第18話 魔法部隊
ライン山脈及びグレー森林に隣接するアルメン共和国は魔物から襲われる危険性が常にある。
しかし、アルメン共和国には自前の軍備はない。
では、どのように国を守っているのかと言うと、他国の軍備によって守られている。
アルメン共和国に隣接するギルド連合サエティから冒険者、聖天王国から聖騎士が派遣されていた。
しかし、冒険者と聖騎士の数は年々減って来ている。
その理由は、アルメン共和国をグレー森林と挟むように位置する隣接の国、ベネガル帝国が大きな要因となっている。
元々農地国家であったアルメン共和国の食物を貰う代わりに軍備を貸すという協定を結んだ。
アルメン共和国には砦が築かれ、ベネガル帝国の兵士が我が物顔で歩くようになった。
そして、アルメン共和国の安全を守る為と言い、国の出入りにも関与し始めたのだ。
その結果、冒険者や聖騎士の規制がかかり、援助する際はベネガル帝国の許可が必要になってしまった。
よって、現状のアルメン共和国の守りはベネガル帝国の魔法部隊が主に務める形となっている。
砦の上からグレー森林の様子を伺っている者達がいた。
その内の一人がアルメン共和国に駐屯している魔法部隊を主に指揮する魔法第四部隊の隊長である。
宝石がいくつも付いた大きめの杖を持ち、高価なローブを着ている。
名前はエマエル・ブラン
エマエルは睨め付けるようにグレー森林を見ていた。
そして、グレー森林からは数多くのゴブリンとオーガが目を光らせいる。
ライン山脈を超え、大森林であるグレー森林を通ってきたのだろう
敵の軍勢はすぐそこにまで迫って来ていた
闘技大会のお祭り騒ぎで警戒が薄れていた所を狙われたのか
だとしても冒険者がいたはず……
魔族に対する警戒も含めて冒険者は毎日のように依頼を受け、グレー森林に行く事になってる
ギルド連合のルールとして、異変を感じたら即帰還する事も義務付けられているはずだ
誰一人と帰らないという事は……
エマエルはあまり考えたくない事を想像する。
勘弁してほしい
何のための冒険者なのか
この国の外では自由にさせてるというのに
「これ以上、奴らのいいようにさせるなよ!」
もう奴らと間にあるのはこの壁のみ
砦と言われているが、大量の魔物に襲われた事はない
突破されるかもしれない
手に持つ杖に力が入る。
六つの部隊がある魔法部隊からここに配属されているのは第四、第五、第六の三部隊である。
帝国は半数の戦力をここに置いている。
そして、数字の小さい方が魔力の高い者が多く所属しており、地位も権限も高い。
王からは第四部隊の隊長としてこの砦で指揮を取るように言われている
しかし、いざとなったら切り捨てられるだろう
帝国の半分近くになる戦力であったとしてもここにいる魔法部隊は捨て駒扱いの可能性は十分に考えられる
だが、それも百も承知だ
あの王はそういう王なのだから
帝国にあの王に忠誠心がある者がいるだろうか?
少なくとも私を含め、ここにいる部下にもいないと思う
そもそも魔法部隊に入隊したのも給料が良く、それなりの特権があるからだ
自分の事しか考えない王であるが、自分のために尽くす者には褒美をくれる
気に食わないが、生きて行く上で仕方がない事
それに生きるなら、ただ生きるより、より良い暮らしがしたい
そういう想いでこの隊長の座まで上り詰めてきた
だから簡単にこの座を譲るつもりもない
切り捨てられないように勤めを果たすまでだ
エマエルは近くにいる部下に命令をする。
「万全を尽くす。丁度、闘技大会で英雄が集まっている。至急援軍の要請を!……それと冒険者に被害が出たかもしれないと伝達してくれ」
「わかりました!」
冒険者達は結束力が高い
仲間に危機があったとなるとすぐにでも援軍が来るはずだ
もし自分の身が危険になったら、一時撤退をし、援軍が来るまで待てばいい
危ない橋を渡るつもりもない
などと考えていると魔物が動き出した。
壁目掛けて何体かのゴブリンが走り出し、体当たりをする。
しかし、壁はびくともしない。
「始まったか」
ゴブリンの攻撃は気に留めなくていい
問題なのは奥にいるオーガだ
オーガは手に大きな棍棒を持っている
あれで攻撃されたら壁が壊れるかもしれない
「注意するのはオーガだ!防衛魔法の用意を!さらに攻撃魔法でゴブリンを追い払え!」
エマエルの命令通りに防衛魔法を発動する者と攻撃魔法を発動する者に分けれる。
各々、火や水、風などの属性魔法を詠唱し、ゴブリンを攻撃する。
ダメージを負ったゴブリンは悲鳴を挙げながら、壁から離れた。
安全な所から一方的に攻撃ができる魔法はこの戦いにおいて優勢であった。
さらに防衛魔法も機能し始める。
ゴブリンがいなくなった所にオーガが詰め寄り、棍棒で壁を攻撃し始めたが、防衛魔法によって強化された壁はオーガの攻撃を弾き返す。
そして、上から攻撃魔法を喰らわせる。
攻撃魔法を食らったオーガは怯みながら、壁から遠ざかる。
壁と距離を置いたオーガは地面に転がる石を拾うと、上にいる魔法部隊へ投げ始めた。
しかし、この程度の飛び道具では魔法部隊は対処してしまう。
オーガにしては対応が早いな
石を投げても意味がないと思ったのか、オーガは投げる事をやめ、棍棒で壁を直接攻撃してくる。
いや、気のせいか
ゴブリンも加わり、数多くの魔物が壁に群がる。
「奴らの頭上に範囲魔法を喰らわせてやれ!」
攻撃魔法を担当する者達が三人ずつに集まり、同時に詠唱を始める。
魔物達の攻撃は防衛魔法によっていまだに壁に傷一つ付けられなかった。
範囲魔法が発動していき、壁に群がる数多くの魔物にダメージを与える。
人間と魔物による攻防戦はしばらく続いたが、攻守共に人間側が優勢な状況となった。
徐々に張り詰めていた緊張から優越感に変わる。
一体、何を怯えていたのか
知能がない魔物ごときに私達人間が負けるわけがない
どうなるかわからない未知の恐怖から相手を過大評価していただけだったようだ
「よし、いいぞ!人間様のチカラを教えてやれ!」
ゴブリンやオーガは壁から逃げるように退却し始める。
逃げる魔物の背中を見ながら、エマエルはある事を思い付く。
もしここで襲ってきた魔物も全て倒せば、大きな功績になるのではないだろうか?
そうなれば、さらに昇進ができるかもしれない
別の意味で手に持つ杖に力が入る。
「ブラン隊長、一体どちらへ?」
この場を離れようとしているエマエルに部下の一人が問う。
「どちらだと?あいつらを追うに決まってる!このまま森に逃したら、今後どのような被害が出るかわからないだろ!」
今後の被害とか正直どうでもいい
功績が手に入るチャンスをみすみす逃すつもりはない
チカラの差は今の戦闘で歴然としている
決して危ない橋ではない
むしろ好機だ
「なるほど!これは失礼しました!」
「いいか!この場には数名を残し、魔物の追撃を行う!直ちに準備しろ!」
即座に準備が開始され、門の前に帝国の魔法部隊が集まった。
ふたりひと組で馬に乗り、隊列を作っている。
帝国の魔法部隊の中に飛行魔法が使えない者はいない。
しかし、飛行魔法は燃費が悪く、常時使える代物ではない。
いざと言う時であったり、短期の戦闘に使うのが常識である。
そのため、このように移動する際は魔法アイテムによって強化された馬の方が適している。
成人男性二人を乗せても速度を落とす事なく走る事ができる馬はとても便利である。
エマエルも馬に乗り、命令をする。
「よし、これより追撃を開始する!行くぞ!」
その命令と共に門が開かれ、一斉に逃げる魔物を追いかけ始めた。
後方にいる者が魔法を使い、前方の者が馬を操る。
反撃してくる魔物はおらず、ただ背を向けて逃げるだけである。
しかし、魔物の逃げ足が思いの外速かった。
逃すものか!
必ず功績をあげてやる!
帝国の魔法部隊はオーガやゴブリンを追ってグレー森林の奥へ奥へ進んで行く。
帝国の魔法部隊は逃げている魔物を倒す事しか考えてなかった。
逃げる魔物はしぶとく、倒すのに時間がかかってしまう。
それでも魔物は最後の一匹となる。
時間がかかったが、これで最後だ!
エマエルは肩で息をしながら、最後のゴブリンにとどめを刺す。
魔物の死体がそこらじゅうに転がっていた。
疲労はあるが、充実感の方が大きかった。
これで何かしらの評価はしてもらえるだろう
ランクの低い魔物の素材だが、念のため回収もしておくか
倒した証拠にもなるだろうし、これだけの数だ
何かに使えるかもしれない
倒した魔物をストレージに入れるよう指示を出そうとした時、エマエルの足元に何かが飛んで来た。
なんだ?
エマエルは飛んで来たものを見た。
それは手足が無くなった人間。自分の部下であった。
即座に飛んで来た方向に目を向ける。
先程とは別のゴブリンとオーガがいた。
待ち伏せされた?
いや、魔物にそんな知能があるわけがない
そしてあのオーガは一体なんだ?
今まで見た事がない姿をしたオーガがいた。
体が周りよりも大きく、体の色も違う。
嫌な感じがひしひしと伝わってくる。
よく見てれば、他のゴブリンやオーガも普通とは違う異形な姿である事に気がつく。
なんだ…!この魔物どもは…!
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