第8話 最強
リリとルルは依頼を終え、集会所に帰ってきた。
依頼品と討伐依頼であったリーフスネークの素材の一部を受付嬢に確認してもらっている。
「ご確認しました。お見事です!こんなに早くリーフスネークを討伐するなんて!」
受付嬢は目を輝かせながら言う。
「こちらは報酬のゼニとなります。それと、リーフスネークを討伐しましたので、ランクツーに昇格できます」
その後、鑑定士によってランクを上げてもらった二人はランクツーへとなり、首元には星が二つ刻まれた。
「……ん」
街中を歩きながら、ルルはリリに手のひらを見せる。
「え?」
リリは差し出された手を握る。
「……そうじゃない。貸したお金」
ルルは頬を赤らめながら、俯く。
「あ!そうだった!ありがとうね!」
リリはゼニを取り出し、ルルに渡す。
「……うん」
「そうだ!!そうびやにいこう!!」
「……装備屋?」
「うん!!あたらしいそうびがひつようでしょ?」
ルルは自分の装備を見る。
次にリリの服装を見て、ルルは眉をひそめる。
正直、装備に関してはそこまで気にしてない
どのような装備であろうと元々ある自分自身の能力だけでどうにでもできる
しかし、ルルは思う。
次からランクツーやランクスリー等の依頼をしなければならない
その時に装備が初期のままでは怪しまれるだろう
それに報酬でゼニも手に入ったし、装備を新しくしてもいいかもしれない
そう、決してかっこ良い装備が欲しい訳ではない……そう、決して……
「……いいかも」
「ほら!!いこう!!」
二人はサエティにある装備屋にやって来た。
「もうランクツーになったのか、すげぇな嬢ちゃん!まぁ、俺の装備のおかげかなぁ?」
「そうだね!!かっこいいそうびだからね!!」
「お、おう……見た目だけではないだがなぁ……」
「それよりもあたらしいそうびがほしいのだけど!」
「もう装備を新しくするのかい!?」
「……いえ、私のです」
装備屋のおっちゃんはルルの方に目を向ける。
「そういうことか!魔法使いだったな、待っとれ」
しばらくして戻ってきた装備屋のおっちゃんの手には、杖とローブがあった。
その杖とローブをルルに渡す。
「その杖はランクスリー領域内で取れる鉱石が埋め込んである」
杖の先端辺りに光る宝石がある。
「そっちのローブもランクスリー領域内で取れる素材で作られたものだ」
「ええーいいなぁ!」
リリが羨ましそうに言う。
「おまえさんのもランクスリー領域内の素材で作った物だぞ!本来なら冒険者になりたての者には売らない代物だが、特別だっただからな!」
「……これでいい。いくら?」
「今回も特別価格だ!合わせて1000ゼニでどうだ?」
「えっあたしのときよりやすい!!」
「……うん、それなら買う」
ルルは1000ゼニを差し出す。
「毎度あり!」
ルルの後ろにいるリリがずるい!と嘆いている。
「ところでよ、新しい英雄が現れたらしいぞ」
「らしいね!まちでたくさんのひとがはなしてたよ!」
「……新たな英雄」
この世界の者達は異世界転生者の事を英雄と呼んでいる
新しい異世界転生者が現れたという事は前の異世界転生者は死んだという事
それなのにこの世界の者達は悲しむ様子がなく、すぐに新たな英雄について話をしている
まるで壊れてしまった物を新しい物に取り替えたような感覚
「噂だが、ベネガル帝国の英雄はかなりの実力者って話だ!」
「じつりょくしゃ?つよいってこと?」
「あぁ、歴代最強じゃないかって言われている」
「ほぉーいつかあってみたい!」
「……情報ありがとうございます。そろそろ行こう」
「そうだね!おっちゃんありがとう!」
「おう!また来いよ!」
装備屋を出るとリリがルルに聞く。
「どうかした?」
「……この世界の人々は異世界転生者を物扱いしている」
「あぁーたしかにそんなかんじするね!でさーそのいせかいてんせいしゃはどうする?」
「……情報はある。でも、実際に目で見てからどうするか判断する」
「ほーい」
今回の計画は異世界転生者の扱い方が重要に
なってくる
数多の可能性から我々が求める一番良い結果にしなくてはならない
この国の王が人間の国で一番でかいと自負する城に一通の伝聞が届いた。
「国王様、聖天王国の異世界転生者達の詳細が送られてきました」
ベネガル帝国の王であるラサール ジョイス ウェイド ウォーレン国王は焦っていた。
人間の国は聖天王国、ベネガル帝国の二つ大国が権力争いをしている。
武力による争いではなく、どちらの国が人間の国の中で一番優れているかの争いである。
そのため、異世界転生者の強さは極めて重要な判断材料となる。
前回の転生の時も勇者になった異世界転生者を引き当て、その勇者の力で魔族の国まで侵攻した。
そして、魔族から占領した土地のほとんどは勇者を有する聖天王国の物となっている。
今のままでは聖天王国が人間の国の中で一番なのは誰の目から見ても明白であった。
勇者が死んだ事によって我が帝国にチャンスが来たと思ったが、まさか異世界転生者を二人も召喚するとは……
「聖天王国め……!!異世界転生者を二人も……!!くそ!!読み上げろ!!」
「はっ…!名前は男の方が大空心也。女の方が有江陽です。どちらも魔力及び身体能力は平均であり、特別優れているわけではありません。ただ、スキルは所持しているとの事です。男の方がスキル名 繋ぐ心。女の方がスキル名 精霊召喚とのことです」
「はははっ」
国王は笑い声をあげる。
「強さは平均。我が帝国の新たな異世界転生者の敵ではない。はははっ」
「ですが、まだ安心はできません。スキルがございます。前の勇者も強力なスキルを持っておりました」
「ああ、その通りだ。だが、今回はこちらも強力なスキルを持っている。あの者が誰かに負ける事などない。我が帝国が主導権を得たのは確かだ!はははっ」
国王の部屋の扉が開かれる。
「おお!来たか!我が英雄よ!」
部屋に入ってきたのは異世界転生したゼロと名乗る男だった。
ゼロの後ろには三人の女がいる。
「どうだ?我が娘たちは?気に入ったか?」
「ああ、素晴らしい女達だ。それよりも頼んでおいた装備は何処だ?」
国王の側近が答える。
「そのことですが、ゼロ様。まだ完成しておりません」
「なに?」
「誠に申し訳ございません。材料が足りずーー」
「材料は魔物から手に入ると聞いたが、どこに行けば手に入る?」
「ランクファイブの領域に生息しております……」
「わかった、俺が今から倒しに行ってくる」
「はははっ、気合が入っているな、我が英雄よ」
「自分の力を試したいだけだ」
「そうか、そうか。あの森に行くのであれば、我が帝国の宝である剣を持っていくといい。おまえなら扱えるはずだ」
そういうと国王は側近に指示をする。
側近が持ってきた剣は二本あり、銀色の剣と金色の剣であった。
「どちらか一つを選べということか?」
「はははっ、そんな器の小さい事をするわけがないだろ?どっちらも持っていくといい」
「そうか、なら、有り難くいただく」
ゼロは二本の剣を手にして部屋を出て行く。
「頼むぞ、我が帝国の英雄よ」
ゼロと三人の女はグレー森林の中を歩いている。
異世界転生が本当にあったとは……
アニメとかだけの話ではなかったみたいだ
前の世界では何でもないご普通の生活を送っていたサラリーマンだった
いつものように通勤していたら、交通事故に巻き込まれてしまい、俺は死んでしまったらしい
これもよくあるアニメとかの話である
そして、暗闇の中で何者かに質問され、それに答えたら、よくわからないところに立っていた
この金髪もこの口調もその時に答えた結果みたいだ
俺は特技も趣味も無かった
アニメや漫画を観たり、ゲームをやったりしていたが、それは職場で他愛のない話をするためであり、職場の周りにそういった者達が多かっただけだった
興味があったかと言われれば他にやる事がないからと答える程度だ
本当に周りが、みんながやっていたからやってただけだ
しかし、その知識のおかげでここが異世界であることがなんとなくわかった
前の世界では冷めていたものが今では熱くなっている
とても不思議な感じだ
こんなにワクワクするのは生まれて初めてである!
体の奥深くから、何か熱いものが込み上げてくる!
鑑定士が言うには魔力も身体能力も俺は最強らしい
つまり、アニメや漫画のようにゲームのようにこの世界で無双する事ができるということだ!
それに……
ゼロは横目で連れている女達を見る。
国のお嬢様だけあって、それなりに綺麗であり、美人だ
女性と話をする機会などない身だったため、前の世界では考えられない出来事だ
ゼロは思わず、心の中で叫んでしまう。
異世界転生、最高!!
突如として、ゼロの体が何かに反応する。
「待って」
ゼロの言葉を聞き、女達は歩みを止める。
「ゼロ様、どうなさいましたか?」
「何かを感知した」
体が勝手に何かを感じ取ったのだ
これが俺のチカラ?
この世界で魔法と呼ばれているものなのか?
しばらく待つと、茂みから魔物が現れる。
四足歩行の犬のような姿をしている魔物だ。
「流石です。ゼロ様」
ゼロにとって魔物と戦いはこれが初めてとなる。
「お前達は戦ったことはあるのか?」
「はい。護衛と一緒でしたが、何度か経験してます」
「なら、お前達でもあの魔物は倒せるか?」
ゼロは魔物を指差す。
「はい。まだ森の入口付近ですので、私達でも倒せます」
「なるほど」
相手は雑魚ってことか
国王からもらった銀色の剣を抜くと、ゼロは一瞬で魔物との距離を詰め、剣を振る。
斬ったという感覚がほとんど無く、簡単に魔物を一刀両断する。
これが俺のチカラか!すごい!
「材料となる魔物を狩りに行く。これからは俺が指示するまで手を出すなよ?」
「わかりました」
三人の女は返事をする。
ゼロは道中に現れる魔物を実験に自分の力を試す。
剣を使用したり、魔法を使用する。
自分の体とは思えないくらい素早く動くことができ、相手の攻撃も簡単に避けることができた
そして、どの攻撃手段でも魔物を一撃で退治することができた
まさに異世界転生お約束の俺tueeee状態である
魔法は頭の中に使用したい魔法の言葉が勝手に思い浮かんでくる。
それを言うだけで魔法を使用することができた
魔力が消費されていくと体の中の何かが減ったという感覚を覚えた
簡単に言うと疲れたという感じだ
そして、魔法は通常であれば、杖がないと使用できないらしい
しかし、俺は違った
スキルというもののおかげで杖なしでも魔法を使用できた
俺の持つスキルは究極体と言い、あらゆる出来事の制限を解除する能力であり、剣撃であったり、魔法であったり、様々な能力を引き上げてくれる
俺が最強だと言われる由縁がこのスキルにある
それにしてもだいぶ奥まで来たな……
そろそろか?
国を出た当初は山々が見えていたが、今はその山々のふもと近くである。
「この辺りか?」
「は、はい」
「なんだ?怖いのか?」
「はい。この辺りはランクファイブの領域ですので……」
ランクファイブねぇ……
鑑定された時に首元の辺りに刻まれた印を手でなぞる。
星が六つ。ランクシックスの刻印がそこにあった。
道中に聞いたが、この三人の女はみんなランクスリーだと言う
数字で言えば俺の半分だ
魔物の強さによって領域が分けられているらしく、怯えているのはそういう理由からか?
くだらないな、実にくだらない
俺が最強だということは分かった訳なのでそのランクとか言うが重要なのことなのか疑問である
「おっと、お目当ての魔物がお出ましだ」
三人の女は隠れるようにゼロの後へ移動する。
ゼロは呆れながら言う。
「そんなに怖がることないだろ」
現れた魔物は二足歩行であり、全長三メートルはあるのではと思わせるくらい巨大である。
その姿を見てゼロは思う。
これは巨大なゴリラだな
「な、名前だけは知ってます。ジャイアントコングです」
ああ、ゴリラだな
「実際に見るのは初めて……」
「巨大な体を活かした攻撃は強力です。聖天王国の聖騎士達が退治した時、何人かが負傷したそうです」
ジャイアントコングはドラミングをし、威嚇する。
三人の女は恐怖のあまり後ずさりしてしまう。
ゼロは鼻で笑う。
「ふっ」
所詮、ただでかいだけのゴリラだろ……
聖騎士達がどれほどの強さで何人で挑んだのか知らないが、俺の敵ではーー
ジャイアントコングの拳が飛んでくる。
いきなりの攻撃であったが、ゼロはそれを華麗に避ける。
ジャイアントコングは攻撃の手を緩めることなく、連続でパンチをする。
大きな体格であるのにもかかわらず、素早い攻撃だ。
三人の女からすれば、その攻撃は早すぎて見えなかっただろう。
だが、ゼロにははっきりと見えている。
避けながら、銀色の剣を構えて反撃をする。
ジャイアントコングの腕を斬ろうとしたが、分厚い皮膚に剣は弾かれる。
その衝撃で剣はゼロの手から落ちてしまう。
なに!?
ジャイアントコングは気にせずに攻撃を続ける。
ゼロは慌てて退がる。
今までどんな魔物も一刀両断してきた剣が弾かれた?
なんという強靭な肉体
ジャイアントコングは雄叫びを上げる。
剣撃が効かないならこれはどうだ?
「サンダーボルト!」
ゼロは短縮詠唱で魔法を使用する。
ジャイアントコングは電気の塊を喰らい、全身に電撃が走り巡る。
目眩を起こし、体勢が崩れた。
何が起こったのか理解できない様子だったが、生物としての本能が命の危険を察しし、その場から逃げようとする。
どうやら、魔法攻撃は有効みたいだな
ジャイアントコングの肉体はあらゆる攻撃に対して耐性がある。
斬撃や打撃などの近接攻撃は勿論、魔法に対してもだ。
しかし、ゼロの放った魔法はジャイアントコングの魔法耐性を簡単に突破し、大ダメージを与えた。
ジャイアントコングにとって初めての経験であった。
たったひとりの人間の魔法によって大ダメージを食らったのだ。
ゼロは背を向け、逃げようとしているジャイアントコングに目掛け、別の魔法を使用する。
「ファイヤボルト!」
今度は火の塊を放つ。
火の塊はジャイアントコングにぶつかると大きな火柱が上がる。
肉が焼かれる異臭がし、黒焦げになったジャイアントコングがその場に倒れた。
ゼロは落とした銀色の剣を拾い、黒焦げになったジャイアントコングを見る。
「こんなものか」
周りにいた三人の女から喝采が送られる。
「凄いです!ゼロ様!」
「流石!ゼロ様!」
「あのジャイアントコングをお一人で倒してしまうなんて!凄いです!ゼロ様!」
女性からの労いの言葉なんて今まで受けたことがなかったから、とても気分がいい
だが、ここはクールに冷静に
「この程度、大したことではないな。とっとと持って帰るぞ」
「はい!」
返事をした女達はストレージを使い、ジャイアントコングを収納し始める。
物足りないな
もっと強い奴はいないのか?
そう思いながら、ゼロは自分の強さに酔いしれた。
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