消えたラーメン屋 ー4ー

 倉庫街にほど近いそこは、ラーメン屋台の男が毎晩店を出している場所である。


 別に不破聖の話を聞いてそいつが気になったわけではない。


 少し夜風に当たりたかったのだ。


 俺が桟橋を眺めながら煙草を吹かしていると、ちょいと賑やかな連中が、千鳥足でやって来た。


「あれぇ? まぁた空振りだよぉ」


「残念だなあ……ここのラーメン……なんだか無性に食べたくなるんだよねぇ」


 二人組の酔客は残念そうに肩を落とした。おそらく、このラーメン屋台が目当てのようだ。


 飲んだくれてシメに一杯ラーメンをすすって帰ろうって腹だったんだろうが、あてが外れて溜め息を吐いていやがる。


「おやぁ? 兄さんも空振りかい?」


「まぁ、そんなとこかな」


「はぁっはっは! 儂らといっしょだなぁ!」


「兄さんも、あれだろ? ここのラーメン、急に食べたくなって来ちゃったんだろ? わかる! わかるよぉ」


 酔客たちはすっかり出来上がっているようだった。


「だがよぉ、不味いだろ? ここのラーメン」


 一瞬きょとんとして、その後ゲラゲラと笑い出す酔客。


「あーっはっはっ! 確かにね、美味いラーメンとは言えないなぁ」


「でもさぁ兄さん、昔のラーメンってぇみぃんなあんなだったよ? 兄さんはまだ若いから、わからないだろうけど」


「そうそう、なんてーかなー……懐かしいんだよ」


「へえ……そんなもんかねえ……」


 俺の呟きは風に流された紫煙と共に夜空に消えた。


「なあ」


「ああ? どうしたい、兄さん」


「俺がコイツ連れ戻して来てやるってったら、そん時ぁ、一杯奢ってくれるかい?」


「ああ、一杯どころか、何杯でもおごってやるよ!」


「そりゃあいいや。その約束、忘れんなよ」


「はっはっは! 頼もしいねぇ! それじゃあな、兄さん!」


「よろしく頼むよ! あーっはっはっ!」


 騒々しい酔客は乱時郎の前から姿を消した。


「ちっ、不味いラーメンって認めやがるんだから参るよなぁ」


「ま、これも『依頼』だ。ひとつ仕事でもするか」


 そう言って俺はオフィス街の外れへと向かった。

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