第42話 剣綺


スティーシャ公国の英雄グレースとチョコ、バニラは突如、地面から現れた者に連れられ、少し離れた場所にいた。

その連れてきた者は魔物とは違い人間の女性のような見た目をしていた。

白髪の長い髪に肌は褐色で所々にある青色の鱗が輝いており、艶めかしい雰囲気を漂わせている。

そんな彼女が質問をしてくる。


「貴方が〜スティーシャ公国の英雄でしょう〜?」

「あ、えっと……」


グレースは小声で質問に答えようとしたが、チョコの大きな声がそれを掻き消す。


「そうだけど!そっちは何?魔族ってわけ?」

「ん〜まぁ〜そうね〜魔族だけど〜魔王でもあるのよね〜」


魔王という言葉を聞き、さらに警戒心が大きくなったグレースたちは剣を構える。


「そんなに構えなくても〜ちゃんと後で〜相手をしてあげるわ〜今は少しお話でもしましょう〜」


今度はバニラが答える。


「何を話すって言うの!?」

「そうね〜まずは〜あ、名を言ってなかったわ〜わたしは〜レヴィアタンって言うの〜よろしくね〜」


おっとりした感じの雰囲気を漂わせ、名乗る魔王レヴィアタンに自分たちが剣を構えていることに馬鹿馬鹿しさを感じてしまう。

また、魔族に初めて会ったグレースたちは聞かされていた魔族像とは違うことに内心驚いていた。


言い聞かされていた凶悪で邪悪な感じはしない

これなら、人の方がよっぽど……


と思ってしまったグレースであったが、首を横に振り、手に持つ剣を強く握る。


相手がなんであれ、ここに来たのは魔族を倒すため……!侵攻を止めないと!


そんなグレースの様子を見ていた魔王レヴィアタンは残念そうに言う。


「あら〜貴女とは〜仲良くできると思ったのだけど〜それに〜戦うのって疲れるし〜あまり〜好きじゃないのよね〜」


多少戸惑いがあったグレースだが、地面を強く蹴り、魔王レヴィアタンに向かって行く。

そして、攻撃ができる範囲に入った瞬間、スキルを発動させる。


「剣綺(けんき)」


魔王レヴィアタンはじっと見ているだけで避ける様子を見せない。

そして、グレースの剣先が魔王レヴィアタンの体の鱗に接触する。

金属と金属がぶつかったような音がし、斬撃が弾かれた。

グレースの剣綺で斬れないものは今までなかった。

そのため、本人だけではなく、チョコとバニラにも動揺が走る。


な、なんて硬い鱗なの……?


「嘘!グレース様の斬撃が効かないなんて!」


硬いところが駄目なら、他のところを狙えばいい……!


連続で飛んでくる斬撃を魔王レヴィアタンは体をひらりと動かし、鱗へ誘導する。

そして、またしても鱗によってグレースの剣が弾かれてしまう。


こ、攻撃が鱗の方に流されたの……?


確かめるためにグレースは続けて剣を振るが、全て鱗によって弾かれてしまう。

このことからグレースはあることを思い付く。


鱗以外を嫌っている……?

つまり、鱗以外のところなら斬れるなのかもしれない……!


その後もグレースは何度も試すが、全て鱗へ誘導され、弾かれてしまい、鱗以外のところを斬れるとかどうか確認することができない。


な、なんて強さなの!?

今まで会った中で間違えなく一番強いって……!


そして、何よりも不気味なのが、ここまで魔王レヴィアタンからの反撃が一切ないことである。

それどころか攻撃をする素振りすらない。

いつか反撃が来るかもしれないと思うとグレースも中々、力強く相手の懐に踏み込めずにいた。

その光景を見ていたチョコが大きな声で聞く。


「な、なんで一切攻撃をしない!?」


敵同士であり、命の取り合いをしているはずの戦いの中で普通なら、相手に聞くようなことではない。

そんな問いにも何事もなく答える魔王レヴィアタンはどこかまだ余裕があることを感じさせる。


「う〜ん、それはね〜貴女たちのことは〜殺さないように〜と言われているからなのよ〜」


それを聞いたグレースたちは驚き、グレースは距離を取る。


「ど、どういうこと!?」

「え〜そのままの意味よ〜貴女たちは死ぬことはないわ〜ここにいればね〜」


ここ……?

この場所に連れてきたのはこの者だったけれど、それに意味が……?


グレースの思っていたことをチョコが代弁してくれる。


「ここに連れてきた意味があるっていうの!?」

「もちろんよ〜全てはあの御方の計画通りよ〜」

「あの御方?」


魔王レヴィアタンの視線がグレースたちから魔族側の後方へと移る。

視線の先にはフード付きの黒いローブに身を包む白と黒の髪色の者がいた。

その者にグレースは見覚えがあった。

いや、忘れるはずがない連合国の英雄であったゼロを倒した者である。

グレースは自然と体が動き出し、その者に向かおうとする。

しかし、その行手を魔王レヴィアタンが遮る。


「どこへ行くつもり〜」


魔王レヴィアタンは笑みを浮かべているが、目は笑っていない。

さらに今まで受けたことがない重圧を受ける。


「ここ以外に〜行かれると〜困るのよね〜」


グレースと魔王レヴィアタンの睨み合いになるが、先の戦闘からも明らかに魔王レヴィアタンの方が上手である。

普段はグレースの邪魔になると思い、自重している二人であったが、相手は魔王でもあり、グレースが初めて苦戦する相手である。

チョコとバニラが戦えば、ただでは済まないことは本人たちが一番分かっていた。

それでもグレース様の役に立ちたいという想いが覚悟を決める。


「グレース様!今回は私たちも一緒に戦います!」


その覚悟をグレースも感じ取り、大きく頷いた。

そして、三人は等間隔に距離を作り、魔王レヴィアタンと対峙する。

剣を強く握り、三人同時に攻撃を仕掛けようとした時、どこからともなく鐘の音が聴こえてくる。

聞いたことがない鐘と音にグレースたちが不思議そうに辺りを見渡す中、魔王レヴィアタンは笑み浮かべながら、言う。


「これから〜何が起きるのか〜楽しみだわ〜」


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