第15話 ゼロ


ここはベネガル帝国にある城の中。

ある一室に三人の女性が集まっていた。

この三人の女性は三姉妹であり、ベネガル帝国の王の娘達である。

普段は英雄ゼロとパーティを組み、同行している。

先程まで英雄ゼロと共に闘技場に居たのだが、一試合目で負けてしまったため、移動魔法で一足先に帰ってきていた。


「そう?私はあーいうタイプ好きよ?」


三姉妹の中で一番年上であるラブが言う。


「そうなんですか!?以外です!」


一番年下であるアムールは手を軽く合わせながら、驚いた声を出す。


「お姉様はダメ男好きだよね!私は無理!大体、強いからって粋がってるのが気に食わない!で、そのダメ男はどこに行ったのよ!?」


次女であるリーベは強い口調で言う。


「気晴らしに魔物を倒しに行くって言ってました」

「あんな負け方したからメンタルボロボロでしょ!」


リーベはクスクス笑う。


「私達の内、誰かが加勢すれば勝ってたかしら?」

「どうでしょうか?人数という点では互角になりますが、最速の新人ですし、勝てるとは……」


アムールの言う通りね

側から見ても戦い慣れている印象だった

英雄相手に臆する事なく、戦っていた


「私は元々、加勢する気はなかった!どうせまた自分勝手な事を言うと思ってた!負けていい気味よ!」


三姉妹が会話をしている中、部屋の扉を叩く音が聞こえ、執事である男性が頭を下げて入ってくる。


「お嬢様方。お客様がお見えです」

「お客様?一体誰が?」


この城の主人であるお父様はまだ闘技場のある聖天王国にいる

そして、お母様もその付き添いで今は聖天王国である

この状況でお客様と言われても……


「王も王妃も不在であると伝えて貰えます?」

「そのように申し上げましたが、お嬢様方に御用があるとの事で……」

「もう!誰よ!アムール!ちょっと見て来てくれるかしら?」


こういう面倒事は一番年下であるアムールの役目である。


「わかりました」


アムールはお客を待たせてある城の応接室へ足を運ぶ。

扉を開け、中に入るとそこには思いも知らない者達がいた。


「ど、どうして貴方達がここに!?」




日が暮れ始め、闘技場から続々と人が出て行く。

今日の試合は四試合で終わりとなり、勝った者は後日、対戦する事になった。

試合の後、聖天王国の王と騎士団長から労いの言葉を貰った心也と陽はいつも来ている酒場で夕食を食べていた。

すると、そこにとある人物が姿を見せる。


「なんだ君らもここにいたのか」


その人物はジンである。

後ろには同じパーティであるオレグ、サシャ、ユリアもいる。


「相席いいか?」


突然の出来事であったが、断る理由がなく承諾する。


「あ、はい」

「どうぞ!どうぞ!」

「二人きりの所ごめんね」


サシャが陽に小声で伝える。


「そ、そんな全然大丈夫です!」


陽は頬を染めながら大きな声を出してしまう。

その光景にサシャは笑みを浮かべた。


「酒を飲んだ事がないのか!?」

「あ、はい」

「一応、私達未成年なので」

「未成年?なんじゃそりゃ」

「オレグ。そういう世界もあるって事さ」

「あ〜世界ね、世界。ってか、ジンは飲まれのかよ」

「まだ明日も試合があるからな」

「オレグさんは飲んでも大丈夫なんですか?」


心也は周りを見渡しながら言う。

ジンの仲間でもお酒を飲んでいるのはオルグだけであった。


「酒場に来て酒を飲まない奴がいるかよ!」

「でも明日ーー」

「これでも明日にはケロっとしているから平気よ」


ユリアが教えてくれる。


「そう!そう!それにどうせ俺の出番は無いさ!」

「悪いなオレグ」

「良いって!まぁ、他の英雄とは戦ってみたかったがな!」


少し拗ねながらオレグは手に持っている酒を一気に飲む。

試合のルールは明日も今日と同じで二人組での戦いになる。

そのため、補助魔法が使えないオレグの出番はない。

話題は心也のスキルについて変わった。


「それにしても凄いスキルじゃねか!」

「あ、はい」

「あの騎士団長がその場にいたように見えたぜ!」


ジンが質問する。


「技を真似したのか?」

「真似たというより……なんていうのか……団長になったというか……」


心也は自分の手を見る。


「まだはっきりしてないのか」

「はい……」

「なるほどな、俺も最初の頃はそんな感じだったな。自分が持っているチカラを最初から知ってたわけじゃない。徐々に知っていけばいいさ」

「はい!」


心也はジンからの励ましの言葉に少し驚く。


勇者になれるのは一人だと聞いていたので

英雄同士はもっとギスギスしているものだと思ってた

でも、ジンさんは何かと面倒見の良いお兄さんってイメージだ


「中には突然、覚醒する者もいるみたいだよ」

「そうなんですか?」

「サシャ、それは稀な話だな」


今まで黙って頷いていた陽が軽く手を挙げながら質問する。


「あの、すみません。質問があるのですが」

「なになに?」


サシャが食い気味に聞いてくる。


「あ、えっと。この世界には竜がいるのでしょうか?」

「どこでそれを?」

「この世界の書物で見かけました。あとはこの国には壊れかけた竜の銅像があちらこちらにあります」


聖天王国には竜と思われる銅像が至る所にある。


そういえば、闘技場にもあった気がする

でも、陽の言うように壊れていた


「なるほどな、君のスキルは召喚系だったな」

「え、はい」

「この世界に竜は存在している。正確には存在していた」

「存在していた?」

「あぁ、今は亡き勇者と英雄はどちらも竜のチカラが使えた。一つ前か前回の帝国の英雄は竜を召喚するチカラがあった」

「竜を召喚……」

「そうだ。同じ系統である君ももしかしたらーー」


酔っ払ったオレグが話に割って入る。


「竜がこの世界を創ったって言われているだ!」

「オレグ。ここは聖天王国だ。あまり大きな声でそういう事は言うべきじゃない」

「何かまずいのですか?」

「創造主というものは国によって大きく異なるんだ。聖天王国の場合、神がこの世界を創った事になっている」

「神……」

「まぁ、竜について知りたいなら、ナトゥーア邦国を訪ねるといい。あそこはオレグの言うように竜がこの世界を創ったと主張している」

「わかりました!ありがとうございます!」


ジンは立ち上がる。


「さて、明日に備えてこの辺で帰るかな。二人とも相手はグレースだと思うが、頑張れよ。俺も君らと戦ってみたいからな」

「はい!」


ユリアがオレグに肩を貸す。


「ほら、オレグ帰るよ」

「ここは私が払っておくから」


と言いながらサシャが笑顔を見せる。


「ごちそうさまです!」


ジン達が出て行くのを見送り、心也と陽も帰路についた。




すっかり日は落ち、夜になったグレー森林の中を歩く英雄ゼロと三姉妹の姿があった。

城に戻ったゼロは三姉妹にさらに強くなる方法があると教えられ、グレー森林に来ていた。


そろそろ山のふもとになるが、どこまで行くつもりだ

それにここまで魔物に遭遇していない

魔物も夜は寝るのか?


先頭を歩く長女のラブが足を止める。


「おい、何か見つけたのか?」


ゼロは目の前に人がいる事に気が付き、顔が険しくなる。


「おまえらは……!なぜ、ここに!?」


目の前には見覚えのある赤髪と青髪の美少女が立っていた。


「にゃはは!ひさしぶりー!」

「ここで何をしている?」


ここはライン山脈のすぐ近くだ

ランクフォーであるこの二人だけで来れる場所ではない


「なにって、きみをまってた!」

「なんだと?俺を?どういう事だ!」

「え、つれてきてもらった!そこのかのじょたちに!ありがとう!」


ゼロはリリに指を指された者達を見る。


「は?どういう事だ!」


俺がここに来たのもさらに強くなれる方法があるかもしれないとこの女どもが提案したからだ


「ち、違うのです!強くなる方法を教えてくれると言われましたので!それで……」


三女であるアムールが頭を下げながら言う。


「俺よりランクの低い奴らから何か教わる事があるとでも?」

「し、しかし……」


脳裏に闘技場の出来事が浮かんでくる。

ゼロは苛立ちを覚える。


俺は負けてなどいない!

油断しただけだ!

それに手加減もしていた!


「この前の俺が本気だったとでも!?」

「い、いえ!」


この女どもの身勝手さに嫌気をしたが、良いことを思い付いた


「まぁ、いい機会だ。ここで俺の本気を見せてやるよ」

「ふーん」


リリが興味なさそうに呟く。


闘技場の時と同じだ

舐めやがって!

絶対に痛い目に合わせてやる!


「……戦わないの?」


今まで後ろで黙っていたルルが前に歩いてくる。


「うーん、パスかな」

「……そう、わかった」

「は?一人で戦うのか?」

「……興味がないみたい。だから仕方がない。それに私だけでも問題ない」

「興味がない?それに問題ないだと?一度、勝っただけで調子に乗るなよ!」

「……事実を言っただけ。そっちは四人で構わない」


ゼロは後ろにいる三姉妹に威圧して言う。


「一人で十分だ!お前らは邪魔するなよ!」


ゼロは相手と向き合う。


今、気が付いたが、闘技場で戦った時と装備が違う?


二人ともフード付きの黒いローブに身を包んでいる。

髪を結いでいる物も黒であり、黒で統一されている。

そして、武器であるはずの剣と杖を持っていない。

それどころか素手である。


どういうことだ……?


「おい!武器はどうした?」

「……武器?それならーー」


ルルは手を広げると空間から武器が現れる。

その手には見た事がない剣が握られていた。


空間から剣を!?

それにおかしな事がある


「冗談はよせ。魔法使いであるお前がそんな物を持ってどうする?」


ルルは首を傾げる。


「……私がいつ魔法使いだと言った?」


ゼロは驚いた顔をする。


何を言っているんだ……?

闘技場で魔法を使っていたのに魔法使いではないだと?


「……あら?」


ルルの持つ剣が輝くを放つ。

しかし、その輝くは失われていき、剣は何処かへ消えてしまった。


「な、なんだ!」

「……残念な事に貴方など斬る価値がないみたい」


そう言いながら、その辺に落ちていた木の枝を拾い上げる。


「は?なんだよそれ!それで、その木の枝で戦うというのか?」


「……これで十分」


木の枝を振り回しながら、答える。


「舐めやがって!俺の本気を見せてーー」


ゼロは途中で言うのをやめる。


奴が持っているのはただの木の枝なはず

なのに剣に見える……だと?

何かがおかしい

それになんだこれ

今まで感じたことのない感覚

体の震えが止まらない


その光景を目にしていた次女のリーベが泣き叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待って!!わ、私はあなたたちの言う通りにしたのよ!!ねぇぇ!!私は関係ない!!」


ルルは笑みを浮かべる。


「……うん。お陰で助かった」

「え?」


笑みを浮かべた人物を見ていたはずなのに夜空が見えた。

次に地面が目の前に迫った。


どさり


そして、自分の胴体らしい物が目に映る。


あれは私のからだ?


人生の最期、思ったのはただそれだけだった。


何が起こった……?

先まで目の前にいた人物が俺と後ろにいる女どもの間にいる

しかも木の枝で首を切ったというのか


思いもしなかった出来事にゼロの体が硬直する。

ルルはゼロに見向きもせずに姉妹へ近づく。

姉妹は恐怖で後退りする。


「……人が死ぬところを見たのは初めて?」


声の代わりに二人の首が上下に動く。


ごろり


二つの首が地面に落ち、首を無くした胴体から血しぶきが上がる。

二人の姉妹の最期。

目に映ったのは見下ろす美少女の笑顔だった。

胴体を無くした首を見つめて、ルルは呟く。


「……美しい」


死体を見つめて、美しいだと?


「……美しいでしょ?死に際に見せる最後の顔。最後に何を思って死ぬのか」


何を言ってやがる

狂っている


「……貴方はどんな顔をしてくれる?」


ルルはゼロの方にやっと目を向ける。

その目はとても冷たい目をしていた。

ゼロは恐怖のあまり叫んでしまう。


「うわああああ!!」


ゼロは慌てて、剣を取り、魔法を発動させる。


「レイジングブラスト!」


剣が光り、素早く連続で突きを繰り出す。

しかし、簡単に木の枝で受け止められる。


なに!?


腕に力を入れ、押そうとするが、逆に弾き返される。


木の枝に……俺より体の小さい者に力負けしただと!?


ゼロは地面に尻もちを付いてしまう。


俺はここで死ぬのか?

せっかく異世界転生したのに

美女を手に入れて、最強のチカラも手にしたのに

……最強のチカラ?

そうか!まだ終わりではない!まだ!


ゼロは立ち上がる。


まずは離れるべきだ!


全力で距離を取り、全力で魔法を使用する。


「ファイヤーボルト!」


命中した瞬間、大きな火柱が上がる。


ま、まだだ!

この程度では……


ゼロは続けて魔法を発動させる。


「サンダーボルト!」


稲妻が飛んでいき、広範囲に電気が流れる。


「やったか!?」

「……その言葉はフラグ」


ゼロは目を見開く。

ルルの周りには魔法で作られた障壁があり、ゼロの魔法は遮られていた。


「そうだったな、魔法も使えるんだったな」

「……違う。私じゃない」


ゼロの背後から笑い声が聞こえてくる。


「にゃははは!!」

「……やる気になったの?」


リリは目を輝かせながら、答える。


「うん!!」

「ま、まさか!魔法を使ったのは……」

「わたしだよ!」

「だが、お前は剣士だろ……?闘技場では剣を使っていたではないか?」

「え?つかってたけど、だれもけんしとは言ってないよ?あたしがとくいなのはまほう!んで、そっちはけんじゅつのほうがとくい!」


リリはルルを指差す。


「……勝手に教えない。情報漏洩」

「えーどちらにしろバレるって!」


得意分野が逆だっただというのか?


「ま、待て!じゃあ、あの闘技場の戦いはなんだったんだ!?」

「そりゃーてかげんだよー」

「手加減だと……?」

「そう!てかげんするこっちのみにもなってもらいたい!とくいなほうでのてかげんだとまちがえてころしてしまう!きみたちよわすぎるよ……」


リリははぁとため息をつく。


なんだよ、それ……


「それで得意じゃない方で戦ってたというのか」

「……他にも理由はある」

「はいはい、おはなしはおわり!それより、あのかおをまたみせてよ!」

「あの顔……?」

「いいかおだったよー!そのけんめいに生きようとするかお!美しい!」

「美しい……?」


こいつら、先から美しい美しいって一体……


「ということで、ここからはわたしがあいてをしてあげる!」


ッ!!


ゼロは息が詰まり、体が重くなるのを感じる。

目の前の人物から放たれている圧力。

そして、眼が青く光っている。

ゼロは今までが本当に手加減で遊びだったということを即座に理解した。


直感する

俺は死ぬ


だが、体が反応する。

突如、地面から伸びてきた氷柱をギリギリのところで避ける。

この世界に転生した時に得たスキル 究極体が死を予感した事でさらに昇華され、身体能力が向上する。

生物としての本能。

生きる為、存続する為にゼロのチカラはさらに強くなる。

次々に現れる氷柱を本能のままに避けていく。

懸命に生きようと抗う。


リリは満面の笑みを浮かべる。


「それそれ!そのかお!いっしょうけんめいにがんばる!美しい!!」


リリの周りの空間に複数の氷柱が作り出されている。

ゼロは飛んでくる氷柱をギリギリで左側に避ける。

しかし


……ん?なんだ?


ゼロは違和感を覚え、右腕を見ると一部が凍りついている。


避けたはずなのに……?なぜ?


「ざーねん!そのよけかたはふせいかい!さきのこうげきとはちょっとだけちがうだよね!」


この冷たさ……なるほど


「冷気か?」

「おお!いいね!いっしょうけんめいになると見えてくるせかいがかわるでしょ?」


悔しいが、奴が言っていることは正しいのかもしれない

一生懸命にやる事で今まで以上のチカラを発揮する事ができる

限界を超える事ができる


今のゼロは冷静であり、冴えていた。


それにしてもとんでもない奴だ

先から俺を攻撃しているのは魔法のはずなのに短縮詠唱どころか詠唱なしで発動している

詠唱なしの魔法など聞いた事がない


ゼロは深く息を吸い吐く。


また地面から氷柱が現れる。

次から次へと現れる氷柱を避けていたゼロだが、相手との距離を詰めるために無理矢理体制を変え、物凄い速さでリリの懐に飛び込む。

剣を突き出し、攻撃を仕掛ける。

高い身体能力があるからこそできる荒技。

体の一部が凍りかかているのにも関わらず、素早い動きであった。

不意を突いたと思ったが、避けられる。


避けられた?いや、いない


懐に入ることができたが、攻撃しようとした時にはもうそこには相手がいなかった。

体が反応し、飛んでくる氷柱を避けた事で相手との距離がまた遠くなる。

そして、またも体が凍る。


くそ!


飛んでくる氷柱の直撃は避けられても体の一部が凍ってしまう。

ギリギリに避けるのが精一杯でどうしても冷気には触れてしまう。


徐々にであるが、自分の体が鈍くなるのを感じる


「……楽しむのはいいけど、後の事がある。そろそろ」


遠くの方で見ていたルルがリリに話しかける。


「えー、ここからだのに!」

「……計画が第一」


計画?何の話だ?


「わかったよ!」

「何がなんだか知らないが、まだだ!これからだ!!」


と言ったもののどうすればいい?

剣で攻撃しようにも近づけたと思ったら相手はそこにいない

常に一定の距離を保たれている気がする

となると……

遠くからでも攻撃ができる魔法で対抗しよう

相手の方が上なのは理解している

現に自分の魔法はいとも簡単に防がれている

それでも他に方法がない


ゼロの足元が光り始め、魔法陣が展開し始める。

俺の最上級の魔法をぶつけてやる!

チカラよ……いまこそ!!


足元に別の光が重なる。

ゼロは自分のものではない事に気がついたが、すでに遅かった。

見た事がない魔法陣が一気に展開されていく。

回避行動をしようとするがすでに体は動かない。

氷の結晶のようなものにゼロの体は覆われていく。


しまった!なんだこれは……

寒くはないが、体が全く動かない!



「にゃはは!!またわたしのかち!」

「なんだこれは!?」


どうやら、話す事はできるみたいだ


「ん?ふういんまほう!」

「は?」


封印だと?


「ころすわけにはいかないからねー」

「どういうことだ?」

「……今ここであなたを殺したら、また別の異世界転生者が召喚される。そうなると面倒。だから、殺しはしない」


ルルがゼロの方に近づきながら、答える。


別の異世界転生?


「ちょっとまて!どういう事だ!」

「……それがこの世界のルール。あなたがこの世界に転生されたのも前の異世界転生者が死んだから」

「なんだよそれ……俺が死んでも代わりがいるって言うのか!使い捨てって事かよ!」

「ま〜そういうことになるね!」

「それで俺をこのままここに永年と封印しているつもりか!」

「……そんな事はない。その時が来たら封印は解かれる」


リリとルルは目と目を合わせている。


な、なんだ?


「とにかく!きみにはとうぶんここにいてもらう!」

「ここにって……」


ゼロは周りを見渡し、倒れている三人の女性の死体を見つける。

首と胴体が切り離された死体。

思わず、目を逸らしてしまう。


「あ、あれはどうするつもりだ!あれでも王の娘どもだぞ!」

「あ〜あれにはあれでつかいみちがあるから!」


使い道がある?

どう使うというのだ?

計画の為か?

計画……?待ってよ……


「な、なあ!俺もその計画というやつに協力するよ!人手は多い方が何かといいだろ?」

「……計画?私達の協力者になりたいと?」

「そ、そうだ!俺は強い!何かと役に立つよ!だからーー」

「え、つよい?にどもまけたのに?」


ゼロは思わず黙ってしまう。


「……貴方は自分が負けた原因を理解してる?」

「ち、チカラの差だろ?お前たちの方が強かった……だから、負けた」

「はぁ……だめだこれ」


リリはため息をつく。


「な、なんだと?」

「……貴方が持つチカラはこの世界では最高の地位。並大抵の相手には負ける事はない。しかし、いくらチートと呼ばれる強さがあっても知識、経験がなければ、有効に使う事はできない。実際にあなたはあの氷柱も最後のこれの避け方も知らなかった。知っていれば、対策はできた」

「しってるってだいじだよね!」

「何言ってんだ!?これに対策があるというのかよ!」

「……少なくとも私は知っている。本来、異世界転生者は前世の記憶があるからこそ、他より有利。貴方は前世で何を知った?何を学んだ?何を経験した?」

「………」


前世では何をしていたのだろうか

子どもの頃は何か得意なことがあったはずだが、記憶にない

いつのまにかに周りに流され、合わせてた気がする

でもそれがとても楽だった

自分で考える事をやめて、誰かの言う事だけを聞いてた

ただただ何も考えずに毎日、変わらない日常を繰り返して生きてたんだ

果たして、そこに何の意味が?

自分の今までしてきた事に腹ただしく思った


「らくだよね!じぶんではかんがえずにおなじことをくりかえすだけなの」

「は?」

「わたしはかみにかいてあるでーたをそのままにゅうりょくするだけなんてつまらないし、じぶんのためにならないとおもうけどなー」


ちょっとまて


「……自分の意見は言わずに周りに合わせる。趣味すら、興味があるわけではないのに他人と話を合わす為にアニメとか漫画を見ている」


何を言っているんだ?


「そ、それは俺の事を言っているのか?」

「あれ?ちがってた?」

「い、いや……なんで知ってる?なんで俺の事を……」

「……先も言ったはず。知識、経験は大事だと。私達が強いのはそれを持ち合わせているから。あらゆる事を知っている。そして経験してる」


ルルの目が先程のリリのように青く光る。


「……私達が見ている世界はこの世界だけじゃない。あらゆる世界を見て知ってる。鈴木賢一さん貴方が負けた理由が分かった?」


それは前世の俺の名前……


「な、なんだ、よ……それ、そん、なのあ、りえな、い」

「それがありえるだよね!」

「お、まえ…たちは何者な、んだ…?」


あれ……?意識が……


ゼロは氷の結晶の中で眠るように意識が無くなった。


「……我々は世界を管理する者」


最後の問いに対する答えが聞こえる事はなかった。


「さてと、どうする?」

「……結界は?」

「まだこうりょくあるよ!でも、いまのわたしはつよいけっかいをつくれないからみられているとおもう!」

「……見られる分には問題ない。会話までは聞こえないでしょ?」

「うん!」


今回はベネガル帝国の英雄を確保する為に王の娘である三姉妹を利用した

事前に三姉妹にはグレー森林の奥で待っているから連れて来るように伝えた

途中で邪魔が入ると困るのでグレー森林にいる魔物は予め片付けておいた

そして、リリが結界を創る事でこちらの情報を遮断する

あとは英雄を確保し、この後の為に三姉妹は殺す

これが今回の一連の流れ

イレギュラーはない


「それにしてもさ!」

「……なに?」

「これでなんかいめだっけ?ぜんせでへいぼんなものにつよいちからをあたえててんせいさせるの」

「……全体で合わせたら物凄い数」

「ちゃんとちからをあつかえるものがすくなすぎるよ!」

「……それは仕方がない。そういうもの。別に扱えなくても使い道があるから転生させてるだけ。それにイレギュラーで扱えるものもたまにいる」

「そうだけどさ、なんかね」

「……気にする事ない。ほら、次の計画に移ろう?」

「わかったよ」


夜は明け、日差しが差し込み始めていた。

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