第24話 強者
「それで!英雄と我が娘達はどこにいるのだ!」
この城の主人であるベネガル帝国の王ラサールは怒鳴りつけた。
「申し訳ございません。何処かに出立されるお姿を見たと申す者がいるのですが、行き先までは……」
「この大事な時に!!何を!!」
闘技大会ではチカラを見せつける事ができなかった
それどころか汚名を着せられた
それを晴らす為にも魔族の襲撃は利用できる
今度こそ、我が英雄のチカラを見せつけてやる!
それなのにどこへ!
「急いで捜索しろ!」
すでに他の国は英雄を送り込んでいると聞いている
このままではまた他の国に手柄を取られてしまう
帝国の王ラサールは悔しそうに握りこぶしを作った。
その頃、グレー森林のある場所で異変が起こっていた。
グレー森林の奥地に大きな氷があった。
その氷が溶け始め、亀裂が入る。
どれくらいの間寝ていただろうか
いや、記憶が無くなったのはついさっきだった気がする
崩れた氷の中からベネガル帝国の英雄であるゼロが現れる。
ゼロは自分の身体を触り、確認する。
氷に覆われた気がしたが、身体は冷たくない
脳裏にあの双子の冒険者が浮かんでくる。
次元の違う強さだった
ゼロは身体を震わせれる。
何か話しをした気がするが、内容をうまく思い出せない……
「くそ……」
視線が地面に移ると、すぐ側に死体がある事に気がつき、目を逸らす。
三人の死体もゼロ同様に氷に覆われていたらしく、氷が溶けた跡があった。
「これからどうする……事態を知らせるために戻るべきか?」
戻るとしてもこの死体はどうする?
しばらく考えた末、ゼロは死体を持って帰る事にした。
首のない胴体と首をあまり直視しないようにストレージに入れた。
そして、死体を閉まっている時に使っていた剣が落ちている事にも気が付く。
剣を拾い上げ、元あった腰に装備し、出発する準備を整える。
その時、遠くの方で何かが起こっている気配を感じた。
「なんだ?」
警戒心が強くなっているゼロは向かうべきか悩む。
あの双子だったら、次は間違いなく死ぬ
勝てる気がしない……
しかし、方角が帝国への帰り道と同じである為、ゼロは恐る恐る向かう事にした。
グレー森林内でギルド赤月のメンバーと魔王が対峙していた。
魔王アスモデウスはギルド赤月へ歩み寄る。
ギルド赤月のリーダーロットはかなり焦っていた。
非常にまずいことになった
目の前から魔王が迫ってきている。
そして、退路を塞ぐように牛の頭を持つ魔族ミノタウロスがいる。
さらに木にもたれかかるようにもう一体の魔王。
まるで興味がないような態度で目を閉じているが、何かあれば加勢してくるかもしれない
そして、背後にいるこの魔族もかなりの強者に違いない
それでも目の前にいる魔王よりはマシだ
ロットはこの場から逃げる為に退路をミノタウロスを倒す選択をした。
ギルドメンバーに合図を送り、動き出す。
全員がミノタウロスに向かって走り出した。
「チカラ負けしたとしても手数で突破する!倒す必要はない!逃げることだけを考えるだ!」
ミノタウロスは自分に向かってくる冒険者に対して大きく振りかぶり、パンチを放つ。
「逃がすものか」
そのパンチを盾を持つシードルが正面から受ける。
パンチが盾にぶつかった瞬間、音が鳴り響き、衝撃が発生した。
衝撃によってミノタウロスは少しだけ重心が後ろに傾く。
その隙を剣を持つブレイが攻撃をするが、剣はミノタウロスの肉体を斬る事ができずに弾かれる。
「なんて硬さ!」
それでもギルド赤月は攻撃を緩めない。
魔法と弓矢による遠距離から攻撃。
魔法は顔を、矢はミノタウロスの目を射抜こうと飛んでいくが、腕で顔を隠し、それを防ぐ。
腕が顔付近にある為、今度は胴体が無防備となる。
そこにロットが連続で斬撃をし、アックスが斧で振り下ろした。
ミノタウロスの肉体に傷が付き、呻き声が漏れる。
その隙にミノタウロスの傍を抜け、突破する事に成功する。
しかし、すでに回り込んでいた魔王アスモデウスがいた。
「全く!全く!逃げるとは情けない!」
「黙れ!!!」
ロットは魔王アスモデウスに攻撃をするが、紫色に輝く鎧はロットの攻撃を簡単に弾く。
またこれだ
攻撃が効かない……
特殊な防具なのか、斬撃が無効化されている気がする
などと考えている暇がない事にロットは気付くが、気付いた時にはもう遅かった。
ロットの攻撃が防がれた事によってギルド赤月はその場に立ち止まってしまう。
この闘いで足が止まる事は死を意味していた。
手数を増やして隙なく攻撃をする事で相手に攻撃をさせる時間を与えていなかった。
しかし、ここではじめてギルド赤月は攻撃を受ける側になる。
足が止まったギルド赤月に対して容赦なく後ろからミノタウロスの攻撃が降り注ぐ。
死とは案外、簡単に訪れる。
後ろにいた杖を持つワンダが殴られ、吹っ飛ばされる。
木にぶつかり、原型がなくなっていた。
仲間の心配などしている暇はなかった。
すでに放たれていたパンチは後ろにいたもう一人、弓矢を持つロアーも吹っ飛ばした。
そして、魔王アスモデウスからも攻撃が来る。
大きな剣を振り回し、ブレイを真っ二つに斬ると、続けて盾を構えているシードルを盾ごと斬ってしまう。
こ、これが魔王……
「弱い!弱い!弱すぎる!本気を出したらこれだ!」
「こ、こいつ!リ、リーダー……」
それがアックスの最後の言葉だった。
隣にいたアックスの首が飛ぶ。
そして、その剣先がロットに向いていた。
「さて、さて、どうしたものか」
一撃で仲間が死んでいく中、ロットは悲しみよりも魔王という強さに妬ましさを抱いていた。
ロットが冒険者になったのは強くなりたかったからである。
強くなれば、名声を得ることができる。
有名になって周りからちらほらされるのはとても良い気分だった。
たがらこそ、ロットは英雄を妬んでいた。
生まれ持ったチカラがあり、周りから一目置かれてる存在。
ロットがいくら鍛錬を積もうとも決して届かない存在。
それは目の前にいる魔王も同様である。
俺とはものが違う
いくら欲しがろうとも手に入らない強さ
ロットは剣を強く握り、攻撃をしようとした瞬間、横から魔王アスモデウスが持つ大きな剣の刃が向かってきた。
カウンターで攻撃を食らったロットは防ぐ事ができずに胴体を切断され、下半身の感覚がなくなった。
地面に倒れ、意識が薄れる最中、ロットは思う。
英雄と……魔王が……戦ったら……勝つのは……どっち……だろうか……
魔王アスモデウスは首を振りながら、不満気に言う。
「たわいもない!たわいもない!」
そんな魔王アスモデウスとは裏腹に魔王ベルフェゴールは木から降りてきた。
「ふわぁ……やっと出番か」
そう言うと魔王ベルフェゴールはある方向に目を向ける。
その方向には険しい表情をする帝国の英雄ゼロが立っていた。
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