第6話 異世界転生者
天井の高い部屋に大きな円卓の机がある。
その周りには六つの椅子が並び、そこに座る者たちが議論をしている。
「それで、損失の方はどの程度なのでしょうか?」
「相手の領土を取ったとはいえ、これは我々にとって痛手ではないか!?」
「その報告は確かなのかのぉ……?勇者が死んだというのは……?」
この議会の仕切り役と思われる背の低い男が答える。
「はい、事実ですね。勇者及び、パーティメンバー全てが戦死だそうです」
その言葉を聞き、周りは動揺の声をあげる。
「まだ他の魔王はいるのですよね?」
「魔王と相討ちだったというのか!?」
「歴代の中でも最強と言われていた勇者を失うことになるとはのぉ……魔王との激闘の末に……勇敢な男であったわい……」
金銀財宝を沢山身につけている男性が叫ぶ。
「だから!我は反対だったのだ!今ここで攻めるなど!しかも、何故、我が国の英雄までもーー」
仕切り役だと思われる人物が反論する。
「今更、何を言い出すのですか!ベネガル帝国の王よ!我々の総意であったではないですか!それに勇者からの推薦もあった!」
「貴様の国の英雄は同行を拒否したらしいがな!」
一人の男が手を叩き、その場を静める。
「もうよい、過ぎたことだ。これからどうするか議論しようではないか」
この中で唯一の女が話し出す。
「そうですね、まずは失った英雄の補充と次の勇者の選出をするべきです。失った国は誓約通り、異世界転生を行いましょう」
この中で一番老いている王が言う。
「良いかのぉ?この際だから言わせてもらうがのぉその誓約も何なんだろうかのぉ死亡した場合のみ適用とは……我が国も不在なのは変わらないはずではないのかのぉ?」
「フッ。おいおい、恥ずかしくないのか?行方不明なのは貴様の国がちゃんと管理してなかったからだろ?」
「な、なにを……!そもそもじゃが、聖天王国が同行を命じたのがのぉ」
「実に見苦しいぞ?この誓約は国力のバランスを保つために代々受け継がれてきたものだ。それとも我が国、聖天王国に非があるとでも?」
異世界転生者は強力な力を持って召喚されるため、各国に一名という誓約がある。
「そういうことです。アルメン共和国の王を見なさい。同じ立場なのに静かにしているではありませんか」
各国の王がアルメン共和国の王を見る。
お世辞にも王としての威厳もなく、格好もみすぼらしい。
「あ……えっと……誓約ですので……その……仕方がないかな、と……」
「……ぐぬぬ」
本来であれば、各国に英雄が一名ずついる。
しかし、魔王との戦いにより、勇者及び英雄を二名失った。
また、行方不明の英雄も二名いる。
よって、現在の英雄の人数は二名だけである。
行方不明の英雄に関しては国外に出た際に消息を絶っており、詳細は不明。
新たに異世界転生が行えない事から、死んではいないという事だけ確認ができている。
その国の管理不足という名目で問題は棚上げされている。
「そろそろいいかな?もう一つの議題がある」
その場が静まり返る。
「謎の人物による虐殺によって兵士を多く失った件だが、中には聖騎士も含まれているようです。異世界転生者はまた召喚すればいいですが、兵士。特に聖騎士はなかなか育ちません。これは大きな損失です」
各国の王から、ため息が漏れる。
「で、その謎の人物の情報は?聖天王国に情報があると聞いているがーー」
聖天王国の王が答える。
「我が国の騎士団長が対峙し、生還している。騎士団長が言うには、なかなかの強者だったらしい」
「なかなか?」
「警戒するほどの強者ではないということだ」
「馬鹿な!あの場にいた兵士達のほとんどがやられているのだぞ!警戒しなくて良いわけーー」
「兵士達は長い道のりの末に魔族の国に到着。そして、激しい戦闘をした後に襲撃されたのだ」
「つまり、万全ではない時に襲われたと?」
「そういうことだ。万全なら、互角くらいには戦えたと騎士団長は言っていた。魔王ほどの警戒をするほどではないだろう。英雄達なら、対処できるはずだ。何か異論はあるかね?」
皆が口を閉ざし、沈黙する。
ここにいる者達の中にその人物を実際に見た者がいるわけではないため、誰も聖天王国の王が言うことを否定できない。
「ないのであれば、その謎の人物は静観ということで、対策は無しとする」
「他に議題となるものはありますか?」
周りの王の様子を伺い、議題がないと判断する。
「では、これにて議会を終了とする」
それを聞き各国の王達は席を立ち、退室していく。
聖天王国の王も退出すると、入口の近くに身体中包帯だらけの騎士団長が控えていた。
騎士団長は頭を下げ、王の少し後ろを歩くように付いて行く。
しばらくして騎士団長が王に聞く。
「我が王よ、あの者の存在を各国にお伝えになられましたでしょうか?」
「ああ、したとも……」
その言葉を聞き安堵する。
「では、対策の方をーー」
「だが、強さに関しては甘く見積もらさせてもらった。そして、対策はしない結論になった」
「な、なぜですか!?」
「情報は大事な戦力だ。我が国だけが知っていればいい話だ」
浅はか過ぎる……
人間の国総出で対処しなくてはならないというのに……
あれは紛れもないバケモノだった……
生き残ったことは奇跡に近い
あの場で受けた恐怖心が今でもひしひしと感じている
「騎士団長の言いたいことはわかる。だが、敵は魔族だけではないのだ。これからもよろしく頼むぞ」
「わかりました……我が王よ……」
騎士団長の不安な顔を背にして、王は歩む。
聖天王国にホーリン神殿と呼ばれる場所がある。
異世界からの召喚を行う場所とされており、聖天王国に数多くいる聖職者達が管理している。
ホーリン神殿には六本の柱があり、円型に並んでいる。
天井は高く、円型に並んでいる柱の中央には複雑な魔法陣がある。
その魔法陣の周りには杖を持つ聖職者達が並んでいる。
聖職者の他にも今回、召喚を行うベネガル帝国の王と聖天王国の王。
そして、その国の従者達が見守る中、異世界転生の儀式が始まろうとしていた。
「これより、異世界からの転生を行います。まずはベネガル帝国から始めます。王様の血をここに」
魔法陣の一番近くにいる銀色のローブの聖職者が言う。
呼ばれた王は魔法陣の近くまで来る。
そして、左手を出し、持っている刃物で人差し指を少しだけ切ると血が溢れた。
何滴かが魔法陣に垂れ、魔法陣は赤くなる。
周りにいる聖職者達が詠唱を始める。
「王の誓約により、異世界から強き者を呼び連れたまえ。汝はかの王のものとなり、世界を救いたまえ。今ここに召喚を致す」
六つの柱が光り始め、魔法陣の上に光の立方体が現れた。
光の立方体は徐々に降りてきて、地面に触れると光が周りに弾け飛び、中から人影が現れる。
金髪の青年がそこにいた。
「なんだ?おまえらは……それにここは一体?」
金髪の青年は周りを見渡しながら言う。
「ここは異世界です。貴方がいた世界とは別の世界です。貴方は選ばれたのです」
銀色のローブの聖職者が答える。
「……選ばれた?」
「貴方、名は何という?」
「……?」
「前にいた世界の名でもこの世界で名乗る新たな名でも構いません。名は?」
金髪の青年は沈黙し、考える。
「そうだな……ゼロ。ゼロと名乗ろう」
「承諾しました」
銀色のローブの聖職者は息を吸い、大きな声を出す。
「名はゼロ!!ベネガル帝国の新たな英雄!!」
周りから拍手が鳴り響く。
「ゼロ様。こちらへ」
ゼロは銀色のローブの聖職者の案内で魔法陣から移動する。
「では、次に聖天王国の異世界転生の儀式を行います。王様よ、血をここに」
呼ばれた聖天王国の王は先程と同じように人差し指を刃物で少し切り、血を魔法陣に垂らす。
魔法陣は赤くなり、詠唱が始まる。
「王の誓約により、異世界から強き者を呼び連れたまえ。汝はかの王のものとなり、世界を救いたまえ。今ここに召喚を致す」
六つの柱が光り始め、魔法陣の上に光の立方体が現れた。
そして、光の立方体の中から人影が現れるが、今度は人影が二つ。
学生服を着た気の優しそうな黒髪の少年と茶髪の少女がそこにいた。
「なんだと!?こんなことはありえない!」
その場にいるほとんどの者が驚きの声を上げ、騒つく。
一度に召喚することができる人数は決まっており、一度に二人以上を召喚した例は今までにない。
前代未聞である。
「これは、なんということか……困った……」
聖天王国の王は困ったように言うが、内心は満面の笑みを浮かべる。
異世界転生者が二人も……
こんなことがあるのか!
これはついているぞ!
ベネガル帝国の王が声を荒あげる。
「誓約では異世界転生者は一国に一人ではないか!二人も所有して良いわけがない!」
「だか、二人が転生されたのは事実……どちらからをここで処分するのは可哀想だ。これは我が国で責任を持って所有する。それに何か訳があるのかもしれない。これは前代未聞のことだ。慎重に見極める必要がある」
「だからと、そんなことが許されるわけーー」
「その通りかもしれません。何か訳があるのかもしれません。なので、今は聖天王国の方で様子を見てはどうでしょうか?」
銀色のローブの聖職者も聖天王国の王の意見に賛同する。
「貴様ら…!!」
ベネガル帝国の王の意見は無視され、話が進む。
「異例の事で取り乱しました。改めまして、貴方達の名を教えてください」
「名……?」
「そうです。前の世界の名でもこれから名乗る名でも構いません」
「えっと、僕の名前は大空心也」
「そちらのお嬢さんは?」
「あ、わ、わたしは有江陽です」
「承諾しました」
銀色のローブの聖職者は大きな声を出す。
「名は大空心也!!そして、有江陽である!!聖天王国の新たな英雄!!」
周りにいる者から拍手が鳴り響く。
「今回、召喚された者の詳細などは後ほど提供してください。各国で異世界転生者の能力は共有しなければなりません。これも規則です。決して、嘘偽りがないようよろしくお願いします」
「無論だ。二人ともこちらへ来たまえ」
転生された二人に声をかける聖天王国の王の目には、納得のいかないベネガル帝国の王の姿が映る。
ベネガル帝国の王は自らの異世界転生者を連れ、ホーリン神殿を出て行った。
「……あの、ここはどこですか?」
少年が周りを見渡しながら言う。
少女も不思議そうに周りを見渡している。
「ここは異世界だ。詳しく話は我が城で話そうではないか、付いて来たまえ」
人間の国で一位二位を争う大きさの城に案内された異世界転生者の二人は驚きの表情を浮かべる。
「とても立派な建物だ……」
「物語の世界に出てくるお城そのものだね」
陽の言う通り、本当にアニメやゲームと言った物語の世界に出てくる城だ
ここは異世界だと言っていたけど、これは夢じゃないのか?
心也は自分の頬を叩いてみる。
痛い…!
でも、目は覚めない
なら……現実……?
「ちょっと、何やってるの?」
隣を歩いている陽が話しかけてくる。
有江陽。俺と同じ高校二年生であり、小さい頃からの腐れ縁
俗に言う幼馴染というやつだ
「いや、これは夢なんじゃないかと思って……」
「あーたしかに」
陽も同じように頬を叩く。
「夢じゃないね、これ」
「そうなんだ……一体、どうして……」
いつものように登校をしていたはずが、いきなり、謎の光が周りに現れ、気がついたらこのような状況だ
「まぁ、異世界だかなんだか知らないけど、おもしろそうじゃん」
陽は笑みを浮かべる。
楽観的というかなんというか、陽は昔からこんな感じだ……
いくつもの城壁に囲まれた白い大きな城は中も立派な物だった。
二人は赤い絨毯の上を歩き、沢山のシャンデリアがある大きな部屋に案内される。
その部屋には金銀で輝く椅子に座る王の姿があり、周りには膝をつく者達がいる。
二人はここが玉座の間であることに気がつく。
ここまで案内した者は頭を下げ、壁際へ下がった。
「ようこそ、我が国、我が城へ。我が名はレイビスタ・リオーネ・レストレンジ三世。この国、聖天王国の王である」
立派な髭を生やし、鋭い眼光は王として威厳を放っていた。
二人はその威圧にやられ、少し後ずさりしてしまう。
「たしか、名はーー」
レストレンジ王は髭を触りながら、二人を見る。
「名はなんだ!?」
王の近衛隊であろう者が叫んだ。
二人は慌てて答える。
「大空心也です!」
「有江陽です!」
レストレンジ王は近衛隊の者に言う。
「やめないか。恫喝のような事はせんでいい」
「はっ!申し訳ございません!」
「では、事の経緯を説明をしよう。大臣!」
「はっ!」
大臣と呼ばれた者が二人の前に来ると、説明を始める。
「異世界よりはるばるお越しいただきありがとうございます。私共は世界を救ってもらうために貴方達をこの世界にお呼びいたしました」
アニメや漫画でよくある異世界転生のテンプレようだ
「世界を救う?」
「そうです。この世界には人間の他に邪悪な者、魔族がいます。その者達から世界を救ってもらいたいのです」
「俺達が世界を……でも、そのような力があるわけ……」
「いえ、ありますとも。異世界転生者には強大な力が備わっているのです。だからこそ、私共は貴方達を呼んだのです。早速ですが、その力を見せていただきたい」
「え?見せるもないも……何ができるのか分からないのですが……」
「安心してください」
大臣がそう言うと、一人の女性が近づいてくる。
「鑑定士によって貴方達の力を確認します」
「鑑定士?」
ゲームとかであるステータスを見ると言うのだろうか?
「新たな英雄様。私は鑑定士です。英雄様を鑑定することで持つ力を見る事ができるのです。首元を拝借させていただいてもよろしいですか?」
いきなりそんなこと言われても……
心也が答えに迷っていると、陽が笑顔で言う。
「いいじゃない?それに見せないと先に話が進みそうにないよ?」
「そ、そうだね……」
「鑑定士さん、よろしくお願いします」
その言葉を聞き、鑑定士は二人の首元に手をかざす。
すると小さな光が現れる。
鑑定士は小さな光を見つめると、なるほどと言いながら、頷く。
辺りは静寂に包まれていた。
「鑑定が終わりました」
「ほう。で、どんな力を持っている?」
鑑定士は王の方に向き直り、頭を下げる。
「王様。残念ながら、どちらも魔力は中の平均的でございます」
「なんだと!?」
「ですが、妙なスキルをお持ちのようです」
「妙なスキルだと……?」
「はい。男の子のスキル名は繋ぐ心で、女の子のスキル名は精霊召喚です。魔力からすればランクはランクツー程となりますが、英雄であるため、最高位ランクです」
二人の首元にはランクシックスの刻印が刻まれていた。
魔力?スキル?ランク?何のことだろう
周りが少しざわつき始めるが、王が手を挙げると静かになる。
「異世界転生者なら、スキル持ちなのは当たり前の事だ。何よりもこの世界において重要なのは魔力だ。その魔力が高くないとなると……これは……」
「我が王よ!」
近衛隊とは別の所にいる包帯を巻いた兵士が声を出した。
「騎士団長か、何かあるのか?」
「はっ!」
騎士団長と呼ばれた者は王の前まで歩いて来て、膝をつく。
「魔力が高くないのは転生されたのが二人だからではないでしょうか?」
「と、言うと?」
「二人で一人分という事です」
「なるほど、それで一つ一つの魔力は高くないと……二つも強力な力が手に入ったと思ったのだが、甘くはなかったか」
「いえ、決してそのようなことはないと思われます」
「ほう?なぜ、そう思う?」
「スキルがございます。スキルは唯一無二であり、同じものはございません。故にどのような力があるか、わからないのです」
「たしかに……女のスキルは名前で大方の予想ができるが、男のスキルはよくわからない。もしかしたら、あの男のように強力になるかもしれないという事か……良かろう。二人にはなるべく支援をし、急速に育成せよ。騎士団長よ、頼めるか?」
「はっ、お任せください」
騎士団長は立ち上がり、二人に声をかける。
「さぁ、二人とも付いて来てくれ。これから色々と指導していく」
二人は言われた通りに騎士団長の後に付いて、玉座の間から出た。
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