第30話 同族


エリーナはしばらく膝を抱え、うずくまるようにして地面を見ていた。


いつまでもこうしているわけには……


そう思ったエリーナはおもむろに立ち上がり、野営地の方に歩き始めた。


おじさん達にはなんて言おう……


おじさん達の悲しむ顔を想像し、余計に気が滅入ってしまう。

野営地に近づくに連れてなんだか慌ただしくなってくる。

先程まで下を見ながら歩いていたが、その異様な雰囲気に顔をあげる。


「なんだろう」


何か騒いでいるようで沢山の声が聞こえてくる。

その中に悲鳴のような声もあり、ついさっき自分が冒険者に襲われた事を思い出す。


もしかしてここにも冒険者が!?


少し駆け足になったエリーナは野営地に到着する。

そして、野営地の状況を目の当たりにし、その場で固まってしまう。


なんで?


エリーナが見たのは魔族が魔族を襲っている光景であった。

鳥のように翼が生え、クチバシがある者がエリーナのように獣の耳を生やした者を襲っていた。

辺りは血で染まり、襲われている魔族は何が起こっているのか分からない様子だった。

自分達がなぜ襲われているのか分からないまま、命を懇願する者もいれば、武器を持ち戦う者もいる。


人間と対面した時もそうだった

助けたいと思えば思うほど体が強張って動けなくなる

それに今回の相手はニンゲンじゃない

同じ魔族……


襲っていた魔族が戸惑っているエリーナにも気が付き、近寄って来た。

エリーナもその魔族に気が付き、声を荒上げる。


「なんでこんなことを!」

「これは命令なのだ。許せ……」


そう言いながら、手に持つ槍で攻撃をしてきた。

容赦なく攻撃してくる事に戸惑いが増す。

それでも修行の経験と冒険者との死闘を経験したエリーナにはその攻撃が軽く遅く感じた。


「そんなこと言われても!」


槍で突っ込んで来る相手に合わせて蹴りを入れる。

蹴りを食らった相手は後方へ飛ばされる。

その騒動に周りの注目を集めてしまう。

何人もの魔族がエリーナを見ながら近づいて来た。

周りを見渡せば、エリーナと同じ魔族はほとんど生き残っていなかった。

エリーナは唇を噛み締めながら、一歩も引かない。


「クロは手を出さないでね」


クロの強さは先の冒険者との闘いで理解している

だからこそ、闘って欲しくない

クロなら間違えなく殺してしまうからだ

殺すのはニンゲンだけでいい

例え、おじさん達を殺した相手であっても同じ魔族は……


「・・・・」


クロは何も言わずに肩に乗っている。

近づいて来た魔族が槍で攻撃を仕掛けてくるが、先程と同じように避けながら、カウンター攻撃をし、退けさせる。

エリーナは殺傷能力が高い黒い剣を使う事はせずに殴りと蹴りで応戦する。

複数から攻撃が飛んできても華麗に捌いて行く。

ぶっ飛ばされたり、地面に打ちのめされた者は痛みを堪えながらも立ち上がろうとしている。

そんな魔族達の後ろからエリーナはある気配を感じ取る。


何かが来る?


「一体、何をしている?」


大きな翼が特徴で白色の全身に緑色の血管のような線がある者が歩いてくる。


周りにいる魔族とは別格の強さを感じる


「ルシファー様」


そう言いながら、魔族達が頭を下げている。


様?それにこの態度は


「あなたが主導者?」

「ルシファー様に何を!生意気な小娘!」

「よせ、みっともない」


魔王ルシファーは周りの魔族を静止させれる。


「君の言う通り、私がこの者達に命令した」

「なんで命を奪う!同じ魔族でしょ!」

「これは仕方がない事なんだ。盟友であったサタンが死んだ。その時からこうなる事は決まっていた。言いつけは守らなければならない」

「それならなんでこの野営地を作って助けてくれたの!?」

「せめての救いさ。ニンゲンなんかには殺されたくないだろう」

「そんなことない!同じ魔族に殺される方が辛かったはず!」

「どうやら、ここまでのようだ。時間切れだ」


いきなり会話を断ち切った魔王ルシファーは何かを気にする素振りをする。


「ルシファー様、この者はどうしますか?」

「どうにもできない。今すぐ撤退する」


そう言うなり、踵を返すと翼を広げて飛び立つ。

それに続くように他の魔族も飛び立ち、あっという間にいなくなってしまう。

残されたエリーナは地面に膝を着き、表情を曇らせる。


また失ってしまった

悲しいはずなのに涙は出てこない


そんなエリーナを一筋の光が差し込む。

空からアリシリアが降りて来た。


「ひどい有り様ですね」


聞き覚えのある声にエリーナは顔を上げる。


「アリシリア様!」


エリーナは今までの経緯をアリシリアに話した。


「そうでしたか、冒険者まで……大変でしたね。貴女が無事で良かったです」

「クロが護ってくれました。ありがとうございます」

「このままでは良くないです。皆さんを弔ってあげましょう」


そう言うと、亡骸を一箇所に集め、埋葬を始めた。

その時、おじさん達の亡骸を見つけ、少しだけ涙が溢れた。


「これからどうしますか?」


エリーナは埋葬した場所を見ながら聞く。


「そうですね。貴女には魔国ドーソへ向かってください」

「アリシリア様もご一緒ですよね?」

「いいえ、私は別の件があります」

「そうですか……」

「貴女にしか頼めないのです。その国に行って欲しいのです」


側にいたけど、アリシリア様の頼みごと……


「わかりました!わたし、やります!」

「お願いします。道案内についてはこの子が知ってます」


アリシリアはクロを見ながらそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る