第35話 支度


魔王ベルゼブブはどのように返答するべきか悩んだ。

今更、ニンゲンの所に行って何になるのかと考えてしまう。

魔王ベルゼブブが返答に渋っていると、犬耳の少女エリーナが質問する。


「エン・ヘリアルは取り戻さないのですか?」


それを聞いたアリシリアの表情がほんの僅かだけ動いた。


そうきましたか

すぐにでもアルメン共和国に行くつもりでしたが、ここは……


「わかりました。まずはエン・ヘリアルを取り戻しに行きましょう」

「ありがとうございます!」


エリーナは自分の意見を聞いてくれたことに感謝を述べた。


「奪われたものを取り返すと言うのなら俺も協力しよう」

「あら、これには賛同してくれるのですね」

「元々の状態に戻すだけだ。と、その前に」


魔王ベルゼブブは未だに泣き崩れ、座り込んでいる魔王ルシファーを見る。


「俺はここを離れるが、ルシファー。おまえはここにいろ」

「一体……どこへ行く?」

「エン・ヘリアルを取り返す」

「エン・ヘリアルか……」


懐かしい言葉を聞き、ルシファーは顔をあげる。

すると、視界にアリシリアの姿が映った。

ルシファーは何かを思い出したのか、また、地面を見ながら呟く。


「そうだ……役目を……役目を果たせば」


そして、おもむろに立ち上がり、志願する。


「私も同行したい」




聖天王国にある教会の前で心也と陽は双子の冒険者に出会った。


「僕たちのことを探していたとは?」

「……ちょっと用があるだけ」


それに対して陽は手を合わせ、謝りながら言う。


「ごめんなさい!後でもいいかな?これから王様のところへ報告しに行かないといけなくて」

「あ、そうなんだ!ぜんぜん、ぜんぜん!だいじょうぶ!」

「……じゃあ、あとで」


承諾と約束をした心也と陽はその場から離れ、聖天王国の王レストレンジの元へ向う。


「話くらい聞いてあげても良かったんじゃ……」

「何だか長くなる気がして」

「そうかな?」


そんな会話をしているとレストレンジ王がいる部屋の扉の前に到着した。

大きく立派な扉の両枠には兵士が立っており、心也と陽の姿を確認すると、扉を開け始めた。

扉は開かれ、心也と陽は中に入って行く。

中には金銀で輝く椅子に座るレストレンジ王の姿があった。

前回の時と比べて周りには人が数名しかいない。

その中に騎士団長リベルド・フォードを見つけた心也は少しだけ緊張が和らぐ。


「戻ったか、英雄よ」

「「はい!」」


二人は返事をし、頭を下げる。


「無事に老ぼれの王を送り届けたか?」


言い方が悪いが、ナトゥーア邦国の王のことであろう。

質問には陽が答えてくれた。


「何事もなく、無事に果たしました」

「そうか、そうか。ご苦労であった。これで邦国には貸しが出来たことだろう」


レストレンジ王は満足そうにしている。

そして、すぐ近くにいるリベルド団長に手で合図する。

合図されたリベルド団長は一歩前に出ると話し始める。


「次は王と共にとある会議に出てもらいたい。その会議は数日後を予定している」


続いてレストレンジ王から言葉が下る。


「悪いが、拒否はできない。とても大事な会議なのでな」




レストレンジ王との面会が終わった心也と陽は教会の近くに来ていた。

すぐに双子の冒険者リリとルルを見つけ、陽が声をかける。


「お待たせしました!少し待たせちゃったかな?」

「い、いや!ぜんぜん!だいじょうぶ!」


慌てて答えるリリを横目にルルが聞く。


「……ここではなく、話せる場所ある?」

「それなら……あそこがいいかも!」


と陽が言うと二人を案内する。

案内した場所は心也と陽が訓練に使っている所だった。

早速、心也は聞いてみる。


「それで用とは一体?」

「……闘技場で見せたあれは何?まるで別人だった」

「別人?あれは僕のスキルだよ」


心也は現状、理解している自身のスキルについて説明をした。


「……そのスキルが発動している時はどんな感じ?」

「どんな感じか……そうだね、不思議な感じだよ。他の人の能力なのに自分のことのようにわかるみたいな……」

「……なるほど」


ルルは考え込む。


イレギュラーではない?


「こっちも聞きたいことがあるのだけど、いいかな?」

「……何?」

「二人はスキル持ちなの?」


陽がした質問は心也も気になっていたことだった。


「……スキルは持ってない」

「もってないね!」


心也は何かしらのスキルを持っているのだと思っていたため、驚く。


「それなのにそんなに強いなんて凄いよ!」

「……スキルの有無が直接の強さにはならないと思う」

「そうだ!戦い方を教えてください」


と陽がいきなり提案する。


「うぇ……」


リリはあからさまに嫌そうな顔をするが、ルルの方は承諾する。


「……別にいいよ」

「ちょっ!」


否定的なリリにルルは耳打ちをして説得し始める。


「……当分ここにいないといけない。それにまだ可能性があるかもしれない」


耳打ちが終わるとリリは渋々、頷いた。

それから数日の間、心也と陽は戦い方を学んだ。

この数日で心也は二人が信頼できる者達だと思った。

そして、とある会議の当日となった。

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