第5話 冒険者


人間の領土の中で魔族の国に一番近い国がある。

その国には大きな冒険者組合が存在しており、その冒険者組合が国を統治をしている。

名はギルド連合国サエティ。

そのため、数多くの冒険者が行き交いする国である。

国の中心部に集会所と呼ばれる場所があり、依頼を受ける冒険者や依頼をする人たちで賑わっている。

その中に受付嬢と話しをする二人組がいる。


「え、おかねいるの……?」

「はい。冒険者になる為には組合に入っていただく決まりになってます。その際に必要でございます」


赤髪ツインテールの少女リリは、隣にいる青髪ポニーテールの少女ルルに小声で話しかける。


「えっと、おかねもってる?」

「……用意されてたよね?」


腰にある剣を触りながら、歯切れ悪そうに言う。


「そ、そうだけど、その……なんというか……ね?」


その行動を見ていたルルは、ため息をする。


「……二人でいくら?」

「お一人500ゼニですので、お二人で1000ゼニです」


ゼニの価値は100ゼニで宿に一泊することができ、500ゼニで一本の剣が買えるほどだ。


「……高い」

「申し訳ありませんが、規則ですのでその……」

「……ルール。なら、仕方がない」


ルルは1000ゼニを受付嬢に渡す。


「……これは貸し」

「うん!!ありがとうおお!!」


リリはルルに抱きつく。


「……だから、うるさい」


ルルは頬を少し赤らめながら、俯く。


「確かに受け取りました。では、こちらへ。ご案内します」


受付嬢にそう言われ、二人は後をついて行く。

案内された部屋には受付嬢とは別の女性がいた。


「私は鑑定士と呼ばれる者です。鑑定士は鑑定魔法(ジャッジマジック)を使用してその者の魔力を読み解くことができます。また、武器や防具などに隠された能力を読み解くこともできます」

「すごい!!」


リリが笑顔で元気よく言う。


「ここでは、私が貴女達が冒険者になれるかどうか、鑑定します」

「え、なれないことがあるの?」


先とは違って、リリは不安な声を出す。


「……お金は払った」

「適正があります。誰でも冒険者になれるわけではありません。また、稀に冒険者以外の職の方が向いている場合もあるのです。私のような鑑定士などに……もし、適正がない場合は返金することになっていますので、ご安心してください」


鑑定士は二人が納得したと判断し、話を続ける。


「魔力は生まれ持ったものであり、鑑定することでその者の魔力と得意な魔法属性。そして、スキルを所持しているのかいないのかが分かります。スキルはその者が所有する特殊なものであり、同じものは存在しません。しかし、誰もが持っているわけではありません」

「なるほど!!じゃあ、かんていしてください!!」

「わかりました。では、鑑定を始めますので首元を見せてください」


二人は言われた通りに首元を見せる。

鑑定士は二人の首元に手をかざすと小さな光が現れる。

鑑定士はその小さな光を見つめる。

光の中に収縮された情報を読み取ろうとする。


「見たところ、貴女たちは双子のようですね。赤髪の貴女のお名前は?」

「リリです!」


名前を聞いた瞬間、鑑定士は違和感を覚える。


「青髪の貴女のお名前は?」

「……ルル」


またしても違和感を覚える。

鑑定士はまた小さな光を見つめる。

しばらくして、鑑定士は口を開く。


「リリ様の魔力は上、中、下で表すと下であり、得意な魔法属性は不明でした。スキルは残念ながら、所持してないようです。リリ様は魔法よりも剣術などの方が良いでしょう。……既にお持ちのようですし」


鑑定士はリリの腰辺りにある剣を見る。


「……私は?」

「ルル様の魔力は中であり、平均的です。そして、ルル様も得意な魔法属性は不明でした。しかし、裏を返せば、鍛錬次第で様々な魔法を使えるということです。魔法使いになっても良いと思います。スキルはルル様も残念ながら、所持してないようです」

「……魔法使い」

「正直に言いますが、お二人共、才能がある訳ではありません。しかし、鍛錬をすることで良き冒険者にはなれるでしょう。決して、世界に名を馳せる者だけが冒険者ではありません。……では、最後になります。冒険者とは未知を探求する者であり、それには危険が伴います。今まで幾人の者が命を落としました。それでも、冒険者になりますか?」

「うん!」

「……はい」


二人は即答する。


「そうですか……分かりました。そのご覚悟を受け取りましょう」


鑑定士はそう言うと、もう一度、二人の首元に手をかざす。

すると、二人の首元に一つの星が刻まれる。


「今後はこの星の数があなた方の強さの証明となるでしょう。ご武運を」


鑑定士はお辞儀をする。

次に受付嬢が話し出す。


「改めまして、ようこそ冒険者組合へ。これでお二人は冒険者です。それでは刻まれた刻印、星について説明させていただきます。星のことをランクと呼び、最大で六つあります。最初は星一つ、ランクワンからスタートとなります。次に星二つ、ランクツー。星三つ、ランクスリー。星四つ、ランクフォー。星五つ、ランクファイブ。そして、最高ランクを星六つ、ランクシックスとなります」

「……そのランクはどうやったら上がる?」


ルルは自分の首元を指でなぞりながら言う。


「ランクは依頼を完了したり、魔物を倒すことで評価を得ることができます。その評価によってランクが変化します」

「なるほど!!」

「お二人は魔力が平均レベルということなので、最初はベテラン冒険者達とパーティーを組み、冒険に出かけられることをお勧めします。こちらでパーティーメンバーを紹介しますが、いかがでしょうか?」

「……大丈夫。私達、二人だけで十分」

「これからつよくなる!!」

「そうですか、くれぐれも無茶だけはしないでください。何かありましたら、受付嬢かベテラン冒険者様にご相談ください」


受付嬢はお辞儀をする。


「うん!」

「……はい」


二人は返事をし、退室する。


「鑑定士さん?どうかしましたか?」


なにやら考え込んでいる鑑定士に受付嬢が声をかける。


「最初に彼女達の光を見た時、何も見えなかったのです……こんな事初めてです」

「見えなかった?」

「はい、私が鑑定を失敗しただけかもしれませんが……」




ギルド連合国サエティ近郊には、大森林が広がっている。

グレー森林と呼ばれ、大森林の向こうには人間と魔族の境界線であるライン山脈がある。

グレー森林には魔物が多く生息している。

魔物は知性が乏しく、他種族を見境なく攻撃してくる。

魔物からは素材を取ることができ、道具から武器、防具まで作ることができる。

魔物にもランクがあり、山脈に近づく程、ランクが高くなる。

冒険者組合はこれを元に依頼階級を決めている。


リリは鼻歌を歌いながら、森の中を歩く。

隣にはルルも一緒だ。

二人はすぐに依頼を受け、グレー森林にやって来たのだ。


「……どうかした?」

「え、なにが?」

「……上機嫌」

「そりゃーひさしぶりのぼうけんだよ?テンションアゲアゲ↑↑」


ルルは哀れみの目でリリを見る。


「………そう」

「ご、ごめんって!ほらーどこかのせかいで言ってたじゃん!……あれ?どこだっけ?」

「……忘れた。でも、久しぶりの冒険。美しいものが見れるかもしれない」

「でしょ!でしょ!たくさんみれるよ!!」

「……でも、計画が第一」

「わ、わかってるってええ!」

「……で、その装備は?」


リリは立派な鎧を着ており、輝いて見える。それに比べ、ルルは装備屋で買った魔法使いが使うごく普通のローブを着ている。値段も高くも安くもないお手頃な価格であった。


「えっ?カッコいい?」

「……それと、ずっと気になってたのだけど。……なんで二本?」


ルルはリリの腰にある剣を見る。

それぞれ長さの違う剣を持っている。


「え、カッコいいから!」

「……で、お金は?」

「いや、でも、でもね!こういうのはかたちからはいったほうがいいとおもうんだ!おかねはかせげばいいし!」

「……そう。お金貸していること忘れないでね」

「あ、はい。すみません」

「……とりあえず、ランクを上げないと」

「そーだね!たしか、いらいをかんりょうすれば上がるんでしょ?」

「……そう。あとはランクの高い魔物を倒すと評価してもらえる。なるべく早くランクを上げたい」

「なら、やまのほうまで行ってみる?」

「……それは行き過ぎ。急激にランクを上げると怪しまれる。鑑定をされる時にフェイクをした意味が無くなる。だから、平均より少し速いくらいが丁度いい。……まずはランクツーの領域に行く」


鑑定された時、彼女達は本来の実力がバレないようにした。

二人の実力からすれば、この世界の存在に負けることはない。

今から魔族の国へ行って魔王達を全て倒す事も簡単である。

しかし、そんな事はしない。

今回の彼女達の目的は世界のバランスを守るためであり、世界を滅ぼすことではない。

そして、計画を遂行するためであり、力を誇示するつもりはない。


「なるほど!!わかった!!」


ルルは本当に理解したのかと疑いの目をリリに向ける。


「よ、よーし!!が、がんばるぞー!!」


出てくる魔物を倒しながら、二人はランクツーの領域を目指す。

倒した魔物はストレージというアイテムを使用する事で異空間に保管できる。

保管する事で依頼の完了のためや素材として持ち運ぶ事ができる。

ルルはストレージを使い、倒した魔物を保管する。


「へぇ、べんりなあいてむだね!!」

「……この世界では殆どの者が所持している。必須アイテムで装備屋で購入できた」

「そうなんだ!!なら、もつようにしないと!!」

「……それでどうなの?その剣。実際に使ってみて」

「ん?あぁ……まぁまぁかな」


リリは飛びかかってくる犬の魔物を華麗に斬りながら、言う。


「……まぁまぁね」


ルルは首を斬られた魔物の切り口を確認し、ストレージに保管する。


「そっちは?このせかいのまほうはどうなの?」

「……ワールドレコード通り。この世界の魔法には詠唱が必要不可欠」

「えいしょうがひつようなのかぁ……」

「……使用する魔法の名だけでも大丈夫みたい」

「なるほどね!ってか、ランクツーのりょういきってどこ!?」


リリは周りを見渡す。


「……目印とかあるわけではないみたい」


魔物の強さで領域が変わるのだが、領域の境はどこからかなのか目印のような物はどこにもない。

しかし、リリとルルはすぐに感じ取る。


「へーけっこうテキトーなんだね!!」

「……先よりほんの少しだけ強くなった」


リリとルルが感じ取ったのは気力。

言わば、その者の生命力であり、強さだ。


「……ここからがランクツーの領域。依頼者の言っていた魔物を探さないと」

「よし!!まかせて!!そらからぜんたいをみてくるよ!!」

「……待って。目立つ事はやめてって言ったよね?」

「えーそっちのほうがはやくみつかるとおもうけど!だれもみてないって!」

「……やめて?それに大丈夫。向こうから来た」


木の上からリリとルルの様子を伺う魔物がいる。

舌をニョロニョロと出す胴体が細長い魔物だ。


「おお!!ラッキー!!」

「……あれがリーフスネーク。木に擬態し、姿を隠す能力があるらしいけど」

「ぜんぜんかくれてないじゃん!!」

「……ファイヤ」


ルルはすぐに詠唱をする。

ルルの持つ杖から小さな火の玉が放たれる。

リーフスネークに直撃するが、大したダメージになった様子がない。


「そのまほうよわいじゃない?」


今度はリリが長い剣で攻撃を仕掛ける。

その瞬間、リーフスネークの姿が消える。


「おお?きえた!!……なんてね!」


リリは迷いなく、長い剣を振り下ろす。

姿を隠すと言ってもランクの高い冒険者を誤魔化す事はできない程度のものである。

そのため、リリを誤魔化す事などできるはずがない。

斬られたリーフスネークは二つになり、地面に落ちる。


「……力任せ」

「むむ、そうかな」

「……うん、そう。……これで依頼は完了。一旦、町に戻ろう」


ルルはストレージにリーフスネークを保管する。


「うん!帰ろ!帰ろ!」


二人は帰路についた。

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