消えたラーメン屋 ー8ー
あれから1週間ほどが過ぎた。
俺は不破聖と共に倉庫街の外れのラーメン屋台に来ていた。
「それで? あやは全部段取りしてくれたのかい?」
「はい。もう至れり尽くせりという感じで」
「気をつけろよ。後でとんでもねえ請求額の用紙が届くかもしれねえ」
「いえ、既に親爺さんたちに金額は提示されてまして。よくしていただいたと泣いて喜んでいました」
「そうかい」
「いやぁ、しかし助かりました。親爺さんたち、くれぐれも乱時郎さんに礼を言っておいてくれって」
「ああ、そうだ。忘れてたよ。いつも来るっていう常連のサラリーマンのおっさんたち。俺の分はしばらくそっちにツケてくれや」
「いやまぁ、乱時郎さんには世話になったんで、ツケとか関係なしにこれからも遠慮無く食いに来てくださいよ」
「まあ、今日の所はありがたくいただいておくよ。と、そういうわけだ不破聖。どんどん喰えよ」
「珍しく奢ってやるなんて言うから付いて来たら、こんなことに……すみません本当に」
「いえ、いいんです。これはお礼っすから。はいっと、出来ました。どうぞ」
「おう、それはそうとラーメン屋。こないだ、てめえ”力”使おうとしたろ?」
「えっ……」
「え、じゃねえよ。てめえの過去なんざ聞く気もねえ。だがよぉ、この先てめえが本性出すってんなら俺は
「へえ、わかってやす」
まあ、餓鬼程度の力を使われたところで大した事も出来ないだろうが。
長く生きている魔物は何を起こすかわからないからな。
一応の釘は刺しておいた方がいいだろう。
「乱時郎さん、やっぱりこの人って……」
「お前は黙ってその不味いラーメン食ってろ。そら俺の叉焼やるからよ」
不破聖がなにか言いそうになるのを、奴の鉢に叉焼を放り込んで黙らせる。
「相変わらず肉食わないんですね。だけど
「いえ、いいんですよ。最近、あちこちでラーメンブームだなんだってやってますけど、アレに比べりゃあ、確かに俺っちのあ、不味いっすから」
「こいつのラーメンはよぉ、戦後の物のない焼け野原で、親爺さんが廃棄同然の素材集めて作ったのを受け継いでやがんだよ。だからよ、今の上品なラーメンとは違って、どうしたって不味いんだよ」
「そうかもしれませんけど……」
俺はその不味いラーメンをひとすすりして、昔を思い出す。
ほんの200年ほど前の出来事を。
「まぁ、だがよぉ。不味いかもしれねえが染みるんだよ。飯が食えなかった頃の人間の心にはよ……」
魔斬りの乱時郎 消えたラーメン屋編 完
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