第26話 ナトゥーア邦国
これは魔族の襲撃があったという知らせが来てからすぐの出来事である。
闘技場がある聖天王国からある一団が出発した。
一団には豪華な馬車があり、その周りに護衛をする馬軍の姿があった。
そんな豪華な馬車から話し声が聞こえてくる。
「いやぁ、まさか護衛にお前さん達をよこすとはのぉ」
ナトゥーア邦国の王であるヨハネス・フルドア・シュルツは笑いながら言う。
そう、この一団は邦国の王ヨハネスを邦国まで護衛する集団である。
「私達が護衛すると自ら申し上げました」
聖天王国の二人の英雄の一人である陽は軽く頭を下げながら言う。
「ほぉ、よく許したものだのぉ。あの王なら自らの足で帰れなどと言うかと思ってたのじゃがなぁ。それに大事な物は手元に置いておくタイプだと思ったのだがなぁ……あぁ、そこまでお前さん達は大事ではないって事もあるかのぉ」
もう一人の聖天王国の英雄である心也は陽と顔見合わせる。
「不安な事を言ってしまったなぁ、なに、もしそうならいつでも来てくれても構わんよぉ、こちらはいつでも歓迎するからのぉ」
歓迎するという言葉を聞き、心也は慌てる。
「あ、いや、でも、それはいけない事ですよね?英雄は各国に一人だと……」
「表向きではのぉ」
「表向きですか?」
「おっと、お前さん達に話す事ではなかったのぉ、年老いるとつい口を滑らしてしまうのぉ。すまんすまん気にせんでくれ」
邦国の王ヨハネスは含みのある言葉で濁す。
「それで?自国の利益よりもこんな老ぼれの護衛を選んだ訳は何かのぉ?何か目的があるのではないかのぉ?」
心也は陽を見る。
護衛したいと言い出したのは陽だった。
理由を聞いていない心也も気になる様子を見せる。
「竜について知りたいのです」
陽が口にした言葉に邦国の王ヨハネスは目を見開いて驚く。
「まさか!聖天王国の英雄からその言葉を聞くとはのぉ!」
陽は話を続ける。
「私なりに調べました。私達の国、聖天王国は竜を信仰しないで主と呼ばれるものを信仰しています。なのに、国の至る所に竜と思われる像がありました。一体どうしてなのか知りたいのです。それでナトゥーア邦国に行けばわかると聞きましたので」
「なるほどのぉ……お前さんが疑問に思うのはわかるのぉ。未だに竜の像を残しておるからのぉ」
「やっぱり、前任者と関係があるのですか?」
「前任者?あぁ、勇者のことかのぉ」
「はい。なんでも竜のチカラが使えたと」
「そこまで知っているとはのぉ。以前までの英雄は前任者の事など知ろうと思った者はいなかったわい。勉強熱心なことだのぉ」
そう、陽は昔から疑問に思ったことはとことん突き詰めるタイプだ
だから、成績も優秀なんだと思う
「なら、前提としてお前さんは竜が存在していたと思うかね?」
陽は考え始める。
沈黙がしばらく続き、陽が口を開く。
「存在していたと思います。他にもジンさんが竜を召喚できる者がいたと言ってました」
「ほぉ、あの英雄から話を聞いておったのかぁ、あの者もこの世界の真理を知る一人じゃからのぉ」
「真理ですか?」
「そうじゃ、この世界は竜が創ったということじゃ」
心也は酒場での事を思い出す。
オレグさんが言ってたことだ
「それでどうすれば会えるのですか?」
その言葉を聞き、心也は驚いた顔をする。
心也は今までの会話の流れから、竜はもう存在してないと思っていた。
そして、邦国の王ヨハネスは笑い声をあげる。
「会うじゃと!実に面白いことを言うではないかぁ!」
「本当に真理だと言うのであれば、今でも存在しているのではないですか?」
またしても邦国の王ヨハネスは笑い声をあげる。
「その通りじゃ、竜は今でも存在しておる!よかろう!我が国で教えてやろう!方法はあるからのぉ」
聖天王国を出発して、しばらく経った頃、馬車が止まった。
馬車が開かれ、心也と陽は邦国の王ヨハネスと共に外に出る。
「ここがナトゥーア邦国じゃよ」
大木が数多く立ち並んでいる。
聖天王国のような建物はなく、大木に住居のようなものがあり、邦国の人々は森の中で暮らしているようだった。
心也と陽は感心した様子で周りを見渡している。
グレー森林にも大きな木があったが、その比じゃない
まるで別世界だ
「わしらは自然と共に生きておる。自然は偉大じゃよ。さぁこっちじゃ」
心也と陽は邦国の王ヨハネスの後をついて行く。
邦国の人々は王がいる事もあり、その場で頭を下げている。
「もしかしてこの森の奥に竜がいるのかな?」
心也は自分で考えた憶測を言う。
「どうだろう?竜って言ったら、空の上にいるイメージだけど」
心也と陽の会話を聞いていた邦国の王ヨハネスは笑う。
「そんな単純なものではないのぉ。それにお前さん達に資格があるかどうか見極める必要があるのじゃ、誰でも会えるわけではないのでのぉ」
目的地に着いたのか邦国の王ヨハネスの足が止まった。
大木が立ち並ぶ自然の中に大きな扉が不自然にあった。
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