女学校の眠り姫 -3-
眠り姫───。
それは『私』の通う全寮制の女子校、私立
この数週間で数人の生徒が昏睡状態に陥っていった。
最初の1人は私が転入してきた2日後に起こった。
その翌々日には2人目が。
そして翌週には3人目が。
いずれも同じ、眠ったままで、なにがあっても目を覚まさないのだという。
彼女たちの共通点。
それはこの学園に於ける『姫』と呼ばれる存在だということ。
『姫』といっても本当のお姫様というわけではなく、多くの生徒たちから一目を置かれ、ファンや取り巻きがいる生徒のことを、そう呼んでいるのだという。
なるほど、歴史ある女子校だと派閥一つ取ってもなんだか優雅に聞こえる。
その『姫』と称される生徒の1人、九条院陽菜子さんは『私』のクラスメイトでもあった。
彼女はまだ学園のことが右も左もわからない『私』にとてもやさしく接してくれた。
聞けば、旧華族の家系に連なるという由緒正しいご令嬢で、一般人の『私』からすれば雲の上の存在。
なのにとても親切にやさしくしてくれて、いわゆる「気高きお嬢様」のテンプレートに当て嵌まらない人だった。
だからこそ、彼女の元には人が集まって、それが学園内でも一大派閥を形成していた。
桃や
格式高い全寮制のお嬢様学園の旧華族のお嬢様が、とても愛らしくて、美しくて、それでいて人格者でもあって、他の生徒たちからも絶大な人気を集めている。
そんな人物と初日からお近づきになれて、同じクラスでラッキーというか、返って恐縮というか。
『私』みたいな一般人が並んで歩けるような存在ではないのだ。
だけど陽菜子さんは恐縮しまくる『私』に積極的に接してくださり、転入直後で周囲に知り合いの居ない寂しさとは無縁になると……。
2日目まではそう思っていた。
ところが───。
3日目の朝。
クラスがなんだか沈痛な雰囲気に包まれていた。
事情を聞くと、陽菜子さんが眠ったまま目を覚まさないというのだ。
そんな……昨日まではあんなに元気だったのに? なにか持病とかを患っておられるとか?
と、他の生徒に聞いても悲しみ、首を左右に振るばかりだった。
せっかくお友達になってもらえると思っていたのに、いきなりこんなことになるなんて。
哀しみに暮れている『私』にやさしく声をかけてきたのが、瀬川三津子さんだった。
長身の凜々しく美しい彼女はバスケ部のエースなのだそう。
だからファンも多く、生徒たちからも人気が高い。なによりも陽菜子さんとは親友関係なのだという。
「陽菜子から聞いていたんだ。転校生の子が1日でも早く私たちの学園に馴染めたらいいなって」
なんと! 陽菜子さんは寮に帰ってからも『私』のことなんか気にかけていらしたのだ。
三津子さんは陽菜子さんが倒れたことによって私が孤立したりしないように、様子を見に来られたのだと言った。
「なにかあったら、相談に乗るからね」
片目を瞑る仕草が異様なまでに様になっていた。よほどファンの子たちにしているのだろう。
その次の日だ。
三津子さんまで起きなくなった。
学園内で人気の2人が揃って昏睡状態になってしまったことで、真っ先に疑いの噂が立ったのが、白崎亜矢子さんだ。
彼女も大会社のご令嬢で、絵に描いたような高飛車なお嬢様だった。
なによりも、彼女は陽菜子さんや三津子さんと敵対関係……というとやたらと不穏だけど、学園内の生徒間の派閥による対立があったのは確かだという。
そう、彼女も大勢の取り巻きを持つ『姫』だったのだ。
「アナタが転校生? ふぅん、なんだか冴えないわね」
そんな彼女がなぜだか私に接触してきた。
「転入直後にこんな事件が起こってしまって、心細いでしょうから、アタクシが相談相手になってあげてもよろしくてよ!」
悪い人じゃないんだろうけど。それにしたって腰に手の甲を当てて「よろしくてよ」なんて台詞を素で言える人なんて、生で初めて見た。
だけどその時『私』は彼女を警戒していた。
だって彼女、白崎さんには『呪い』で2人を眠らせた、なんて噂があったからだ。
「なんだか一部では、2人を眠らせているのはアタクシの仕業だ、なんて言われていますけど、そんな非科学的なこと、するはずございませんわ」
翌週になって、その言葉が真実だと知ることになる。
なぜなら、彼女も目を覚まさなくなったからだ。
一体、誰が? なんの目的でこんなことを?
それにどうやって眠ったままにしているの?
わからないまま日が過ぎていく。
そしてとうとう、4人目の被害者が出た。
安慈川優姫といい、最初の被害者である九条院陽菜子さんをお姉様と慕うとても可愛らしい少女だった。
お人形さんみたいな、という表現がピタリと当て嵌まって、名前の通り、やさしいお姫様みたいな少女だった。
一度だけ、陽菜子さんの様子をうかがいに、クラスに顔を覗かせたことがある。
ふわんふわんの巻髪がとってもキュートで印象的だった。
彼女は心から心配そうに、陽菜子さんの容態を聞いて、そして涙した。
そんな彼女が翌朝起きなくなったと聞いて、私は頭がくらっとした。
最初はみんなすぐに起き出すと楽観視していたのだけど、4人目となったらかなり深刻だ。
次は誰だろう? 誰かしら? という噂まで立ちだした。
しかも彼女たちの昏睡のタイミングは『私』が転入してからのこと。
それは、『私』の転入を境にして起こっている。
もちろん、『私』はなぜそんなことが起こっているのかなんて、さっぱりわからない。
だけど、このままではきっと『私』自身があやしまれてしまう。
それならば、まず先に『私』がこの事件の犯人を見つけ出さないと!
だけど一介の女子高生である『私』になにが出来るというのだろうか?
そんな時だ。ある人物が英語の講師として赴任してきた。
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