第19話 赤月
アルメン共和国からの援軍要請を受けてから数時間が過ぎた。
リリとルルはギルド連合国サエティの王ラルと共にサエティ内の集会所に帰って来ていた。
ラルの仕事部屋に招かれ、二人は部屋にある椅子に座っている。
ラルは役人と思われる者達と慌ただしく話し合いをしていた。
その光景を横目で見ていたルルであったが、ふっと何かを感じ取り、扉の方に目を向ける。
すると、その扉が勢いよく開かれ、冒険者が入ってくる。
「ラルさん!準備が終わったぜ!」
「ご苦労様!」
ラルは机の上にある書類を手に取ると封筒に入れる。
「二人とも待たせたね、時間がないから移動しながら説明するよ」
リリとルル、ラルそして先程の冒険者は部屋を出る。
「現在の状況を言うとアルメン共和国に魔族が攻めてきたみたいなんだ。すでに仲間が被害にあったと言う報告も来ている。仲間の救援と防衛にジンが向かっているけれど、念には念を……と思ってね」
「……ここに呼ばれたいう事は援軍ではない別の事?」
「察しがいいね、その通りだよ。君達には別の事を頼みたい。とある人物にこれを届けて欲しいんだ」
手に持っている封筒を見せる。
「てがみ?」
「そうだね。大事な事が書いてある」
「……届け先はどこ?」
「魔族の国だ。まぁ、正確にはだったと言うべきかな」
話をしていると集会所内の別の部屋に着く。
ラルが扉を開け、中に入って行く。
他とは少し広めの部屋であり、中には魔法使いであろう冒険者が二人おり、魔法陣が展開されていた。
「ご苦労様!」
ラルが声をかけると三人の冒険者は頷く。
「魔族の国には転移魔法で移動してもらう」
この世界では転移魔法は高度な魔法であり、魔法陣が必要になる。
魔法陣を作るのに膨大な魔力が必要になるため、複数人で発動させるのが常識である。
この部屋にいた魔法使いの冒険者達は転移魔法を発動させるために準備をしていた。
その準備された魔法陣の上にリリとルルは移動する。
「転移先で赤月というギルドのリーダーに渡して欲しいんだ」
手に持つ手紙をリリに渡す。
「転移先は魔族の国になるだろう。でも、君達の実力なら問題ないはず」
「……報酬は?」
「つれないね。でも、魔族の国で危険だからね。もちろんそれなりの報酬は用意するよ」
「……そう。なら構わない」
「おつかいはとくい!」
リリとルルの承諾を得たと判断したラルは指示を出す。
指示を受けた三人の冒険者は魔法を発動させた。
部屋中が光に包まれる。
光が消えた後にはリリとルルの姿はなかった。
ラルは疑問に思う。
もう少しいくつか質問されると思っていたけど、報酬の事だけだった
他に質問しなかったのは何故だろう?
理解したからなのか、あるいは時間がないと言ったからあえて質問しなかったとか?
まぁいいや
これで向こうは大丈夫だろう
はぁ、このタイミングでの襲撃か……
これは予想外だった
今後の事を考えると頭が痛くなるなぁ
景色が先程までいた部屋でない別の部屋に変わる。
リリとルルは即座に部屋にある扉に目を向ける。
扉が開かれ、三人の防具を身につける者達が入って来た。
大きな盾を持つ者が先頭に息のあった動きでリリとルルを取り囲む。
互いに見合わせる形となり、しばらく沈黙となったが、リリがその沈黙を破る。
「あっ、ぎるどあかつきのひとたち?」
「何者だ!」
「これをとどけにきたの!」
リリは手に持つ物を見せる。
それを見た三人は顔を見合わせる。
「本物か?」
「あぁ、そうかもしれない」
「どうする?」
「とりあえず、リーダーの所に案内しましょう」
話し合いが終わると外に出るように言われる。
建物を出ると周りにも数人の冒険者が武器を構えていた。
「みんな武器をしまって大丈夫です!ラルさんからの伝達者のようです!」
それを聞き、冒険者達は武器をしまい始める。
「すみません。これもここを守る為なのです。こちらへ」
口々にリリとルルの事を話す声が聞こえてくる。
「あぁ、あれが噂のルーキーか」
「へっへへ、結構可愛いじゃないか!」
「だよな!俺も思ったわ!」
「何言ってんだか……」
「ほんと!これだから男って!」
歩いている道にはまだ瓦礫が散らばり、遠くの方には壊れた建物もある。
襲撃から日が経つが、現在でも後片付けに追われていた。
それでも中心にある大きな城は修繕が終わり、冒険者達の寝床となっていた。
「どうだ?立派な城だろ?」
「何言ってんのよ!あんたが建てたわけじゃないでしょ!」
「いやいや、直したんだから建てたの同じじゃんか!」
「どう考えたって同じじゃないでしょ!」
男の冒険者と女の冒険者が言い争いになる。
「うるさい連中で、すみません」
先頭を歩く冒険者が謝罪をする。
生真面目そうなこの男の背中には大きな盾がある。
「もうすぐです」
城の中に入るとそこにも多くの冒険者がいた。
それぞれ装備は異なるが、どれも一級品の装備ばかりである。
首元に刻まれている星もランクが高い者ばかりだ。
そして、リリとルルを物珍しく見る。
その中を多く剣を装備している男がこちらに向かって歩いて来る。
腰の左二本、右に二本と背中には二本。計六本装備しているその男は口を開く。
「そいつらは?」
「ラルさんからの伝達者のようです」
「ほう、ラルからの」
リリとルルに目を向ける。
「ようこそ、魔族の国だった所に。俺は赤月のリーダーをやっているロット・フィーリングだ」
「へーあなたが」
リリは上から下へ視点を移動さながら、ロットを見る。
「……ほら、預かったものを渡して」
「あ、そうだった!」
リリはルルに促されて手紙を渡した。
受け取ったロットは早速、内容に目を通す。
「ラルがこれを?」
「……私達には何が書かれているか教えてもらってない」
「とどけてくれっていわれただけだよ!」
ここまで案内をした盾を持つ冒険者が尋ねる。
「何て書かれていたのですか?」
周りにいる冒険者の視線もロットに集まる。
「今からアルメン共和国の救援に向かえと書かれている」
「アルメン共和国ですか?なんでまた」
「魔族から襲撃があったらしい」
「襲撃!?ここ、奪われた土地じゃなくて共和国に!?」
防具の面積が少なく、素肌を晒す女が驚く。
装備している武器から弓使いである事がわかる。
「そうみたいだ。ここに書かれている情報だと侵攻しているのはゴブリンとオーガからなる大群の魔物らしい」
「リーダー!冗談はよしてくださいよ!ゴブリンとオーガって!」
何人かが笑い声をあげる。
「お前ら笑うな、油断大敵だぞ!魔族がゴブリンとオーガのみで侵攻すると思うか?」
大きな斧を装備している体の大きな男が反論する。
「案外あり得るでしょ!魔族は間抜けだし!」
「相手を過小評価してはならない!」
「えーー、ほんと図体はでかいくせにネガティブなんだから」
「なんだと!」
「油断しない事は良い事だと思うけどな、いくら弱い魔物でも大群になると厄介だから」
別の男が割って入ってくる。
こちらは剣を装備している。
「なに?なに?そっちの味方をするわけ?」
「というか……わざわざ私達がやる事ではないかと……お高くとまっている帝国がいるでしょ……」
ローブを着る女がぶつぶつと嘆く。
「まぁまぁ、皆さん。どうするか決めるのはリーダーです」
皆がロットを見る。
ロットは手紙を見ながら言い始める。
「言っておくが、俺にも決定権はない。ラルが加勢しろと言っている以上、やるしかない。俺達の役割は魔族の国側からアルメン共和国付近のグレー森林を目指す」
「なるほど、攻めている魔族の背中を狙うのですね」
手紙に書かれていた内容は襲撃をしている魔族を後ろから攻める事で挟撃する作戦であった。
ラルはその依頼をギルド赤月にしたようだ。
「うわー魔族かわいそ」
「出発の準備を始めろ!ここは他のギルドに任せる」
慌ただしい雰囲気になる中、ルルが喋り出す。
「……私達の任はこれで果たした」
「そうだったな、国へ帰るのか?それならーー」
「さんぽ!」
「散歩?」
「……少しこの辺りを見て行きたい」
「構わないが、ここは魔族が支配していた土地だ。何があるかわからない」
「……用心はしている」
「だいじょうぶ!」
そう言うと、二人はその場から離れた。
「大丈夫ですかね?」
「一応、他のギルドの者もいる事だし、問題ないだろう。それよりも俺達は出発の準備だ!」
「はいよ」
「ありゃ、しぬね!」
「……すぐそういう事言わない」
その場を後にしたリリとルルは国を出てその辺を歩いていた。
「えー、いかしたところでえるものはなにもないって!それでこれからどうする?」
「……うーん」
ルルは考え込む。
これでアルメン共和国を襲撃した魔族は今回の人間の攻撃で全滅するだろう
でも、先が見えているアリシリア様なら必ず次の手を打ってくる
ワールドレコード通りなら……
リリとルルに予期せぬ出来事が起きる。
突然、二人の耳に大きな音が聴こえてきたのだ。
「え?」
「……え」
思いもしない出来事に声が洩れる。
「どういうこと?」
「……わからない。聴こえてきた方向は向こう」
ルルは音が聴こえた方へ移動し始める。
その後を追うようにリリも動き出す。
しばらくすると、音の発生場所であろう所を見つける。
そこには複数の冒険者と魔族がいた。
見たところ冒険者と魔族の間で戦闘が始まっているようだった。
冒険者の数は四名。
それに対して魔族の方は三名だった。
すでに魔族の三名の内、二名は負傷しており、地面に倒れている。
「なに、あれ」
「……イレギュラー」
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