第21話 反撃
まさか!こんな事態になるとは!
アルメン共和国を襲撃した魔物を追ってグレー森林にやって来た魔法部隊は未知の魔物達と戦闘になっていた。
さっきまで効いていたはずの魔法が効いてない?
ライン山脈の近くにはこんな魔物がいるのか!?
魔法部隊の中にグレー森林の奥地に来た者はいない。
彼らの実力では踏み入れてはいけない領域である。
しかし、獲物である魔物を狙う事に夢中で気付いたら奥まで来てしまった。
魔族側の戦略によってーー
魔王アモンが召喚したゴブリンとオーガの中に魔王アモンのアビリティによって強化されたゴブリンとオーガがいた。
アルメン共和国を襲ったのはその強化されたゴブリンとオーガではなく、通常のゴブリンとオーガであり、アルメン共和国にいる魔法部隊を誘き出す役割が与えられていた。
そして、誘き出した魔法部隊を叩くのが強化されたゴブリンとオーガの役目である。
そんな事は知る由もなく、魔法部隊はまんまとその罠にはまってしまった。
見知らぬ土地と点からも陣形が崩れ、魔法部隊の士気が下がっていく。
くそ、欲をかきすぎたか……
これはまずい
「一度さがり、陣形を立て直す!」
撤退の指示をしながら、相手の出方を伺うためにエマエルはゴブリンとオーガに目を向けた。
すると、ゴブリンとオーガに紛れて人影がある事に気がつく。
全身をフルプレートで覆い、背中には大きな剣を背負っている。
鎧の騎士?あれはなんだ……
近くにいた部下の一人が怯えた声を出す。
「あ、あれは……ま、魔王!?」
「魔王だと!?どういうことだ!」
「見たのは初めてです!ですが、聞いたことがあるのです!魔王の中に鎧を来た者がいると!」
「いかにも!いかにも!魔王アスモデウスだ!」
そう名乗りながら、魔物の間を歩いてくる。
エマエルは息を飲む。
ほ、本当に魔王だと!?
いや、なんという威圧……
まずいまずいはやくここからーー
「それで!それで!何故逃げるのであろうか?」
「に、逃げるつもりなどない!攻撃の準備をしろ!一斉攻撃をするのだ!」
と言うと、エマエルは馬に乗り、背を向ける。
命令を受けた部下達は怯えながらも一斉に様々な属性の魔法を放った。
魔王アスモデウスは避けようとせずに背負っていた剣を持つと、身体の前で盾のように構える。
しかし、魔王アスモデウスと魔法の間にゴブリンが割り込んできた。
割り込んできたゴブリンが盾となり、魔法を受けた。
「ん?ん?余計なことを」
魔法を受けたゴブリンは地面に倒れたが、後ろにいるゴブリンの妖術によってまた立ち上がった。
冗談じゃない!
なんで!魔王がこんなところに!
そんなの聞いてない!反則だ!
この地位に来るまでどれだけの時間と労力を費やしたと思っている
易々と死ぬわけにはいかない!
部下を盾代わりにするのは心苦しいが、仕方がない事だ
とにかくここから逃げなくては!
「逃げないと、逃げないと言ったではないか!」
鎧を着ているのにもかかわらず、俊敏な動きで魔法部隊の間を縫う。
速度を緩める事はせずにそのまま馬に乗っているエマエルに迫った。
エマエルは悲鳴をあげながら、詠唱する。
「うわあああ!!!ファイヤ!ファイヤ!」
恐怖のあまり、混乱状態となっていたエマエルは短縮詠唱による低位の魔法を詠唱してしまう。
勿論、そんな魔法が魔王に効く訳がない。
紫色に輝く鎧が火の粉を無とかする。
「この程度、この程度なのか!」
「く、くそ!なんでこっちに!」
先に部下を殺してから来ると思っていたのにどうして!!
「なに、なに、敵の指揮官を先に倒すのは戦場の鉄則であろう」
「鉄則だと!?」
なんだよそれ
魔族は知能が低いじゃないのか
目の前に刃が迫っている事に気が付いたが、すでに遅かった。
あれほど自分が生きる事を考えていた男の生涯はあまりにも簡単に終わった。
エマエルは一刀両断され、馬の上から崩れ落ちた。
それを近くで見ていた者が叫ぶ。
「ブラン隊長!!!」
その声に周りの者達も気付き始める。
エマエル・ブランが戦死した事をーー
その事は魔法部隊全体へと広がり、
次席である第五部隊の隊長にも伝わった。
第五部隊隊長は大声を出す。
「これより私が指揮を取る!総員撤退せよ!」
それに反応したのは人間だけではなかった。
「なるほど、なるほど、まだ他に指揮官がいるのか」
魔王アスモデウスは先程と同様に指揮を取る者を次から次へと殺して行く。
これによって、魔法部隊の指揮系統は完全に崩壊し、烏合の衆と化してしまう。
そこにゴブリンとオーガが襲撃し、辺りは血の海となり、魔法部隊は崩壊してしまった。
「容易い、容易い!」
笑みを浮かべる魔物達であったが、突如、後方にいたゴブリンが叫び声を上げる。
「ん?ん?後ろか?」
魔王アスモデウスはすぐさま後ろへと移動する。
「おいおい、挟撃する作戦じゃなかったのかよ」
そこには別の人間達がいた。
装備から魔法部隊ではない事がわかる。
その内の一人が指差しながら言う。
「リーダー!あれは一体!?」
「お前、なにもんだ?鎧を着ているが人じゃないな」
この場にいる誰もが鎧を着る者から異様な雰囲気を感じ取っていた。
「魔王、魔王アスモデウスだ!」
「ま、魔王だと!?」
「へぇー……魔王か」
魔王アスモデウスからの威圧に何人かが後ろに下がる。
「それにしても、それにしてもまさか言った通りになるとは!」
「は?」
魔王アスモデウスは笑い声を上げる。
「貴様ら、貴様らと殺りあえると言われててな!」
「なんの話だ?」
「冒険者、冒険者ギルドの赤月だろ?」
「ほう、まさか魔王にも名が通っているとはな」
「いや、いや、元々は知らんわ。脆弱なニンゲンの事など」
「おいおい、言ってくれるじゃねか」
「ある者が、ある者が教えてくれたのだ!さて、はじめようか」
魔王アスモデウスが剣を構えると、ゴブリンとオーガも冒険者の方に向き直る。
「俺があの魔王の相手をする。他の者は魔物に専念しろ」
大きな斧を持つ大男が不満の声を漏らす。
「で、ですが、リーダー……」
「魔王の存在は無視できない。だが、あの魔物どもも生かしておいたら、厄介なことになる」
「へい!へい!わかりましたよ、リーダー」
そう言うと、剣を振り回しながら、ゴブリンとオーガの方へ向かって行く。
その後を弓矢を持つ女とローブを着る女がついて行く。
「お、おまえら……」
「アックス、リーダーなら大丈夫ですよ」
盾を持つ男が諭すと、斧を持つ大男アックスは渋々、魔物に向かって武器を構えた。
「ワンダは後方から魔法を!ロアーは魔物の動きをよく観察してください!前衛はいつも通り私とブレイ、アックスでやりますよ!」
「はいよ、シードルさん」
盾を持つ男シードルと剣を持つ男ブレイ、斧を持つ大男アックスが前で陣形を作る。
そして、その後ろにローブを着る女ワンダと弓矢を持つ女ロアーが構えた。
「なんだ?なんだ?まとめて相手してやろうと思ってたんだが」
「お前の相手は俺一人で十分」
ギルド赤月のリーダーロットは六本の剣の内、両手に一本ずつ合計二本の剣を持った。
お互いに見合う形となる。
「来ないのか、来ないのか?なら、こちらから行くぞ!」
魔王アスモデウスは間合いを詰めると大きな剣を片手で振り下ろした。
ブレイは剣を持つゴブリンと対峙する事になった。
先に動いたのはゴブリンの方だった。
「この程度の剣術で俺に勝てるとでも!?」
ゴブリンの攻撃を華麗に受け流し、カウンター攻撃で倒す。
ゴブリンは地面に倒れたが、すぐに後方にいるゴブリンの妖術によってまた立ち上がる。
「魔物が妖術を使うとは……」
「今まで見てきた魔物とは違うみたいね!」
「ヒーラーを先に潰すぞ!」
回復役を先に倒すのは鉄則である。
ギルド赤月はその妖術を使ったゴブリンに狙いを定めた。
ロアーの攻撃を合図に回復系の妖術を使うゴブリンに攻撃を仕掛ける。
放たれた矢がゴブリンを捉えるが、致命的なダメージにはならなかった。
この矢には相手にダメージを与えるよりも重要な役割があった。
それは目印である。
同じ種類の魔物が複数いる場合、どの魔物から狙うのかを明確にする事ができる。
目印が付けられたゴブリンにブレイが攻撃しようと近づくが、異形のオーガに阻まれる。
「くそ!」
異形のオーガの攻撃をシードルが盾で防ぐ。
強い衝撃が伝わった。
「くっ!何というチカラ!」
攻撃し終わった異形のオーガにアックスが突っ込む。
「どけぇ!邪魔だ!」
薙ぎ払いがクリーンヒットし、異形のオーガは吹き飛んだ。
進路が空き、ブレイが目印のゴブリンへ詰めようとするが、別のゴブリンが素早くその進路を防ぐ。
その光景を見ていたロアーが驚きの声を出す。
「なんなの?魔物が連携をしているとでも言うの?」
「仮に……連携をしているなら……指示をしている者が……いるはず」
ワンダの言葉を聞き、ロアーは注意深く観察する。
ロアーの目の良さは矢を当てるためだけではなく、相手を観察し、弱点を見つける事もできる。
しかし、今回はそれを見つける事はできなかった。
「だめ!わからない!後ろの方にいるゴブリンが怪しいと思ったけど、指示を出しているようには見えない!目印を付けたやつと同じ姿だから、あれ全部がヒーラーの可能性が一番高い!」
ロアーは姿が同じオーガやゴブリンは同じ種類であり、同じタイプであると判断した。
戦いながら会話を聞いていたシードルが指示をする。
「わかりました!指揮官がいないなら、ヒーラーを優先で!」
「はいよ!」
ブレイとシードルが突っ込んでいく。
異形のオーガはアックスが抑えているため、邪魔ができない。
他のゴブリンが現れるが、シードルの防衛と後ろからの魔法と矢が援護する。
「雷よ、駆け巡れ……ライトニング」
「百発百中!」
倒れたゴブリンに妖術を使おうとするヒーラーのゴブリンにブレイの剣先が届いた。
そして、一体、また一体と斬っていく。
回復に特化したゴブリンであったため、直接の戦闘には乏しく、ブレイは容易に倒して行く。
ヒーラーがいなくなった事で倒れた魔物が起き上がる事はなくなった。
「よし!これで!」
目の前の魔物に集中していたブレイであったが、優勢になった事で他の事にも気が配れるようになる。
その瞬間、隣からの異様な雰囲気を感じ、目を向ける。
ギルド赤月のリーダーであるロットの乱打を全て防いでいる魔王の姿があった。
贔屓目で見てもどちらが優勢なのかがわかる。
「リーダー!」
ブレイが隣へ走り出そうとするのをシードルが止める。
「何をしているのですか!まだ魔物が!」
「それどころじゃないでしょ!」
「私達の持ち場はここです!」
睨み合いとなってしまう。
その隙をまだ残っているゴブリンが狙うが、ロアーの矢によって阻止される。
「ちょっと!何してんのよ!」
「まだ終わっちゃいねぇぞ!早く片付けて援護に行くぞ!」
その言葉にブレイはもう一度集中し、ゴブリンに走り出した。
「どうした、どうした?こんなものか?」
ロットの全ての攻撃が防がれる。
ロットの持つ六本の剣にはそれぞれ魔法属性が込められており、時と場合によって使い分けてきた。
すでに六本、全ての剣を試したが、どれも効果的ではなかった。
「うるさい!」
これが魔王という存在なのか!
ロットは心が折れそうになる。
今までどんな魔物でも魔族でも倒してきた自分の技が何一つ効かないのだ。
それどころか、最初に魔王アスモデウスが攻撃してきた一撃ですら、防ぐのが背一杯だった。
何故か、魔王は防御に専念しているため、攻撃がくる事がない。
向こうはもう少しで片付く……
ギルド赤月で連携すればいけるはずだ……
と考えているとギルドメンバーが駆けつける。
「リーダー!」
「魔物は片付いたか?」
「片付きました。中々強かったです」
「そうか、悪いな。こっちはまだだ」
ギルド赤月は魔王アスモデウスを見据える。
「おお、おお!あの軍勢を倒したのか!素晴らしい!」
魔王アスモデウスは拍手をする。
その行動からまだ余裕がある事がわかる。
ギルド赤月によって最大の敵である事を誰もが感じ取っていた。
そんな中、どこからか声が聞こえてくる。
「ふわぁ……まだ終わらないの?」
「なんだ、なんだ来ていたのか。予定時刻にいないから来ないのかと」
魔王アスモデウスは木の上の方を見ている。
その視線の先には木の上に寝転がる者がいた。
頭には巻き角があり、翼があった。
その者は欠伸をすると、木から飛び降りる。
気怠そうに立つその者から何も感じなかった。
「な、何者だ!」
ロットが剣を構えながら聞く。
姿から人ではない
なら、魔族……魔王の配下の者か?
ギルド赤月にとって最悪の答えが返ってくる。
「ん……?僕?……僕は魔王ベルフェゴール」
先まで何も感じなかったのに魔王アスモデウス同様に放たれる威圧感。
「ま、魔王……?」
理解できない出来事にロアーの声が漏れた。
あらゆる難所を乗り越えてきたギルド赤月であったが、この日以上の事はなかった。
魔王が二体だと……?
さすがのロットも後退りしてしまう。
「と、言うより……僕の役目はこの後……ふわぁ……」
魔王ベルフェゴールはまた欠伸をする。
「でも、君がやらないなら……」
どしっどしっと地鳴りが聞こえてくる。
ギルド赤月が通って来た方から牛の頭を持つ魔族ミノタウロスが姿を見せた。
「ベルフェゴール様、わたくしがお相手致します」
ギルド赤月は退路を断たれ、挟まれる形となる。
「まさか、挟撃しようとしたら挟撃される事になるとは」
「だ、だから言ったのだ!油断大敵だと!」
「過ぎた事だ……これからどうするか考えろ」
魔王の直属の配下なのか?
今まで会ってきた魔族よりも間違えなく強いな
ミノタウロスから強者の気迫が伝わってくる。
「まって、まって!相手をするのはこのアスモデウス様だ!」
魔王アスモデウスの威圧がさらに増した。
「なら、はやくして……ふわぁ……」
気怠そうに欠伸をする魔王ベルフェゴールとは裏腹にギルド赤月は絶対絶滅のピンチとなる。
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