第38話 人間
「あそこに強い魔王がいるのか?」
ゼロの目線の先にはアルメン共和国があった。
ゼロの質問にベネガル帝国の魔法部隊第一部隊の隊長であるゲイド・ロブレンが答える。
「そのようです」
「どれくらい強い?」
「英雄ゼロが負けるほどですね」
「ほう、なるほど」
最速の男という名を持つ者であり、闘技大会で一度だけ見たことを思い出す。
そして、闘技大会で自分が戦った相手を思い出し、ゼロの手が震える。
大丈夫だ
俺はあの時よりも強くなったはずだ
「それは武者震いですよね?」
ゲイドはそれを見逃さなかった。
「当たり前だろ」
「なら、いいのですが」
ゼロは話題を変える。
「それよりも他所の国だろ?勝手なことをしていいのか?」
「今は違います。魔族に占領されてしまい、不当な扱いを受けている」
遠くから観察していたゼロの目には人々が虐げられているようには見えなかった。
「なので、私共で救ってあげるのです。というシナリオみたいですよ」
「シナリオ?って、そんなこと言っていいのか?」
「別に問題ありません。事実ですし、大義名分は大事です」
「大義名分か」
あの王の考えることならとつい納得してしまう。
何を企んでいるのか知らないが、まぁそんなことはどうでもいい
今は強い奴と戦って少しでもあの双子を払拭できれば……
魔法部隊第一部隊の副隊長であるガイル・ロブレンが視察から帰ってきたようだ。
「砦にも外にも何も見当たらなかったぜ」
「なら、行きましょう」
「おいおい、正面から行くのか?」
「そうですよ?こちらには英雄様がおられますから」
ゼロの方を見る。
頼られているのか、それとも皮肉か?
この男は表情が読めない
それに比べて
「おお!英雄よ!よろしく頼むぜ!」
こっちはわかりやすい
ゲイドは振り向き、後ろにいる魔法部隊に作戦内容を伝える。
「作戦は至ってシンプルです。正面突発です」
作戦もわかりやすい
ここにいる魔法部隊は第一部隊と第二部隊の中から選ばれた精鋭揃いである。
その中で隊長であるの言葉に対して疑問に思う者はいない。
それだけ魔法部隊の上下関係がしっかりとしている。
その代わりではないが、ゼロが疑問を投げかける。
「警備がいないなんて罠じゃないのか?」
「罠だとしても英雄様がおられます」
また、その表情だ
「わかった。俺が先陣を切る」
「任せたぜ!」
ゲイドの方は無言でお辞儀をするだけであった。
情報によれば、アルメン共和国を守る砦や門は以前よりも強固になったらしい
なのに警備がないのは明らかにおかしいわけで十中八九、罠であろう
「派手にやってもらってかまいません」
ゲイドがそう告げる。
なるほど、それもありか
正面から罠を叩き潰すのもいいな
派手に暴れれば、すぐにでも魔王がやってくるかもしれない
ゼロは扉の前に立ち、魔法を放つ。
「ファイヤーボルト!」
扉は木っ端微塵に吹き飛んだ。
そして、ゼロは魔法部隊と共にアルメン共和国の中へ侵入する。
中に入った瞬間、鋭い視線を感じる。
待ってましたと言わんばかりに数多くのゴブリンが隊列を組んで包囲していた。
魔法部隊もその光景に騒つく。
やはり、罠だったか
遠くから観察していた時にはいなかった
つまり、どこかに隠れていたのだろう
隊列を組むゴブリンは重厚な鎧を着ており、丈夫そうな盾と鉄の棒のようなものを持っていた。
それは通常のゴブリンではなく、魔王アモンによって召喚されたアーマードゴブリンと呼ばれる魔物であった。
あの森で対峙した牛の魔物よりは歯応えがありそうだ
ゼロは剣を一本だけ構える。
まずは試し斬り
「ライジングスラッシュ!」
剣を横に振った。
隊列を組んでいたアーマードゴブリン達はその一振りで胴体から上下に切り離されてしまう。
ゼロも含めたこの場にいる全員が驚きの様子を見せる。
おいおい、まじか
硬そうな見た目だったから、多少、力を入れただけだぞ
「これ程とは素晴らしいです!流石、英雄様です!これではこの指輪の出番は無さそうです」
ゲイドは感嘆していた。
敵の包囲を容易く突発したことで魔法部隊の指揮は上がる。
次々と魔法を放ち、周りに残っていたゴブリンを攻撃し始めた。
中には魔族ではなく、人間にも攻撃している者がおり、その攻撃を魔族が護っていた。
「あれはいいのか?」
と、ゼロは近くにいるゲイドに聞く。
「多少の犠牲は付きものです。それに被害がなければ、変です」
こいつら!と思ったが、助けてあげるほどの義理はない
それよりも……
どうやら、来たようだ
目の前に魔王アモンが姿を見せた。
「い、いつもそうだ!ニンゲンはいつも!」
やり方が汚いと言われればその通りだと思う
「お前が魔王だろ?」
「そうでふ!その強さは英雄でふね、どこの?」
「どこって帝国だが?」
魔王アモンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「お前もただの使い捨てになるでふよ」
「一体、何の話だ?」
「うるさい!妖術 魔物召喚」
魔王アモンの周りにゴブリンやオーガが次々と召喚される。
公国の英雄であるグレースと戦った時のように
数で圧倒しようとしてくる。
しかし、その戦法は通用しなかった。
いくら召喚をしようとも一振りで倒されてしまう。
「こんな奴がいるなんて聞いてないでふ!」
「こっちもがっかりだ。こんなに弱いなんて」
魔王アモンは自分の死が近いことを悟り始める。
昔からそうだ!いつもそうだ!
やっと手にしたと思ったら、すぐ誰かに奪われる
まだ終わりたくない!死にたくない!
そ、そうだ!あの女がたす……
刃が魔王アモンを捕え、真っ二つに斬った。
その瞬間、魔法部隊からは歓声が上がり、アルメン共和国の民からは泣き崩れる者がいた。
魔王の死に対して人間が涙する光景にゼロは納得していた。
この国は人間と魔族の仲が良かったのだろう
実際にゴブリンが人間の子どもを身を挺して護っている姿を見たわけで
それに魔族は邪悪であり、醜いものだと思ってたが、そうじゃなかった
何体もの魔王と戦ったがそれぞれ生きるために必死に戦っている気がした
「そのけんめいに生きようとするかお!美しい!」と言う言葉が頭をよぎる。
その瞬間、足元の地面が光始めた。
その光は広がり、魔法部隊の足元も照らす。
「なんだこれは!?罠か!?」
という声と共にゼロと魔法部隊は光の中に呑み込まれた。
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