剣に触れる。

そして、試合開始の合図が鳴り響いた。


「試合開始だあああ!!!」


まず、最初に動いたのは陽だった。


「精霊召喚」


スキル名 精霊召喚

文字通り、精霊を召喚する事で共に戦う仲間を増やすスキルである。


「風の精霊シルフ!」


風の渦が巻き起こり、中から羽根の生えた小さな女の子が現れる。


「お呼びでしょうか?ご主人様!」

「フーちゃん!力を貸して!」

「はい!」


フーとはシルフの呼び名であり、陽が名付けた。


これが精霊……!


心也は陽が精霊を召喚出来る事は知っていたが、実際に見るのは初めてである。


「初めまして!心也様!」


シルフは心也の近くまで飛んで行き、頭を下げる。


「あれが風の精霊か!」


体の大きな男ガイルが言うと


「そのようです。情報通りですね」


体の細い男ゲイドが答える。


「フーちゃんお願い!」

「任せてください!」


空に飛び上がったシルフは光を帯び始め、魔法の発動が始まる。


「そうはさせません」


とゲイドは言うと、右手を空に掲げる。

その手にある指輪から赤色の光が闘技場に放たれる。

すると、魔法を発動させようとしていたシルフの光が失われてしまう。


「あれ?あれ?」


シルフは慌てた様子を見せた。


「このアイテムは解呪の指輪と言い、あらゆる妖術を無効にする事ができます。本来は魔族共の妖術を無効にする為に使用しますが、魔法に対しても効果があるのです」

「精霊によって様々な魔法を使える事は知っている!その為の対策という訳さ!」


スキルで精霊を召喚しても精霊による攻撃は魔法としてこの世界に実現される。

そのため、シルフ自体に影響はないが、魔法の効力は失ってしまう。


「ごめんなさい!ご主人様!」

「気にしないで!フーちゃんは悪くないよ!それに魔法が使えないのは貴方達も同じはず!」


ゲイドが右手を下げると赤色の光は消える。

ローブの陰から杖を取り出し、ゲイドは魔法を唱える。


「どうでしょうか、ファイヤボール!」


杖から火の球が複数飛び出し、陽を襲う。

陽は慌てて避ける。


「どうして!?向こうは魔法が使えるの!?」

「分かりません!大丈夫ですか!?ご主人様!」

「答えは簡単です。この赤い光がある時だけ魔法が無力化されるのです」


ゲイドは右手を空に掲げ、説明する。

指輪から赤色の光が放たれる。


なんという便利な指輪なんだ

これじゃ、精霊の召喚と魔法の練習しかしていない陽はどうすれば……

ここは自分がなんとかしないと!


「ここはまかけて!」


魔法使いの弱点は魔法が発動するまでの時間だと団長から聞いた

発動する前に相手との距離を詰めれば勝機はあると


心也は剣を抜き、相手に向かって行く。

体は動いたが、心也の心は恐怖の方がまだ大きかった。


それでも誰かのために……陽のために……


その想いが体を動かす。

それに対して、体の大きな男ガイルが一歩前に出る。

拳を作り、パンチをしながら魔法を唱える。


「風を起こせ、ソニックウェーブ!」


心也はガイルの魔法を喰らい、飛ばされる。


「心也!」


飛ばされたが、しっかりと着地した事で怪我はない。


もっと速く近づかないと……!

相手の魔法よりも速く!


心也はまた走り出す。

ガイルは両手を使い、パンチをし始め、魔法を唱える。


「どんどんいくぞ!風を起こせ、ソニックウェーブ!」


最初の魔法を避ける事に成功するが、次から次に来る魔法を避ける事が出来ず、また飛ばされてしまう。


くそ……!

これでは近づけない!


「魔法とは肉体のチカラ!筋肉こそ魔法!」

「何を訳の分からない事を言ってるのですか、早く仕留めてください」

「いいじゃないか!少しくらい楽しんでも!」

「全く、貴方はーー」


ゲイドは右手を空に掲げる。

赤い光が密かに魔法を発動させようとしていたシルフの魔法を無効化する。


「バレてしまいました……ご主人様」

「あちらの動向はちゃんと見ているので早めにお願いしますよ?」

「へいへい」


なんとかしないと!

先から近づこうとしているが、相手の魔法が邪魔で近づけない!

同じ事を繰り返しても体力が消耗するだけだ


心也は陽達の様子を伺う。

相手の細い男と睨み合いになっており、とても魔法を使える状況ではない。


どうすれば……


睨み合いとなったゲイドはここまで作戦通りである事に満足していた。


情報通りですね

片方は魔法が得意でもう片方は剣術が得意

いくら精霊の魔法であっても発動さえ、させなければ問題ない

騎士団長と特訓して鍛えた剣術も近づけさせなければ脅威にもならない

事前に調べた甲斐がありました

情報を制する者は戦いを制する

この試合いただきました



聖天王国の王レイビスタはベネガル帝国の王ラサールに問いただす。


「どういうつもりだ!あれはワイルドアイテムではないか!国宝とも呼ばれる重要な物を!」

「アイテムの使用許可は出ているはず」

「そうではない!国の防衛はどうするつもりだ!」

「あぁ、我が国が攻められる前に別の国が攻められるだろう。それに最高の冒険者ギルドもいるのだろう?そもそも腰抜けの魔族共が攻めてくる訳がない」

「だが!」

「いいではないか、見たまえ。民衆も盛り上がっている。それに人数のルール変更をしたのだからワイルドアイテムを使う事くらい許してもらたいものだ」


聖天王国の王レイビスタは返す言葉がなく、黙ってしまう。

その様子を見ていた騎士団長が口を開く。


「王よ、あの者達を信じましょう」



未だに近づく事ができない心也はその場で剣を構えている。


まだ自分でもちゃんと理解をしている訳じゃないけど……

もうあれしかない


心也は空気を吸い、深く息を吐く。


「心を繋ぐ(コネクトハート)」


心也はスキルを発動させた。

心也の目には色あせた世界が広がる。

その中で騎士団長が光っているのを見つける。

その瞬間、体にチカラが伝わってくる。


団長と修行してた時と同じ感覚だ

いや、あの時よりもしっくりくる感じ

……いける!


「構えが変わった?いや、あれは!?」

「まだですか?」

「おい!あれを見ろ!」


ゲイドはガイルに言われ、心也を見る。

闘技場も驚きの声が上がる。

ほとんどの者が知っている構え、リベルド・フォード騎士団長の構えである。


「ただの真似ーー」


真似事だと思ったが、心也の後ろに騎士団長がいる錯覚を覚える。


なんだこれは……


心也はゲイドとガイルに近づく為に動き出す。

それを見たガイルが先程と同じように魔法を唱えた。


「風を起こせ、ソニックウェーブ!」


連続に放たれた魔法を先は一つしか避ける事ができなかった心也だったが、今回は軽々と全ての魔法を避ける。

そして、勢いを殺す事なく、ガイルに攻撃をする。

心也の攻撃は剣先を返し、斬撃ではなく、打撃を与えた。

ガイルはその素早い攻撃を避ける事が出来ずに直撃してしまい、その場にうずくまる。

その光景を見ていたゲイドはその場に騎士団長がいると感じた。


どういう事ですか?

剣の使い方から体の使い方まであの騎士団長そのものではないですか……?


そんな心也と目が合ったゲイドは思わず両手を挙げてしまう。


「こ、降参です!」


その言葉を聞いた審判は合図を鳴らした。


「どうやら、試合終了のようだあああ!!!」


闘技場は歓声と拍手に包まれる。

聖天王国の王レイビスタも拍手をしていた。

そして、対照的にベネガル帝国の王ラサールは悔しそうな表情を浮かべる。


「お見事!お見事!」


ギルド連合国サエティの王ラルが疑問を口にする。


「なんですか、あれは?リベルド殿じゃないですか」

「あれが彼のスキルです。ラル様」

「凄いですね!トレースですか?」

「詳しい事は分からないですが、そんな感じだと思います」



闘技場から出た心也は一息吐く。


「お疲れ様!なに?なに?今のが心也のスキル?」


陽が笑顔で声をかける。


「そうだけど」

「凄い強かったよ!助かった!ありがとうね!」

「うん」


心也は安堵する。


よかった

一時はどうなるかと思ったけど

スキルも問題なく使えた気がするし、何よりも誰かの役に陽の役に立ってた


心也は僅かに手に残る感覚を確かめるように自分の手を見た。

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