第28話 思惑
アルメン共和国は魔族、主に魔王の手によって征服された。
しかし、元々そこに暮らしていた人間に危害は一切なかった。
危害があったのは帝国の魔法部隊の生き残りであり、オーガやゴブリンが目を光らせている中、力仕事などの労働をさせられていた。
そんなアルメン共和国の外れ、グレー森林の入り口付近にアリシリアと魔王アモンがいた。
魔王アモンは恐る恐る質問する。
「これからどうするでふか?」
しばらく沈黙が続き、アリシリアは答えた。
「そうですね、私は一旦帰ります。気になる事がありますので」
「気になる事でふか?」
「はい。なので帰ります」
アリシリアは笑みを浮かべる。
貴方は知る必要はないと言われている気がした魔王アモンは思わず、頭を下げてしまう。
「わかったでふ。オデはここにいればいいでふか?」
「はい。ここでニンゲン共が今後、どう動くつもりなのかを見ていてください。ここを守るのは構いませんが、攻めるのはなしです」
そう言うとアリシリアは魔王アモンの返事も聞かずに上空へ飛び上がった。
アリシリアが飛んで行くのを見送った魔王アモンは一息吐くと、アルメン共和国の方へ歩き始めた。
ただでさえ、一人でいる方がいいと言うのに……
あの御方といると緊張でどうにかなってしまいそうだ
そして、本当に計画通りにこの地を取り戻す事ができた
召喚した魔物を使い、共和国にいる魔法部隊をグレー森林に誘い出すことで待ち伏せをしている別の魔物と戦わせる
その間に共和国へ侵入し、増援としてくるニンゲンと戦う計画だった
もちろん、増援としてくるのが英雄であることも織り込み済みだった
あの御方はそこまで考えていた……
本当に恐ろしい
共和国内に戻ると、一人の人間が魔王アモンを待っていた。
細身の幸の薄そうな男は魔王アモンを見るなり、慌てて目線を逸らすが、口を開く。
「英雄様ですか……?」
「もう英雄ではないでふ。魔王でふ」
英雄などもういない
今はニンゲンではなく、魔族であり、魔王なのだ
「そ、そうですか……」
相変わらず、歯切れも悪いし声も小さい
これで王なのだから困ったものだ
魔王アモンの前にいる男はアルメン共和国の王であった。
名はヘフス・フラン。
そして、しばらく沈黙が続く。
何か用事があって来たのではないのか?
「何か用でふか?」
「あ、いや、その……これからどうなるのでしょうか……?」
これからか……
自分も同じことを聞いたが、明白な答えはもらえなかった
周りを見れば、不安そうにこちらを見る人達がいた。
「当分、ここにいるでふ。今後ともオデはお前たちには危害を加えないでふから、安心するでふ」
「そ、そうですか……ありがとうございます……」
「ただし、金銀財宝は欲しいでふな」
魔族になってからか、金などを身に付けていないと気が収まらなくなってしまった
「そ、そのようなものはこの国には……」
「帝国の兵士が持っていた物でいいでふ」
「そ、それなら……はい」
会話がそこで終わってしまう。
また沈黙が続き、なんとも言えない空気になる。
他人といるとこうなるから困る
何も言ってこないならもう何もないのだろう
魔王アモンは逃げるようにその場から立ち去った。
魔王との戦いを終えたゼロは早々にベネガル帝国に戻っていた。
城までの道中に国民の話し声から現在どのような状況なのかが何となく把握できた。
アルメン共和国は魔族によって占領された事。
そして、英雄が敗北し、死んだ事。
英雄が死んだ事はただの噂話だと思っていた。
しかし、城に着き、玉座の間で王から直接聞いたゼロはそれが本当である事がわかった。
他の英雄もそれなりの強さなのは聞いていた
それが魔王程度に負けるとは
あの双子に勝つのはひとりでは厳しい
だから、使えるものは何でも使いたかったのだが……
「それでこの一大事にどこへ?おまえはこの帝国の英雄なのだぞ。帝国の危機に不在とはーー」
「それよりももっと大事な事があるのでは?」
「他に大事な事?」
前世でも結婚をしたことがない俺は自分の子どもはもちろんいない
でも、親なら子どものことを心配するのが普通なんじゃないのか
「娘達ですよ」
「あぁ〜そういえばそうだったな、おまえと出ていたと聞いて心配はしてない。妻は気が動転していたがな」
その言葉を聞き、ゼロは地面に視線を落とす。
「それで娘達はどこだ?」
事実を伝えるべきか悩んだゼロであったが、いつまでも隠せるものではないと思い、話し出した。
「みんな、死にましたよ」
「何の冗談だ?」
「冗談じゃない」
ゼロはストレージを開き、布に包まれた三つのものを出す。
あのままでは可哀想だと思ったゼロは苦労しながらも首と体を繋げてた。
布をめくり、顔が見えるように見せた。
王は泣くかもしれない
または俺に怒鳴るかもしれない
しかし、どちらでもなかった。
「もうよい。布に包め」
声が震える事もなく、今までの帝国の王ラサールの口調であった。
なんだその反応は……
父親だろ?それでいいのか
ゼロは思わず聞いてしまう。
「悲しくないのか?」
帝国の王ラサールは首を横に振る。
「悲しい?そんなわけないだろ。それと、おまえにも対して怒りすらいない。だが、少しだけがっかりではある。利用価値があった娘達を死なせてしまったのだからな」
この王が周りから国民からなんて言われているのか知ってたつもりだった
まさか、これほどとは……
赤の他人であった俺でも初めて見た人の死にうろたえたというのに
なんだか悲しい
「そうか……」
「まだ、聞いてなかったな。なぜ、娘達は死んだ?」
そう、ここから重要なのだ
王の娘が殺されたとなれば、国をあげて対応するはずだ
「率直に言うと双子の冒険者に殺された」
初めて帝国の王ラサールが驚きの顔を見せる。
「本当か?」
「いまになって嘘を言ってどうする?事実だ」
帝国の王ラサールは考える仕草をする。
しばらくすると口を開いた。
「この話はここだけにしてくれ。娘達の死は別の形で公表する」
ゼロが思っていた結果にはならず、大声を出してしまう。
「どうしてだ!殺した犯人はわかってるだぞ!」
そんなゼロに対して帝国の王ラサールは冷静に言い返す。
「今ここで連合国と事を構える時ではない。他国に対して牽制はしたいが、現状一番の問題はアルメン共和国だ。魔族に占拠された以上、最も近いこの国が次に狙われるかもしれない。なので、おまえの話は後回しでいい」
何を言っている?
「自分の娘より国の方が大事なのか!」
「当たり前だろ?この国の王だぞ?」
ゼロは苦虫を噛み潰したよう顔をする。
「まさか、そんなに娘達の事を想っていたとは」
「そんなんじゃない!」
そう、仇を取りたいわけじゃない
あの双子を放っておくのが危険だから言っているのだ
「アルメン共和国の問題をすぐに解決してくれ。それが終われば、次は連合国をゆすろうではないか」
帝国の王ラサールは笑みを浮かべた。
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