第7話 魔族

ここはエン・ヘリアルの隣にある魔族の国、ストレインの領地内である。

ストレインは魔王ルシファーの領地であるため、同盟関係であるエン・ヘリアルの生き残りは急遽、ここに避難していた。

その避難している者達のために木を運び、家を造っている者が沢山いる。

また、怪我を負った者を手当する者もいる。

そんな慌ただしい中を女の子が周りを見渡しながら、歩いている。

女の子の名前はエリーナ。

黒い髪に犬のような耳があり、赤い瞳の幼い女の子。

エン・ヘリアルの住む魔族は獣人と呼ばれる者であり、犬のような耳があるのが特徴である。

先の人間達の襲撃を受けた生き残りで絶体絶命の所を白と黒の髪の美女に助けられた。


「ナンダイ?サガシモノカ?」


エリーナの肩に乗っている黒い兎が喋りかけてくる。


「べつに」


と言ったけど、黒い兎さんの言う通り、探している御方がいる


「おーーい!!エリーナ!!」


遠くの方で誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる


「……!無事だったのね!リック!」

「当たり前よ!なんだって、おれは無敵最強だからな!」


エリーナと同じ年頃の男の子が力こぶを作るポーズをする。

名前はリック。

栗色の髪のやんちゃな男の子でいつも一緒に町で遊んでいる。


町……


エリーナの脳内に町での出来事がフラッシュバックする。


「何を強気なことを言ってるだ?べそかいてたくせによ」

「なっ!泣いてなんかないし!」


リックの後ろにいる男性が声をかける。


「おじさん!無事で良かった!」


腕に巻かれている包帯を見せながら、言う。


「へっへっ……この様だが、この通り生きとるわ」


今度はおじさんの隣にいる女性が言う。


「怪我はないかい!?」

「ゔん!おばさんも!わたしは大丈夫!」


安堵からか、自然と涙が出てしまう。

このおじさんとおばさんはリックの親であり、エリーナの育ての親である。

エリーナには生まれた時の記憶がなく、産みの親が誰なのか知らない。


「やーい!泣き虫エリーナ!」

「な、泣いてないもん!!」


リックと言い合いをしているとおじさんが問いかける。


「エリーナよ、その肩に乗ってるのは何だい?」

「え?あ、えっと……あなたって、名前あるの?」


エリーナは自分の肩に乗っている黒い兎に話しかける。

しかし、黒い兎は動きもせず、返事もしない。


さっきまであんなにうるさかったのに……


「わっ!!」


突然、背後から声をかけられ、エリーナは飛び跳ねる。


「あはは!!元気!?エリちゃん!!」


後ろには同じ年頃の女の子がいた。

名前はレニ。

白銀の綺麗な長い髪であり、元気いっぱいで活発な女の子だ


「あなたは相変わらず、元気そうね。無事で良かったよ」


二人はお互いに抱きしめ合う。


「あんなニンゲンどもに捕まるものか!」

「うん、そうだね」


ぐううとエリーナのお腹が鳴り、二人は顔を見合わせて笑う。


「えへへ……お腹が空いちゃったみたい」

「全くエリちゃんは!食べ物なら、向こうの方で配ってるよ!」


レニは指を指しながら、説明する。


「ほんとに!?ありがとう!ちょっと貰ってくるね!」

「うん!」


エリーナは歩きながら、黒い兎に話しかける。


「ねぇ……なんで黙ってるの?」

「ハナスリユウガナイ」

「なによ、それ」


エリーナはため息をする。


「それに私もあなたの名前を知らないのだけどーー」

「ナマエハナイ」

「えっ」

「ナマエハシュジンカラモラウモノ。ヨッテ、ムスメ。オマエサンガキメロ」

「ええ……私が?どうしよう……」

「ベツニオモイツカナイナラ、ヒツヨウナイ」

「うーん……でも、名前がないと不便だよ?考えておくね!」


エリーナは良い匂いがする方へ歩いた。





大きな城の中を歩く音が響く。

ルシファーは横目で隣にいる人物を見る。

黒と白で分かれたツートンカラーの髪に透き通る白い肌と青い瞳。

そして、黒と白の尻尾。

絶世の美女とはこのことを言うのだと、改めて思う。

目が覚めた時、この女が手を取り、起こしてくれた。


どうやら、私は戦いの最中、気を失い倒れたらしい

そのため、記憶が曖昧で倒れる前のことを覚えていることが少ない


周りを見渡せば、盟友であるサタンは跡形もなくバラバラになっており、対峙していた勇者どもが床に倒れていた。


この女が言うにはサタンは勇者どもに殺されたため、敵討ちで勇者どもを殺したらしい

何がどうなっているのか、理解できていないが、この女性が嘘を言っている感じがしない

言葉で言い表せないが、とにかく嘘ではない気がするのだ

それに、この女からは強者である雰囲気が漂ってくる

勇者どもを殺したというのも納得がいくのだ

たが、この女はどこから現れたのか……

そもそも、何者だ?

サタンにこんな美人がいたと言うのなら、盟友である私が知らないはずがない……

一体……


思考していると目的の場所に到着する。

二人は大きな扉の前で立ち止まる。


「ここですか?」

「はい、今回の出来事は断片的ですが、事前に伝えてあります」

「そうですか、ではーー」


ルシファーの体が動き、扉を開ける。


大きな部屋の中心には長い細い机があり、その周りに椅子がある。

そこには五体の異形が座っていた。

その五体が一斉にこちらに目を向ける。


この五体は魔族の国の頂点

つまり、私と同じ魔王だ

異様な雰囲気だ


定期的に行われている会議の場に見知らぬ部外者が現れたのだから、皆が威圧をしていた。

だが、一緒に部屋に入ってきた女は何事もなかったように話し出す。


「あなた方が魔王ですか?」

「おい。ルシファー、そいつが例の者か?」

「はい。この方はーー」


説明しようとしたが、遮られる。


「結論から言います。私は魔王になるためにここに来ました」


異形の一体が笑みを浮かべ、舌なめずりをしながら言う。


「なるほどね〜失った枠を埋めてくれるってことね〜」


別の異形が首を横に振り、反対する。


「ならん!ならん!いきなり現れた素性もわからん者に務まるものではないわ!」

「しかし、サタンの枠は早々に埋めるべきなのではありませぬか?」

「魔王とは!魔王とは!絶対的支配者であり、強者ではなくてならん!貴様からーー」


アリシリアは威圧感を放ちながら、言う。


「何か、問題がありますか?」


その場が静まり、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。


「ほう。どうやらおまえは強者側みたいだ、俺様は賛成だぞ。サタンの枠を埋めてくれるならな」


腕を組み、堂々と椅子に腰掛ける異形はアリシリアの尻尾を見ながら言う。


「素性はわからんが、魔族であることは明白」

「尻尾があるということは〜魔族ということ〜でも〜見覚えがないのよね〜どちらかというとニンゲンに近いような〜あなた〜名はあるの〜?」

「名はアリシリア」


その名を聞いた途端、場の空気が一変する。

その場にいる全ての者が席を立ち、身構える。

先程の威圧とは比べものにならない圧力であり、とてつもない存在感をその場にいる者達は感じた。


「あら?どうしたのですか?戦いに来たわけではありませんよ」

「そ、そうよね〜いい名だわ。でも、サタンの名を引き継ぐのかしら〜?」

「引き継ぐ?」

「あ〜えっとね、魔王になる者は代々受け継がれてきた名を名乗る権利がもらえるの〜名乗るかどうかは自由に決められるわ〜」

「なら、私は自分の名を名乗ります」


アリシリアは即答する。


「あら〜残念、魔王の名を名乗れることは名誉あることなのよ〜皆、魔王の名に畏怖し〜思うがままよ〜」

「か、勝手なことを!勝手なことを!まだ魔王に任命した訳じゃーー」

「何を頑固な事を言っているの〜?貴方も感じたでしょ〜?強さは間違えなく本物よ〜それに人間共のせいでサタンの跡継ぎは全滅したのでしょ〜?」


その場がまた静かになる。


言いたいことはわかる

だが、本当にこの素性も分からない者を魔王にしていいのだろうかーー


沈黙を破ったのは小太りの異形だった。


「オデも素性のわからない者でしたが、今では魔王の一角ですな。先程、強者だと言っていたではありませぬか?むむむ?おかしいですな?」

「その通りだ、何を言っている。俺様は賛成だぞ?」


そう言い、周りを見渡し、様子を伺う。


「わかった!わかった!いいだろう!しかし、魔王を名乗る以上、その名に恥じない行動を頼むぞ!」

「ご心配なく。ところであなた方の名は?それぞれ魔王の名があるのでしょう?」


アリシリアは微笑みながら、言う。


「まだ名乗ってなかったな。俺様の名はベルゼブブ。インゼックトの魔王だ」


椅子に堂々と腰掛ける異形は頭にハサミのような大きな角があり、身体のあらゆる所にトゲがある。

そして、マントのような大きな羽が特徴的であり、ベースはオレンジ色で細部が黒色である。


「わたしは〜レヴィアタンよ〜ル・ペッシュという魔国の魔王〜」


肌は褐色で海藻のようなヒラヒラしている服に身を包み、服から溢れそうな胸がある。

髪は白色で長く、体には青色の鱗が所々にあり、輝いている。


「オデはマモン、オーロ・オール魔国の魔王ですな」


小太りである身体は金の財宝で覆っており、黄金に光っている。

時折、指にはめている指輪を大事そうに触る仕草をしている。


「ドーソの魔王、ドーソの魔王!アスモデウスだ!」


紫色の全身フルプレートの鎧を着ており、顔も鎧で見えない。

そして、特徴的な大きな剣を背負っている。


「ふわぁ……あ、やっと話が終わった……僕はベルフェゴール……スロウスの魔王」


欠伸をする異形の頭には巻き角がある。

翼もあるが、下に垂れ下がっており、やる気の無さを感じさせる。


「一応、私も名乗らせてもらいます。ストレインの魔王、ルシファーです」


ルシファーは軽く会釈する。


「これで私は魔王ということですか?」


アリシリアの問いにベルゼブブが答える。


「そうなるな、ところでどうするつもりだ?」

「どうするとは?」

「ニンゲン共に取られた土地のことだ。魔王になったとはいえ、今のままでは統治する土地はないぞ」

「そのことなら、大丈夫です。取り返しますので」

「ほう。どうやって?」

「それはこれからのお楽しみということで……魔王になる目的は果たせましたので、今回はこの辺で。皆様これからよろしくお願いします」


そう言うとアリシリアはルシファーに目を向け、この場から去ろうとする。

入ってきた時と同じようにルシファーが扉を開け、二人は退室して行った。

この行動を見て、皆が疑念を抱いた。


「あのルシファーが手玉にとられているよう見えたのは俺様だけか?」

「主従関係のようでしたな」

「命を救われた〜みたいなこと言ってたし〜その恩とかじゃないの〜?意外とそういうところは律儀だし〜」

「恩は恩で!恩は恩で!返さなくてはならない!」

「ふわぁ……僕はどっちでもいいけど」



来た通路を歩きながら、アリシリアが聞く。


「生き残りはどちらですか?貴方の領地内に避難したようですが」

「これから避難場所に案内します」


ルシファーは案内するためにアリシリアの前を歩く。


「ええ、お願いするわ」


アリシリアは思う。


やはり、こちらは簡単に魔王になれましたね

さて、ここからは様々な分岐点があるのですが……

どれにしましょうか


ルシファーの後ろ姿を見ながら、アリシリアは笑みを浮かべる。

アリシリアは満足そうにルシファーの後ろを歩く。


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