第39話 出発
「魔族が土地を取り返しに来たそうです!!!」
という言葉に周りは騒つく。
「このタイミングでしたか」
ギルド連合国の長ラルは魔族が直ぐにでも取り返しに来ると思い、冒険者の中でも強者を抜粋していた。
それが三大ギルドであり、ラルが絶大の信頼をしている者たちであった。
しかし、魔族は直ぐには取り返しに来なかった。
ギルド赤月に頼み事をしてから起こった出来事になる
つまり、手薄になったところを狙ったのかもしれない
でも、どこでその情報を?
ギルド赤月のことを知る者は限られているのに……
ラルは何もかも見透かされている気分になり、視線を落としてしまう。
「こちらは前回同様に参加するつもりはありません」
「何を今更、先の戦闘には参加したはずじゃぞ」
公国の女王マリンと邦国の王ヨハネスが口論をしている。
「それは人の国だっただけです。魔族の土地などという危険な場所に娘を送り出すつもりはありません」
「あの頃とは違い、今は勇者がいないのじゃぞ」
その光景を見ていた公国の英雄グレースの内心は複雑だった。
ど、どうしよう……
で、でも……
「参加する」
凛とした声がこの場に透き通った。
一番驚いていたのは公国の女王マリンだった。
言葉は出てこず、ただグレースを見ていた。
そんな公国の女王マリンに対してグレースは内心で謝る。
ご、ごめんなさい……
そ、それでも……
「同じ過ちはしたくない」
その言葉を聞き、公国の女王マリンは少しだけ納得した顔をする。
先の人間の進行に参加しなかったグレースは前勇者たちの帰りをただ待つことしかできなかった。
結局、彼らは帰ることはなく、悲しい別れになってしまった。
その影響で部屋に篭ってしまう時期があったのだ。
また、英雄のジンが死んだ影響なのか、時より悲しい表情をしていたのも公国の女王マリンは知っていた。
「わかりました。貴女を尊重します。その代わり、必ず帰ってきなさい」
心配してくれるこの人の元に帰るんだという決意と共にグレースは頷いた。
「現在いる英雄は全員参加ということでいいな?」
王国の王レイビスタの問いに否定の声はなかった。
「それで移動はどうするつもりじゃ?」
「転移魔法の陣は形成してあるけど」
ラルは言葉を切り、怪我をしている冒険者を見る。
「も、もう転移先は制圧されているかと……」
ラルは覚悟していたつもりだったが、いざ言われると悔しさと少しでも皆が無事でいて欲しいという気持ちが湧いて来た。
「残念だが、仕方あるまい。これからどうするかだ」
「そうですね」
「従来通り、グレー森林を通ってライン山脈まで行くしかなかろう。道中、魔物が現れることも考慮して幾人かの騎士団員の同行を認めよう」
「ほう?騎士団も参加するとはのぉ」
「当たり前だ。これは危機でもあるのだぞ?お主の国の者は今回も参加しなくていいのか?」
「なぁに、英雄のいない国はしゃしゃり出ない方が良さそうじゃ。遠慮しておくの」
「こっちは参加しますよ。英雄ほどではないけど、強い冒険者がまだいるので」
ラルは扉の向こうからこちらを覗いている双子の冒険者を見た。
各国の英雄に双子の冒険者リリとルルが準備を整え、グレー森林の入口に集まっていた。
その中にはチョコとバニラの姿もあった。
グレースが参加するなら、私たちもと無理を言ったらしい。
どこから聞きつけたのか分からないが、近衛隊までも参加すると言い出したため、公国の女王マリンは渋々二人の参加を認めることにした。
皆がこれからの戦いに険しい表情をしている中、リリが陽気な声を上げる。
「さあさあ!しゅっぱつ!」
「……まだ騎士団の人たちが来てない」
「あ〜まだほかにくるのか!」
「貴女、緊張感はないの?」
意気揚々としているリリに対してチョコが突っ込む。
「え」
「え。じゃなくてこれからグレー森林を越えて魔族の土地に行くのよ」
「うーん。もりはよくしってるし、まぞくのほうにも行ったことあるし」
鎧の擦れる音と共に声が聞こえてくる。
「そうかもしれないが、油断は禁物だぞ」
騎士団長リベルド・フォードを先頭に多くの騎士団がいた。
予定では騎士団長リベルドの参加はなかった。
「団長!」
心也は知った顔を見て少しだけ緊張が和らぐ。
「王から許しを得た。共に行くぞ」
「それは心強いです!」
グレー森林に入ってしばらくは何事もなく、進めていた。
しかし、奥に進むに連れて魔物の視線を感じるようになる。
レベルフォーの領域までの魔物は身を潜めていたが、レベルファイブの領域からは違った。
また、前回のように魔物の処理をリリとルルはしていなかったため、魔物はそこら中にいる。
今か今かと伺う魔物に対して騎士団たちと英雄たちは武器に手を添えていた。
そして、ついに魔物たちが動き出した。
大きなライオンのような魔物が飛びかかってくるが、リリがその魔物を斬り、傷を負わせる。
「さきに行って!」
「……ここは何とかする。グラビティ」
今度はルルが魔法を放ち、襲いかかってくる魔物の動きを封じた。
「で、でも!」
「先に行くのだ!我々もここで!剣を構えろ!」
騎士団長リベルドの命令を受け、団員たちも戦い始めた。
双子の冒険者リリとルル、騎士団をその場に残して英雄たちは先に進むことにした。
グレー森林を抜けるとライン山脈のふもとにたどり着いた。
ライン山脈のふもとにはには木々はなく、ただ広い平坦な土地が広がっていた。
そして、すでにそこでは戦闘が始まっており、ベネガル帝国の英雄と魔法部隊の姿があった。
「もう始まってる!」
「魔族は取り返しただけではなく、ここまで来たというの!?」
「というか、帝国の連中はアルメン共和国にいるんじゃなかったの!?」
新たな人間の増援が来たと思った魔族から戦闘ラビットを先頭にミノタウルスと共に攻めて来た。
今、帝国と戦っている部隊とは別に用意してあったようで統率が取れているようだった。
「こっちにも来た!」
英雄たちは慌てて武器を構える。
そんな中、陽は風の精霊を呼び出した。
「フーちゃん!お願い!」
その声に応えた風の精霊は攻撃をする。
「ウインド!」
突風が吹き、向かってくる魔族の動きを封じた。
その隙を狙ってグレース、チョコ、バニラが素早く斬撃を見舞いする。
「あれは風の精霊」
とアリシリアが呟いた。
「ほう、精霊を見るのは久しいな」
「以前にも?」
「大昔だが、見たことがある」
エリーナがうずうずし出す。
「あっちはわたしがやります!」
と言い、エリーナは精霊使いの方へ駆け出した。
「なら、俺はあっちを相手にしよう」
魔王ベルゼブブはベネガル帝国の者たちによって劣勢となっている方へ歩み始めた。
アリシリアはその場で腕組みをし、戦況を見つめる。
「怪我したものは下がって!わたしも戦う!」
駆けつけたエリーナは魔族と英雄たちの間に割って入る。
「わ、悪いな、嬢ちゃん……」
「気をつけろ!なかなか手強いぞ!」
「うん!任せて!」
エリーナは空間から黒い剣を二本取り出し、構えた。
相手は全部で五人……いや、精霊?というのがいるから六人ね
任せてとは言ったけど、流石にいっぺんに相手するのは……
「あら〜私も〜混ぜて貰える〜?」
魔王レヴィアタンがまるで地面を水であるか如く地面の中から現れた。
「そこのお嬢さん〜どうかしら〜?」
とグレースの方に向かって手招きする。
それを見たチョコとバニラがグレースの前に出て剣を構えた。
「そちらのお嬢さんたちも〜一緒にどうぞ〜」
これによって魔王レヴィアタンがスティーシャ公国の者たちと戦うことになった。
相手するのが聖天王国の者たちとなったエリーナはさらに空間から黒い剣を出し、それは空中に浮遊させる。
エリーナは体を低くし、地面を蹴った。
一瞬の速さで距離を詰め、一振り。
この斬撃を心也は防ぎ、剣と剣がぶつかる音が鳴り響く。
防がれるのは見えている
次は……
心也の後方にいる陽と空中に漂う精霊を見た。
ここ最近の成長速度にエリーナ自身も驚きがあった。
体はやけに軽く、黒い剣も自由自在に操れる。
そして、何よりも相手の動きがスローモーションで見える。
終いには、ちょっと先の動きまで見えるようなっていた。
後ろにいる女と精霊?は距離を取るつもりね
なら……
エリーナは心也の方に目を戻せば、剣を振りかざしていた。
その斬撃を寸前で避けると、左手に持つ黒い剣を投げた。
投げられた黒い剣は心也ではなく、距離を取った陽へと飛んで行く。
しかし、風の精霊のちからで黒い剣の軌道がずれ、間一髪のところで陽には当たらなかった。
「あ、ありがとう!フーちゃん!」
「ちぃ」
舌打ちをしたエリーナは心也の次の攻撃が来る前にムーンサルトをし、蹴りを喰らわせる。
その蹴りの衝撃で心也は後ろの方へ飛ばされ、地面を転がった。
「うわあああ」
「心也!大丈夫!?」
陽の心配する声に心也は立ち上がって答える。
「平気!勝負はこれからだ!」
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