第40話 心を繋ぐ
剣を再び構えた心也は相手を見た。
獣のように構えているその者の周りには黒い剣が漂い、両手にも同じ黒い剣が握られている。
先の僅かな戦闘から、稽古をつけてもらった双子の冒険者のリリよりも剣の扱いは荒く、野生みを感じた。
心也はその者の後ろにいるものも気になっていた。
あれは兎?
黒い兎がこちらをじっと見ている。
正確には陽の方を見ている気がした。
ただ、害があるようには感じなかった。
心也は剣の構え方を変える。
その構えは騎士団長の構えであった。
自分の持つスキルを理解し始めた心也は近くにその者が居なくてもその者の技を使えるようになっていた。
大きく息を吸い込み、声を上げる。
「はあああ!!!」
そして、エリーナに向かって走り出し、力強い斬撃をお見舞いする。
しかし、初見であるはずのその攻撃はひらりと避けられてしまう。
いとも簡単に避けられた!?
そして、すぐに相手から斬撃が来る。
体を捻ることで振り下ろされた剣を体の中心に置き、斬撃を防ぐ。
強い衝撃が手に伝わるが、剣は離さない。
さらにそこから騎士団長のように反撃に出る。
無駄のない動きで反撃したはずなのにすでに相手はそこにいなかった。
まずい……!
と思った瞬間、背後から魔法が飛んできた。
魔力の込められた弾のようなものを相手は黒い剣で防ぐが、その後から来た風の魔法によって後ろへ飛ばされる。
今の攻撃でも傷一つ付けられず、動きや反応の速さにこれが魔族なのかと心也は思ってしまう。
そして、後ろから声をかけられる。
「大丈夫!?」
「なんとか!ありがとう!」
相手は風の精霊に目を付けたようで追いかけ始めた。
しかし、風の精霊は上空へと逃げる。
睨み合いとなっているところに先程と同じく、陽が魔法を放った。
陽は精霊召喚の他に魔法の練習も沢山していた。
その結果が出ており、風の精霊との連携から放たれる魔法に相手はやり辛いのか顔をしかめていた。
それを見ていた心也は昔のことを思い出す。
高校に入学してから一カ月が経った頃、クラスの中での心也の立ち位置は大体、決まっていた。
周りからは優しい良い人と位置付けられ、男女問わず、頼られることが多かった。
その中には買い物を頼まれることもあり、いわゆるパシリというやつだ。
心也自身もそのことは分かっていたが、誰かの役に立てているならそれでもいいかと思っていた。
そんな毎日のようにパシリをしてくるクラスの男の子からあることを言われる。
「そういえばお前って二組の有江と知り合いなんだろ?」
「ま、まぁ、一応……」
「なぁ、紹介してくれよ」
心也は一組で陽は二組であったが、家が隣同士の幼馴染である二人は学校の行きと帰りは一緒だった。
その帰り道、陽にそのことを伝えた。
「別にいいけど、まだそんなことしてるの?」
「そんなことって?」
「頼まれたら断れないのは知ってるけど、嫌ならすることないよ」
「好きではないけど、嫌ではないから」
陽は浮かない顔をする。
「そう。それでどこに行けばいいの?」
次の日の放課後になると陽を指定された場所である体育館裏へと案内した。
相手の男の子が見えると陽は心也に言う。
「ここでいいよ。後は私の問題だから」
それ以来、その男の子からの頼み事は一切無くなった。
陽に聞いてもただ飽きただけでしょと言われるだけであった。
真相は分からないが、陽が何かをしたのだと心也は思った。
いつだって陽は気にかけてくれる
今だって相手が近づかないようにしている気がする
必死に戦っている陽を見て手に持つ剣を強く握る。
もっと強く……力があれば……
「力があったらどうする?」
聞いたことがない声が聞こえ、心也は周りを見渡してしまう。
すると、スキルを発動した時のように光っている人影を見つける。
「あなたは一体……」
「元勇者ってところかな」
「勇者!?で、でも、たしか……」
「俺の魂は加護によって失われなかったみたいなんだ」
「そんなことが……」
「でも、この通り、体がなくてね」
と手を広げて半透明になっている姿を見せる。
「先の質問に戻るが、力があったらどうする?」
心也は自分への問いだったことに気が付き、慌てて答える。
「それはもちろん、みんなを助けたい!」
「よし!それなら、俺の力を使ってくれ!」
「え」
「君ならそれが可能だろ?ちゃんと見てたよ。紛れもなく、リベルド団長の技だった」
「あっ」
と声が漏れる。
スキルを使えば、使えるということなのか
「そう時間は長くないよ」
その言葉を聞き、戦場を見渡せば、それぞれが死闘を繰り広げていた。
「お願いします!貸してください!」
「もちろんだ!こちらこそよろしく頼む!」
「はい!心を繋ぐ(コネクトハート)!」
前勇者である勇希と繋がったことで心也の体にチカラが流れ込んでくる。
なんだか体がぽかぽかする
とても温かい
それと同時に騎士団長の時にはなかった頭に痛みが走る。
「うっ」
痛みは最初だけであり、すぐになくなった。
そして、エリーナと陽の戦いの中に参加し始めた。
相手との距離を詰め、剣を突くが、何事もなかったかのように防がれ、カウンターが飛んでくる。
「転身の加護!」
前勇者のスキルを発動させ、華麗にかわし、さらに反撃する。
「ギガスラッシュ!」
避けることは困難だと判断した相手は黒い剣で防ぎに来るが、その剣を叩き折る。
その光景に驚いた様子を見せた相手は心也から距離を取ろうとする。
それを見ていた陽が着地したところを狙う。
完璧なタイミングで飛んで行く魔法を見て当たることを確信する。
果たしてどれ程のダメージを相手に与えることができるのだろうか
しかし、陽から驚きの声が上がる。
「なによあれ!?」
地面から空に向かって流れるように黒い液体が現れ、魔法を防いでしまう。
そして、今までじっと見ていた黒い兎が相手の肩に飛び乗り、何かを言っている。
「テダスケハヒツヨウカ?」
「いらない」
相手からさらに研ぎ澄まされた目を向けらる。
今すぐにでも飛びかかって来そうな気迫とは裏腹にゆっくりとこちらに歩いてくる。
その時、どこからともなく鐘の音が聞こえてきた。
その音が聞こえたのは相手も同じだったようでその場に立ち止まり、不思議そうにしている。
そして、周りを見れば、グレー森林で戦っているはずの双子の冒険者の姿を見つけた。
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