第25話 チカラ
ベネガル帝国の英雄であるゼロはあちらこちらに倒れている死体を見つける。
そして、その近くに立つ三体の異形に目を向けた。
あの双子じゃない
ゼロは双子の冒険者ではない事から安堵する。
なら、こいつらは何だ?
これが魔族なのか?
知能が低く野蛮であると聞かされていただけで、ゼロは魔族を見た事がなかった。
「なんだ、なんだ?それがお目当ての者か?」
「そうだね……金髪と二本の剣が特徴だって……聞いてる」
そう言いながら、魔王ベルフェゴールは足をふらつかせる。
なんだこいつ、今にでも寝そうじゃねか
「よかろう!よかろう!何であれ、ニンゲンは叩き潰す!」
「ちょっと……僕の役目……取らないでよ」
そんなやり取りをしていると、一番最初に動いたのは牛の頭を持つ魔族ミノタウロスだった。
ミノタウロスはゼロに向かって突進していく。
いきなりの攻撃であったが、ゼロは高い身体能力で素早く銀色の剣を抜刀し、突進してくるミノタウロスを一振りで首を斬り落とした。
ギルド赤月が苦戦したミノタウロスを一瞬で倒してしまう。
「勝手なことを……するから」
次に動いたのは魔王ベルフェゴールだった。
ふらついた足取りであったが、手のひらから炎を出すと、ゼロに向けて放った。
「妖術 紅火(べにび)」
ゼロは慌てて飛んでくる炎の玉を避ける。
「なんだよ!いきなり!」
これくらいは……避ける
なら……これは?
「なにしやがる!」
「妖術 紅火(べにび)」
返答の代わりに手のひらから炎を出し、今度は連続で放った。
連続で飛んでくる炎の玉もゼロは軽々と避ける。
「ほう!ほう!いい身のこなしではないか!」
「やるね……次は……どうする?」
魔王ベルフェゴールは手を上空に掲げる。
すると、空に大きな炎の塊が出来上がってゆく。
それを見た魔王アスモデウスは魔王ベルフェゴールの前に立つ。
「ねぇ……何してるの?」
「なに!なに!その妖術に集中した方がよかろう」
「そんな……必要ーー」
ゼロの姿が消え、魔王アスモデウスの目の前に迫っていた。
一瞬で……距離を
「いいぞ!いいぞ!相手してやる!」
抜刀し、攻撃をしてくるゼロに対し、魔王アスモデウスは大きな剣を振る。
見事なカウンターであったが、ゼロはそれを避け、少し距離を置く。
「ほう!ほう!これも避けるか!」
「というか、おまえらは何者だ?魔族なのか?」
「いかにも!いかにも!魔族であり、魔王である!」
「魔王だと!?」
思いもしない返答にゼロは驚いた様子を見せる。
「そういうこと……妖術 紅火(べにび)」
魔王ベルフェゴールの合図で大きな炎の塊が空から降ってくる。
妖術 紅火(べにび)は炎を造り出し、あらゆる大きさ、形に変える事ができる。
頭上に降ってくる大きな炎の塊をゼロは避けようとせずに黄金の剣を抜き、上から振り下ろした。
大きな炎の塊は真っ二つに分かれ、左右へ飛んでゆく。
「なっ」
その光景に魔王ベルフェゴールは驚きの声が出てしまう。
あの双子と比べれば、全然大したことないな
双子の冒険者と戦った事でゼロの中で強さの基準が変化していた。
全然、目で追える速度だし、体も反応できている
前回はほとんど反応できなかった……
リリとルルの存在が規格外だっただけであり、ゼロは間違いなくこの世界で最強の存在であった。
だが、慢心はしない
それがあの双子との戦いで一番学んだことだ
まずは相手を観察しよう
魔王と名乗る者は全身に鎧を着ており、大きな剣を持っている。
紫色に輝くその鎧はなかなか代物であろう。
そして、その魔王の後ろにいる者は気怠そうに炎を生み出している。
炎を得意としているのか
魔族は魔法ではなく、妖術を使うんだっけ
剣を使うやつと妖術を使うやつか
ゼロの脳裏にはやはり、双子の冒険者がちらつく。
あの双子も剣と魔法?を使っていた
「おまえが魔王なのはわかったが、後ろの炎を出すおまえは部下かなんか?」
「あれ……さっき言った……僕も……魔王だよ?」
「おまえも魔王なのかよ」
冗談だろ?
いや、まだ本気ではないのかもしれない
警戒しつつ、攻撃をしてみるか
まずは……
ゼロは黄金の剣を構えると魔法を発動させる。
「レイジングブラスト!」
黄金の剣が光り、素早く連続で突きを繰り出す。
以前の相手には完璧に防がれた攻撃をする。
速度の早い突きに魔王アスモデウスの反応が遅れる。
まともに攻撃を喰らい、紫色に輝く鎧を貫いた。
「ぐっっ!ぐっっ!なんという速さ!」
魔王アスモデウスは慌てて横に流れ、ゼロの突きから逃れる。
「油断したわ!油断したわ!」
魔王アスモデウスはアビリティを発動させる。
アビリティ 完全防御
魔王アスモデウスの鎧がさらに光り輝く。
どんな攻撃も防ぐ事ができるアビリティである。
ギルド赤月のメンバーはこのアビリティの前に無力であった。
「これなら!これならどうだ!」
攻撃が通じると判断したゼロは同じ攻撃をする。
「レイジングブラスト!」
素早い突きを浴びさせるが、先とは違い、鎧に弾かれる。
なに?
さっきは通じてたはず……
あの光に何かあるのか?
「効かぬ!効かぬ!」
魔王アスモデウスは大きな声を出す。
なら、別の攻撃を試す
ゼロは構えを変えると魔法を発動させる。
「ライトニングスラッシュ!」
黄金の剣が電気を帯びる。
そのまま、上から下へ振り下ろした。
魔王アスモデウスは避ける事はしなかった。なぜなら、自身のアビリティに対して絶対の信頼をしていたからである。
今までこのアビリティを打ち破った者はいなかった。
「どんな!どんな攻撃も効かぬ!」
しかし、ゼロの攻撃はそのアビリティを凌駕する。
攻撃を受けきろうとする魔王アスモデウスを真っ二つにした。
真っ二つになった断面には電気が帯びていた。
あまりの出来事に魔王ベルフェゴールは唖然としてしまう。
圧倒的防御力のアスモデウスがやられた
それも一撃で
同じ魔王が無惨な姿になった事で警戒心が強くなり、気怠そうにしている魔王ベルフェゴールの姿はどこにもなかった。
あの斬撃はまずい
近づいたらだめだ、距離を取って戦う
「これは疲れるから、使いたくなかったのに」
魔王ベルフェゴールは垂れ下がっていた翼を広げるとアビリティを発動させる。
アビリティ 瞬間移動
魔王ベルフェゴールはゼロの背後へ一瞬で移動すると、妖術を放つ。
「妖術 紅火(べにび)」
背後を捕らえられたはずなのにゼロは連続で飛んでくる炎を全て避ける。
これで仕留められるとは思ってない
魔王ベルフェゴールはアビリティと妖術を組み合わせ、四方八方から攻撃をする。
飛んでくる炎の種類は様々であり、大きいものから細長いものなどあらゆる攻撃手段を見せる。
しかし、どれひとつもゼロにダメージを与える事はなかった。
歴然としてチカラの差があった。
ゼロは攻撃を受けながら思う。
魔王というものは本当にこの程度なのか
徐々に魔王ベルフェゴールの攻撃回数が減ってくる。
こんなに強いなんて
あの新しい魔王は僕なら勝てると言っていたのに
相手は装備からも剣を使った近距離からの攻撃しかない
遠距離から攻撃ができる僕の方が有利なのに
どうする?アスモデウスがやられた
ここはいったん退くべき?
魔王ベルフェゴールは判断に迷いが出てきていた。
「ホーリーイグネイション」
その瞬間、突如、魔王ベルフェゴールの体が光に包まれた。
光の正体はゼロが放った魔法であった。
魔王には聖魔法が効くのではないかと考えたゼロは聖魔法を頭の中でイメージし、浮かんで来た魔法名を詠唱したのである。
光に包まれた所は大爆発を引き起こし、跡形もなく、消し飛んだ。
初めて使った魔法の威力にゼロ自身も驚きを隠せなかった。
「とんでもない威力じゃないか」
ゼロは魔王達の姿を確認しようと辺りを見渡すが、どこにもなかった。
完全に消滅させてしまったか?
そして、見渡した時に別の事にも気がつく。
「おいおい、さすがにやばいじゃないか?これ」
魔王ベルフェゴールの妖術によって、山火事になっていた。
炎が木から木へ燃え移り、辺りを赤い色に染める。
「と、とりあえず、水魔法で……」
ゼロが魔法を使おうとした時、空から水滴が降ってきた。
その量は段々と増え、火を消してゆく。
雨か?
この世界にもあるのか
ゼロは空を見上げる。
先まで晴れていた空はいつのまにかに暑い雲に覆われ、大粒の雨を降らしていた。
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