第41話 懸命


突如、アルメン共和国で謎の光に包まれたゼロと魔法部隊は気付いたら、ライン山脈のふもとにいた。

どうやら、転移魔法のようなものだったらしく、目の前には異形の集団、魔族が迫っていた。

状況が掴めないまま、いきなりの戦闘となったが、ゼロのチカラもあり、善処していた。

そして、徐々に陣形の立て直したゼロと魔法部隊は魔族を押し返し始める。

そんな中、魔族側からさらに動きがある。

今まで戦っていた魔族とは別の異形の者がこちらに歩いきた。


「いつ以来だろうか、ここで戦うのは」


堂々と歩いて来るその異形からは強者の風格があった。

その風格からか、誰かの固唾を呑む音が聞こえた。


「昔はよくここでーー」


相手が話をしている途中であったが、ゼロは近づき、剣を振り下ろした。


「少しくらい思い出を語らせて欲しいのだが」


と言いながら、寸前で振り下ろされた剣を避ける。


こいつ……!


能力が覚醒した自身の攻撃が避けられたことでゼロは動揺してしまう。

その動揺は相手に筒抜けであった。


「なんだ?これくらいで」


もう一方の剣を持つ手に力を入れ、続けて剣を振る。

しかし、これも寸前で避けられてしまう。


くそ!もっと速く……!もっと!


その後も続けて攻撃をするが、一つも当たらない。

この間、魔王ベルゼブブのキラーアイというアビリティを発動していた。

キラーアイは物事をスローモーションで見ることができるアビリティである。

そのため、魔王ベルゼブブはゼロの攻撃を避けることができていた。

ただ、思いもしない出来事が起こり、魔王ベルゼブブは笑みを浮かべる。

それはスローモーションで見えている相手の動きが徐々にであるが、速くなっていた。


「素晴らしい」


と呟いたかと思えば、ファイティングポーズをしてくる。

今まで避けるだけであった魔王ベルゼブブの行動に警戒をしたゼロは攻撃をやめて一定の距離を取る。


武器は持たないのか?


構えには隙があるように見えるが、強者である雰囲気を漂わせている。


誘いか?まぁいい


ゼロは一歩で距離を詰め、剣を振り下ろす。

周りから見れば、一瞬の出来事であった。

しかし、魔王ベルゼブブには全て捉えられていた。

魔王ベルゼブブはスローモーションで見えることを利用して相手の動きに合わせるように拳を置いて行く。

ゼロからすれば、目の前にいきなり拳がある感覚に襲われ、避けることが出来ずに喰らってしまう。

まともに殴られてしまったゼロであったが、ゼロのスキルは攻撃面だけではなく、耐性に対しても効力を発揮していたため、そこまでのダメージは無かった。

ゼロは顔を上げ、魔王ベルゼブブを見る。


「ほう、頑丈なのも素晴らしい」

「さっきは何か言う途中だったような……その、体が動いてしまったんだ。悪かった」


この者の風格に当てられ、思わず体が動いてしまったことを謝った。


「さっき?あぁ、気にしないでくれ。ただの独り言だ。それよりもここに来て正解だったようだ。お前のような強者と戦えて久しぶりに昂ってる」


魔王ベルゼブブはファイティングポーズをする。


今の流れでこっちの連中は戦意を失い、後ろにひいているが、相手の魔族は意図的に手を出さずに見ている感じだ

まるで王……


「そうか、おまえも魔王か?」

「ん?そうだが、何を今更」


魔法部隊の方を見ると、魔法部隊の者たちは知らないと言わんばかりに首を横に振っていた。


なんだ?帝国が知らない魔王ってことか?

それよりも以前、戦った魔王とは比べものに強さだ


「以前にも魔王と戦ったことがあってだな」

「以前?そうか、あいつらは倒したのはお前だったのか」

「同胞を殺されて怒りが込め上げてきたか?」

「いいや、それはない。強者が生き残るのは当たり前のことだ。あいつらは魔王という名に溺れた弱者に過ぎない」

「なるほど」


そうなんだ、魔族には己の信念がある

共和国で見た光景も今、ここで起きていることも……


「どうした?続きをしようではないか」


と言い、魔王ベルゼブブは構え直す。


前世では何にもやる気になれずにただ過ごしてた

自分の信念なんてなかった

この世界に来てからは力を得たことで優越感には浸れた

でも、それでは駄目だった

自分よりも強い者が現れ、叩きのめされた

結局、自分には信念なんてない

何かをしたいとか、そんな大層なものは……


ふと、一生懸命にという言葉が頭に浮かぶ。

そして、一息吐いたゼロは剣を構え、魔王ベルゼブブに向かっていた。

それを見ていた魔王ベルゼブブは笑みを浮かべ、拳を強く握りしめた。

魔王ベルゼブブは先程と同じように突っ込んで来るゼロに合わせて拳を当てに行く。

この動きに対してゼロは急激に体を捻ることで修正し、カウンターにカウンターをする荒技をする。

間近で見える魔王ベルゼブブが少しだけ驚いた表情になったが、間一髪では避ける。


これでも当たらないのか

でも、まだだ……


ゼロは諦めずに喰らい付いて行く。

魔王ベルゼブブとの戦いが続くにつれてゼロの集中力は高まり、いろんなものが見えるようになっていた。

周辺ではゼロと魔王ベルゼブブの戦い以外でも激しい戦闘が繰り広げられていた。

そして、戦闘中にも関わらず、ゼロは魔族側の後ろの方にいる者に目がいってしまう。

左右で色が違う髪色の者、胸の膨らみがあることから女性であることがわかる。

そんなゼロに対して魔王ベルゼブブは言う。


「思わず目を引く気持ちはよく分かるぞ」


ゼロは魔王ベルゼブブに向き直る。


「容姿だけではなく、異様な雰囲気を感じるだろ?」


ゼロは無言で頷く。


容姿が綺麗なのも認めるが、問題なのはそこじゃない

あの者が身に纏っているものに見覚えがある

フード付きの黒い服……


ゼロの脳裏に二人の冒険者が思い浮かんでいた。

その時、どこからともなく鐘の音が聞こえてきた。

鳴り響くその音は魔王ベルゼブブも知らなかったようで周りを警戒している。

ゼロもそれに釣られて周りを見渡す。

すると、脳裏に思い浮かんでくる二人の冒険者を見つけ、思わず叫んでしまう。


「あいつらは!」

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