第32話 主

とても広い空間に巨大な竜がいる。

その巨大な竜へ跪きながら、ナトゥーア邦国の英雄であるデイトナが質問する。


「聖天王国の英雄はいかがでしたか?」


巨大な竜であるアースがそれに答えた。


「純粋で素直な者だった。勿論、そのような者を選んで転生させたわけだが」

「二人というのも何か考えがあっての事でしょうか?」

「いや、二人というのは我も予期せない事だ。たまたま転生される際に巻き込んでしまっただけだろう」

「なるほど、そういうことでしたか」

「ギルド連合国の英雄が死んだ。次の英雄が転生されるまで今後は聖天王国の英雄を軸として動く事になるだろう。そのため、お前にも表で動いてもらうかもしれない」

「わかりました。その際は何なりと」

「よし、まずはアルメン共和国の状況をーー」


突然黙ってしまったアースにデイトナは違和感を感じ、顔を上げる。

アースの目線は別の所を見ているようでデイトナもそれを感じ取り、そちらに顔を向けた。

すると、そこから禍々しさを感じ取る。


「あれは何でしょうか」


そこには黒い渦があり、その中から人影が見えてくる。


「やっと見つけました」


その人影はそう呟きながら、歩いてきた。


「こんな所に隠れていたのですね」


髪色が白黒のツートンカラーの美女の姿が見えた。

禍々しさを感じ取っていたデイトナはすぐさま弓を構え、戦闘態勢になる。

アースが少し驚いた声を出す。


「侵入者?どうやってここへ?ここは我が許可した者しか来れないはずなのだが」

「あら、そうだったのですか。私は場所さえ特定できれば、何処でも来れます」

「ふざけるな!お前は何者だ?いや、見覚えがある。新たな魔王だな?まさかそっちの方から来るとは……これまで散々好き勝手に……なぜ、我の管理下にいない」

「私を管理するつもりですか?どうやって?」


アリシリアはくすりと笑う。


「我はこの世界で唯一の竜であるアース・エヴリウェアだ。この世界を創りしものだ。つまり、この世界の頂点であり、支配者である我にーー」

「何ですか?それは?その名は?自分で決めたのですか?」

「なんだ!我が名を愚弄する気か!」

「誰が主人であったのか忘れた挙句、自ら勝手に名を名乗っているものを愚弄以外に何があるのですか」

「主人?我はーー」

「黙れ」


美女から放たれた圧力にアースは言葉通りに黙ってしまう。

周りは静寂に包まれた。


「完全に失敗作ですね。まぁ、今後の参考にします」


アースはひと呼吸置いて恐る恐る口を開く。


「さ、先から何を言っている?」

「この世界を管理するものとして貴方は創られたという事です」

「な、なんだそれは!一体、誰が我を創ったとーー」


途中で言うのをやめたアースはこの疑問に対して自ら答えが思い浮かんでくる。


「お前か……!」

「いえ、私が直接的に貴方を創った訳ではありません。我々の内の者が創りました」

「我々?本当に何者だ?」

「逆に聞きたいのですが、主を何だと思ってます?」




ナトゥーア邦国の王を邦国へ無事送り届け終えた心也と陽は聖天王国に帰ってきていた。

まずは聖天王国に帰った事を伝えるために二人は王のいる城を目指す。

その道中、王国内で最大の教会と思われる建物の前を通る。

この国、聖天王国は竜ではなく、主を崇めている。


「なぁ、主ってなんだと思う?竜が存在しているのはわかったけど」


中から何やら声が聞こえてくる。

祈りなのか皆が声を揃えて同じ事を言っている。

その中には聖職者だけではなく、王国の民や鎧を着た者までいた。


「うーん。元いた世界で言うと神様じゃない?竜のことを調べていた時に主について述べていたものがあったの。そこには神様とも書かれていたね」

「神様か」


元いた世界には神様がいたっけ

実際に見たことはないけど


それでも様々な宗教があり神様がいたことを心也は思い出す。


「実際に昔の英雄の中には神様って呼んでた人もいたみたいよ。私たちと同じような世界から転生されたのかも」

「知っている同じ呼び方だったら、その可能性はありそうか」

「元となるものは同じで呼び方が違うだけかもしれないね。全部同じ神様みたいな」


今度は教会の中からではなく、別の方から話し声が聞こえてくる。


「いのりとかされてもこまるでしょーほら、いのってくれってほんとうにいっているとはかぎらないわけだし」

「……祈るだけでそのものが救われるなら別に」

「いやいや、まいかいきかされるほうだってたいへんだって!」


教会のすぐ近くで話して良い内容ではない。会話をしているのは剣を腰につける赤髪のツインテールの少女とローブを着る青髪のポニーテールの少女だった。

剣士と魔法使いである事と見覚えがある事に陽と心也は気がつく。


「あれって」

「あ!闘技場で戦っていた双子の冒険者!?」


間違えない

帝国の英雄に勝った人達だ

間近で見ると思っていた以上に小柄だなぁと心也は思う。

すると、赤髪の少女が心也の方を見た。

お互いに目と目が合う。

陽が双子の冒険者の方へ歩み始めた。


「あれ、どうしてあなた達がここに?」

「……人探し」

「まぁ、いまみつけたけどねー」


赤髪の少女は少しだけ目を逸らしながら言う。





「主?聖天王国の者達が言っている戯言にすぎない」


いや、待て

我はそんなものを創った覚えはない

なら、なぜ存在している?……管理下にないもの

つまり……


「そうか、それはお前?我々?の事か?」

「ある程度は理解してきたようですね、主というのは呼び名ですよ。この世界ではそう言われているだけです」


信じがたいが、筋は通っている気がする


今まで気に留めていなかった主というものが得体の知れないものとしてアースに恐怖を与える。


「何であれ。我に歯向かうのであれば、このまま見過ごすわけにはいかない」


美女は戦闘態勢のデイトナを一瞥する。


「そうですか。私もただ話しをしにここに来たわけではないので……ここで消えてもらいます」


その言葉を聞き、アースも大きな翼を広げ、戦闘態勢になる。


「そうか、やれるものならやってみろ。この世界を創ったのは我だ」

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