第27話 竜
「扉?」
大自然の中にある大きな扉は異彩を放っていた。
周りとは明らかに違う扉の陰から何者かの姿が見える。
そして、それは扉の陰だけではなく、心也と陽を囲むように数人が周りにいる。
いつのまに!?
服装は全員同じで迷彩柄の服を着ており、口元を布で覆っている。
背中には剣のような物を背負っている。
まるで忍者のような格好だけど一体……
心也と陽は身構える。
「そんなに警戒しなくても大丈夫じゃよ」
邦国の王ヨハネスの言葉は心也と陽だけではなく、この場にいる全員に言っている気がした。
「ですが、陛下。扉の前です」
その内の一人が邦国の王ヨハネスの近くで片足を地面に着けながら言う。
「試すだけじゃよ、それにうまくいけば前の勇者のように」
「そういう事ですか、わかりました」
そう言うと、口元を布で覆う者は後ろへと退がる。
「さぁ、二人とも扉の前に行くのじゃ」
心也と陽は扉の前に立たされた。
扉に変化はない。
これは前に立っているだけでいいのだろうか?
陽もただ扉を見ているだけである。
「えっと、何かするのですか?」
心也は振り向き、邦国の王ヨハネスに問いかける。
その問いの返答ではなく、邦国の王ヨハネスは大きな声を出す。
「おおお!!!」
邦国の王ヨハネスの声と共に扉が開く音が聞こえてきた。
重厚感のある音が鳴り響き、心也は扉へ向き直る。
開き始めた扉から誰かが歩いてくるのが見えた。
目の辺りを布で覆っており、目隠しをしている。
白色の髪は長く、男か女なのかがわからない。
そして、特徴的な弓と矢を装備していた。
心也は驚いた。
目を覆っていて、あれでは見えてないはずなのに何事もなく、歩いている
その者は邦国の王ヨハネスの前まで来ると頭を下げた。
「久しいのぉ!調子のほうはどうじゃ?」
「はい陛下。しっかりと務めを果たしてます」
「それは良い事じゃ」
「この者達が新たな聖天王国の英雄ですね?」
目隠ししている顔を心也と陽の方へ向ける。
「そうじゃが、何か要件でも?」
「はい陛下。お呼びであります」
「おおお!」
「えっと、これはその……」
陽がこの状況の説明を求めた。
そう、この者は何者なのだろうか?
「おぉ、すまんのぉ、紹介が遅れたのぉ。この者はこの国の英雄じゃよ」
「「えっ」」
心也と陽の声が重なる。
「なんじゃ、邦国には英雄がいないと聞かされてたのか?」
「あ、はい。邦国と共和国の英雄は行方がわからないと」
「本当に何も知らないようじゃのぉ」
邦国の王ヨハネスは笑い声を上げる。
「行方がわからないと言うのは嘘という事ですか?」
「それは違うのぉ。他の王が勝手に言い始めた事でそれに乗っかっただけじゃ、嘘を言った覚えはないのぉ。おかげでいろいろと手回しができたわい。ただ、共和国の方は本当らしいがのぉ」
「いろいろと事情がある。はじめまして私は邦国の英雄であるデイトナ・グランストーンという」
驚きの様子を見せる心也と陽であったが、挨拶をする。
「聖天王国の英雄大空心也です」
「有江陽です。あの……それで扉の中に入ってもいいのですか?」
「もちろんだ。そのために私はここに来た。君達は選ばれた」
選ばれた?一体何に?
と思う心也であったが、薄々勘付いていた。
デイトナは邦国の王ヨハネスに一礼すると先に扉の中へ入って行く。
それを追うように心也と陽も扉の中へ入って行く。
扉の向こうは別世界が広がっていた。
建造物の中なのか、白いものに囲まれた空間はとても広かった。
心也は何かを察した。
奥に何かいる
それでもデイトナの後を着いて行く。
デイトナが立ち止まると、心也と陽も立ち止まった。
そして、二人は息を呑んだ。
目の前には巨大な竜がいた。
銀色に輝くその姿は神秘的なものだった。
その竜が口を開く。
「良くぞ、来てくれた。新たな聖天王国の英雄よ。我はこの世界で唯一の竜である。名はアース・エヴリウェア。この世界を創りしものだ」
これが竜!
もの凄い存在感だ!
目を閉じてお辞儀をしながら、陽が言う。
「まさか、こうしてお会いできるとは思いませんでした。感謝します」
心也も慌ててお辞儀をする。
「君は我を探していたようだな」
「ご存知でしたか」
「当たり前だ。我は何でも知っている」
世界を創ったというだけある
何でもお見通しなのか
「書物を見る機会がありました。そこで知り、実在するのであれば、お会いしたいと思ってました」
「ほう、我に会ってどうするつもりだったのだ?」
「特には……実在するかどうかが知りたかっただけです」
「なるほど、そうか。さて、早速だが、本題に入ろう。お前達をここに呼んだのは問題が発生したからだ」
「問題ですか?」
「大問題だ。この世界を変えようとしている者がいる。我が創りしこの世界をだ!」
怒りのこもった声を上げる。
世界を変える?
「お前達も知っているはずだ。魔族が人間の国に攻めて来た事を」
ついこの前の出来事だ
今どうなっているのだろうか
「それを企てた首謀者がいる。その者が世界を変えようとしているのだ!それは突如として現れた。いつ、紛れ込んだのかすらわからない。我の管理下からすり抜けている存在だ」
陽が質問をする。
「首謀者となると、その者は魔族ですか?」
「そうだ。自らを魔王と名乗っている。これから人間と魔族はより嫌悪になり、争いは激化して行くだろう。それもこれもその者のせいである」
争いはだめだ……
心也の気持ちが昂ってくる。
「そんなの放っておけません!何か手はないのですか!?」
「一応、手はいくつか打った。しかし、安心はできない。念には念をと思い、お前達にも手伝って欲しい事があるのだ」
「もちろんです!手伝います!これ以上、争い事が増えるのは嫌です!」
「その正義感の強さ……前の聖天王国の英雄を思い出す」
「勇者のことですか?」
「本当に惜しい存在をなくした」
「王様から聞きました。魔王との戦いで命を落としたと……」
「一説ではそう言われているが、それも定かではない。勇者と魔王の戦いが始まる前の事は我も認知していた。だが、戦いの最中の事は何もわからない。わかった頃には両者は地面に倒れていたよ。そして、先程話した者が新たに魔王に名乗り上げていた。お前達はこれをどう考える?」
陽が答える。
「その者が関係しているのかもしれないです」
「そういう事だ。我もそう考えている。本当に厄介なものだ。その者の特徴は白と黒の髪色で女である」
「女性なんですか?」
「そうだ。今のところ居場所は不明だ。それらしき者がいたら、気に留めて欲しい。それとは別にもうひとつ気になる事がある。お前達にはそちらを主に任せたい」
「一体、何をすればいいのでしょうか?」
「赤髪と青髪双子の冒険者を知っているはずだ」
「双子の冒険者……」
心也は思い返す。
闘技場で見たあの子達のことか
「はい!知ってます」
「よし、その双子の動向に注視してもらいたい。不審な動きをしている節がある」
「監視ですか?」
「そうなる。向こうに戻ったら接触してもらいたい」
「わかりました。お任せください」
「よし、これで決まりだ。ナトゥーア邦国の英雄はまだここに残ってくれ」
「わかりました」
デイトナは頭を下げる。
アースの目線は心也と陽に移る。
「我からひとつだけ助言だ。スキルは己の信念によってより強くなる」
「己の信念……」
「では、期待してる。聖天王国の英雄よ」
「「はい!」」
心也と陽は大きく頷いた。
入って来た扉から出ると、今度は大自然の中だった。
そして、満面の笑みをする邦国の王ヨハネスと迷彩柄の服を着る者達に出迎えられた。
「どうであったか?お会いできたかのぉ?」
「はい」
「これではっきりしました!竜がこの世界を創ったのだと」
「そうか!そうか!それは良かったのぉ。これからは主とか言うものじゃなく、竜を信仰するのじゃ」
「そうします!正直、主と言われても何がなんだか……でも、竜は存在しています!」
心也の言葉を聞き、うんうんと邦国の王ヨハネスは頷く。
「私たちは王国に帰りたいと思います。竜に会えたのも王様のおかげです。本当にありがとうございました」
陽は頭を深々と下げる。
「こちらも感謝しているのじゃ、こうしてまた竜を信仰する者が増えたのだからのぉ」
ナトゥーア邦国に来た時に乗った馬車みたいに豪華ではないが、それなりの馬車を提供してもらい、心也と陽は帰路に着いた。
「もちろん言われた通りにするんだろ?」
「そうだね、双子の冒険者に会いに行かないと!私も個人的に会ってみたいし。あれだけの魔法が使えるだよ?何か刺激になるかもしれない」
「たしかに!闘技場では凄かったし、何か強くなるヒントがわかるかもしれない!」
「心也は強くなりたいの?」
「決心が着いたよ。今日、話を聞いて英雄としてみんなを守らないといけないだって……だから、強くなりたい」
馬車を見送る邦国の王ヨハネスに迷彩柄の服を着る者が問いかける。
「前の聖天王国の英雄と同じになるでしょうか?」
「なるじゃろ……王なんかよりも英雄の方が民に対する影響力は大きいからのぉ。それに王国にはまだまだ竜を信仰する根強い信者がおるからのぉ」
邦国の王ヨハネスはニヤリと笑った。
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