第2話 魔王
戦闘が始まってから、数分が過ぎた。
アリシリアは自分が召喚したモノが勇者、魔王と戦っているのを眺めている。
アリシリアの青い眼がさらに青く光を放ち始める。
慧眼。
この青く光る眼は見るだけであらゆる情報を得る事ができる。
現在のアリシリアが所持している能力の一つである。
頭の中で、ワールドレコードと慧眼で得た情報を簡易にまとめる。
神山 勇希。聖天王国の英雄であったが、現在は勇者。人間にしては高い身体能力の持ち主で、加護と言われる特殊なスキルを使う。装備は聖剣と盾に純白の鎧。
ミア ラバーナ。ベネガル帝国の英雄であり、攻撃的な魔法を扱う魔法使い。得意な魔法属性は火。装備は魔法の杖と炎から身を守る赤いローブ。
ソフィア グランス。聖天王国の聖女であり、補助魔法(アシストマジック)や回復魔法(リカバリーマジック)を扱う魔法使い。得意な魔法属性は光。装備は魔法の杖と白いローブ。
服部 半蔵。ナトゥーア邦国にある里の出身であり、忍びと呼ばれる者。敵を惑わす魔法を扱う。得意な魔法属性は無。装備は刀と手裏剣に黒の装束。
それと、魔王サタン、及び魔王ルシファーの使用する妖術やアビリティも把握済み
情報はなによりも重要なものであり、知っていれば、その対策ができる
しかし、知らないと対策はできない
知っているというだけで有利に立つ事ができる
さて……
あれだけ意気込んでいたのになかなか仕掛けて来ないですね
逃げるという選択もしないみたいですし……
まぁ、逃げたとしても逃がしませんが……
青色の眼がまた青い光を放つ。
あら、やっと仕掛けてきたみたいですね
計画通りにやりましょう
狙いは……
半蔵が煙玉をアリシリアの周辺にばら撒き、煙で視界を遮る。
煙の中から勇希が斬りかかってくるが、黒い勇者がそれを盾で防ぐ。
そして、何手か剣が交錯し、金属音が鳴り響く。
勇希はこれ以上は無駄だと判断し、後退する。
煙で視界を遮っても対応してくるな……
後ろにはミアが控えていた。
勇希が後退した瞬間、魔法を発動させる。
「ファイヤサイクル!」
アリシリアは足元から熱を感じ、その場所から移動する。
それを見たミアが満足気な表情と声が漏れる。
「よし!」
召喚魔法(サモンマジック)は魔法陣を展開しなくてはならない魔法。
そして、使用者はその上にいないと魔法の効果を持続できない。
また、召喚されたものの行動範囲は使用者の力量で範囲が決まる。
つまり、使用者を魔法陣から移動させれば魔法の効力は消えてしまうのだ。
先程から魔法陣の上にいた為、召喚魔法(サモンマジック)である可能性を考え、勇者達はこの戦法を選択した。
しかし、考えていた結果にならず、困惑する声に変わる。
「どうして!?召喚魔法(サモンマジック)の効果が消えないの……?」
魔法陣から移動させたはずなのに、魔法陣が消えておらず、召喚されたモノも消えていなかった。
「おいおい、話がちゃうやんけ!」
使用者を魔法陣から移動させれば、効果は消えるはずだが……
やはり、魔法ではないというのか?
なら、何だというのだ……
黒い物体達を観察すると、異変に気がつく。
なんだ?動きが止まった?
先まで武器を構え、こちらを警戒していたのに今は何もしてない
魔王サタン達の方にいる黒いモノも動きが止まっている。
どういうことだ?
魔法陣から移動させた効果があったということか?
アリシリアが右手を挙げるのが視界に入る。
その瞬間、アリシリアの周りの空間に無数の剣が現れる。
なに!?
……まずい!!
勇希は察知し、反射的に体が動く。
目の前に突如、剣が現れ、斬りかかってくる。
勇希は盾で刃を受け止め、後ろにジャンプしながら、退がる。
それを追うように空間に剣が次々と現れ、斬りかかってくる。
その斬撃を上手く防ぎながら、地面に着地する。
「みんな注意しろ!」
なんだ今のは!?
剣を召喚した!?
「次は剣の召喚かい!」
「今のも魔法なの!?」
くそっ、なんなんだ一体!
こんなの知らないぞ!
そう、知らないんだ……
空間に現れた剣が消えると、次は黒い勇者が攻撃をしてくる。
くそ!今度はこっちか!
盾を使い攻撃を防ぐ。
あの女に近寄ることすらできない!
どうすればいい!?
考えろ!考えるんだ!!
何か策はあるはず……!
俺たちは冒険者だ!未知を探求する冒険者だ!
「サタン、あれは何者だ?」
魔王ルシファーが魔王サタンに駆け寄る。
今まで戦ってた黒いモノが突然動かなくなった。
「わからん。だが、あいつらの増援ではなさそうだな」
まさか、自分自身と戦うことになるとは思いもしなかった……
アリシリアという美女はこちらに目もくれず、勇者共と戦っている
本当に何者だ?
いきなり何もない所から現れ、自分と同じ姿に変化する黒い物体を召喚した
どれほどの力を持っているのか分からないが、戦いを見る限り、まだ余力がありそうな感じだ
勇者共の攻撃があの美女には、かすりもしない
それどころか、今は変化した黒い物体と空間に現れる剣に戸惑っていて近づくことすらできてないではないか……
美女の方はまるで傍観者のように眺めているだけだ
どさり
何かが倒れる音がする。
音がした方に視線を移すと、そこには床の上に倒れている魔王ルシファーの姿があった。
「ルシファー!どうした!?」
何が起こった……?
視線を感じ、顔を上げるとあの美女がこちらを見ていた。
青い瞳がさらに青い光を放っている。
次の瞬間、今まで動いていなかった黒いサタンが攻撃をしてきた。
いきなりの出来事に反応が遅れ、体にダメージを負う。
「くっ……!!」
油断をした……!
自分で言うのもなんだが、素晴らしい攻撃だ!
苦痛を感じるが、体勢は崩れない。
そして、魔王サタンの持つアビリティが発動する。
アビリティ 自己再生
このアビリティは文字通り、受けた傷を即座に治すことができる。
傷口はすぐに元通りになる。
「おい!ルシファー!大丈夫か!?」
黒いサタンの攻撃を避けながら、もう一度、声をかけるが反応がない。
おかしいぞ
生命反応は感じる……
死んではいないはずだが……
「貴様!何をした!?」
「彼には、まだ利用価値がありますので」
利用価値だと?
黒いサタンは攻撃をやめ、その場で動かなくなる。
なんだ?
また、攻撃をやめて動かなくなった?
アリシリアは右手を魔王サタンの方へ向ける。
空間から現れた剣が魔王サタンへ襲いかかった。
今度は剣か!
だが、その程度の攻撃など!
魔王サタンは剣の斬撃を自身の肉体で受け止める。
「くっぅ……!」
ダメージを負うが、即座に治癒する。
そして、魔王サタンの持つ別のアビリティが発動する。
アビリティ 血の代償
このアビリティはダメージを負う度に自身の身体能力を強化することができる。
血管のように全身に張り巡らせている赤い線がさらに広がり、サタンの体は炎のように赤くなる。
魔王サタンのようにアビリティを一つだけではなく、複数所持している魔族は数少ない。
これが魔王と呼ばれる存在の強さでもある。
ここで死ぬわけにはいかないのだ!
仲間の敵討ちのためにも勇者を叩きのめす!
俺は交渉事が苦手だった
人間の国に一番近いこの領土は他の魔王たちにはめられ、手にしたものだった
知能は劣るかもしれないが、武力なら他の魔王たちよりも優れている自覚がある!
この武力で今までこの国を同朋たちを守ってきたのだ!
得意な攻撃は近接!
直接殴るに限る……!
チカラこそパワー!
「妖術 形状変化!」
魔王サタンの指が刃物のように変化する。
血の代償で向上した身体能力を活かし、無数の剣の中をかわしながら、アリシリアに向かって進む。
近づく連れて、場の空気が変化していくのを感じる。
なんという威圧感だ
それに体が重くなっている?
だか、あと少しで攻撃が届く距離だ!
剣の数がさらに増える。
さらに数が増えただと!?
圧倒され、体勢が崩れていき、体の所々を斬られていく。
アビリティを発動し、傷が癒え、身体能力がさらに強化される。
やはり、まだ力を出し切ってなかったか!
だが、治癒は追いつく!
さらに力が湧いてくる!
「何度、攻撃しても無駄だぞ?それにダメージを負う度に、さらに俺は強くなっていくぞ!」
「貴方……自分自身の能力をちゃんと理解してますか?」
「何?自分自身のことだぞ!当たり前だ!」
「そうですか……」
さらに向上した身体能力で魔王サタンは高速で動き、アリシリアに攻撃を仕掛けようとするが、無数の剣が魔王サタンを襲う。
そのため、魔王サタンの攻撃は剣が邪魔でアリシリアには届かない。
くそぉ!!どうなってる!?
この速さにも付いてくるのか……
魔王サタンは周りにある剣を消し飛ばす。
消えていく剣が光の粒子となり、辺りを輝かせる。
しかし、また同じように空間に剣が現れる。
くそぉ!!キリがない!!
魔族の強みである身体能力を持ってしても苦戦を強いられる。
捌ききれなかった斬撃がサタンの体を傷つける。
また、アビリティを発動し、傷が癒え、さらに体が赤くなる。
なんだ?体が熱くなったきたな……
そういえば、このアビリティをこんなに使うのは初めてだ
だが、強化されたことで徐々に押していけている!
剣が増えるよりも減る方が増してくる。
魔王サタンの攻撃がアリシリアの目前まで迫った。
よし、あと少しだ……
喰らええ!!
アリシリアは笑みを浮かべる。
なんだ……!?
突如、魔王サタンの体に異変が起こった。
先まで動いていた体が動かない。
どうした……?なぜ、動かない?
まさか……!?
魔王サタンが気がついた時にはもう遅かった。
そして、一本の剣が魔王サタンの体を貫く。
「安心してください。あとは私にお任せを。貴方の想いは私がーー」
何を言って……やがる……想いだ…と?…意味がわからん……
くそぉ……
皆、すまない
だがな、貴様も道連れだ……!
膨大なエネルギーによって、魔王サタンの体は制御できなくなり、赤く膨れ上がっていく。
そして、大爆発を起こす。
魔王サタンは木っ端微塵に吹き飛ぶ。
勇者たちは爆発の衝撃に耐えようと身をかがめる。
「魔王サタンが倒された……?」
あの爆発を至近距離に受けたということはあの者も……
「あなた方がのんびりしていたので代わりに倒しました」
爆煙の中から声が聞こえてくる。
アリシリアの周りには謎の空間があり、爆発はその空間に遮られていた。
「一体なんなんだ……」
今の爆発でも無傷……
「流石に粉々にしてしまえば、再生はできないみたいですね。勇者様が考えていた通りです」
驚異の再生能力のある魔王サタンを倒すためには、再生ができない程のダメージを与えればいい
俺たちはそれを自らが出せる最大火力でやるつもりだった
だが、目の前のこの女は魔王サタンのもう一つのアビリティを逆手に取り、利用したのだ
「感服したよ、その通りだ」
「知っていれば、誰でも攻略できます。さて、次はあなた方の番です」
やはり、俺たちも倒すというのか
勇希たちは身構えた。
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