魔眼の少女 -14-
ドガドガと、大きな音が流れ出し狭いフロアで二百人余りの若者が思い思いに身体を動かす。
そんなありきたりなディスコの風景の中、いくつかのグループが活動をしている。
それはサークル同士がコミュニケイションをしていたり、或いはなんらかのグループが勧誘活動をしていたりだ。
中にはアルバイト紹介のビラを配っている者も居る。
つまりディスコという空間と、そこに集まる大学生たちに、同じ大学のサークルや仲間が活動し合える場を提供する。
それがこのイベントの趣旨であるというのが窺えた。
やがて音楽が小さくなっていき、壇上にスポットライトが当たる。
司会の学生……彼はこのサークルの主催、瀬埜一真だ。
彼はいくつか挨拶と、集まってくれた者たちに謝辞を告げ、本日のスケジュールを提示していく。
バックスクリーンに映し出された手書きの進行表。
そして、イベントは次に移る。
瀬埜青年に紹介されて一人のスーツ姿の男性が壇上に現れる。
ダークグレーの上下に中は白のTシャツ1枚というラフな格好だ。
歳の頃は30代前後。背はそんなに高くはない。むしろ小柄と言っていい。
他ならぬ彼こそがエイチアイの代表、福栄誠司だと学生たちがざわめき立つ。
注目される壇上で、彼はにこやかにざわめきのさざ波が引くのを待った。
静かになると満面の笑みを湛えて話を始めた。
「やあ、諸君! 我が友、瀬埜くんのイベントに参加してくれてどうもありがとう!」
バラバラと拍手が起こる。
それを両手を拡げて静めて、再びマイクで語り始める。
「かの学生運動の時代は遠く、今こうしてキミたち学生が自由な集会を開けるようになった。本当にいい時代になったと思う。
それはキミたちの先輩たちが、自由に学び、遊べる環境を必死になって作ってきたからに他ならない。
だからこそ、この自由を、より満喫し、さらに継承してゆかれなければならない。
───そうは思わないかな?」
また拍手。そして声援。
「昨今、かつて闘争に明け暮れた学生だった大人たちからは、やれ最近の若者は、だとか、今時の大学生は遊んでばかりだとか言われがちだ。私はそんな昨今の風潮を良くは思っていない!」
先ほどよりも少し強めの拍手。
「なぜなら! 今、自由を満喫することのなにがいけないことなのか? その自由の中で掴み取れるモノが将来の財産になることを、そういった人々は知らない! だからそんな無責任なことが言えるのだ!」
そうだそうだ! と声が上がる。
「そう! こうして自由に集うこと。かつてはそれすらも禁止された時代があった。だがこうして自由の旗の下、集まり、集い、そして自由に話し合い、語り合い、そして様々に情報を交換し合う。それは非常に重要な場だと、私は思う。故に、こういった場を作り上げてくれた、我が友瀬埜くんには感謝の言葉を今一度贈りたい! ありがとう!」
わーっと歓声。照れ臭そうにしつつも得意気な瀬埜が壇上の端で笑う。
「私、ひいては私たちはそんなキミたちが自由に学び、自由に遊び、自由に活動出来る場所を応援したい! そう思い、ここにキミたちの大切な時間を少しだけ頂戴しに来たのだ!」
歓声と拍手。
「さて、先ほども少し言ったが、最近の大学生たちが遊んでばかりだと揶揄されるのはキミたちに取って心外なことこの上ない言葉だろう。この中にも毎日アルバイトに追われる人、課題とバイトを両立させて懸命に日々を過ごしている人も少なくはないだろう。特に! 昨今の学生人口は増える一方で割のいいバイトは取り合いだ。毎度毎度面接に行き、その度にあの面倒くさい履歴書を書く……バイトを獲得する前に疲れ切ってしまう」
苦笑がそこかしこで起こる。
「そこで、提案だ。本日入り口で配布した資料に我が社エイチアイの登録用紙が入っている。内容は……見ての通り履歴書とほとんど同じだ。面倒くさいと思うかもしれない。だけどここは一つ我慢して書いて欲しい」
また苦笑。
「そしてエイチアイのアルバイト紹介センターに送ってくれれば、キミたちにアルバイトの紹介の連絡が行くようになる。キミたちが大事な勉強や付き合いの時間を削ってバイトを探す必要がなくなるというわけだ」
おおー、と感心の声が上がる。
「アルバイト先はどこも信用ある企業ばかり。我が社と取引のある有望な会社だ」
バックスクリーンに名だたる企業名がずらりと映し出される。
また感心の声。
「もちろん! 登録料もなければ、時給から中間マージンを取ったりはしない。取引のある企業から、こちらに紹介する為の紹介料をいただいているのでね」
また学生達はざわめく。
登録するだけなら、お金が掛からないのなら、と登録を考え始める。
「そんなキミたちに私から応援の意味を込めて、ささやかながらプレゼントを用意させてもらった!」
そしてまたバックスクリーン、ささやかとは言い難い豪華賞品が映し出される。
最新のスクーターに高級オーディオやビデオデッキにパーソナルコンピューターといった賞品が並ぶ。
「本日お渡ししている書類の中に、番号が記されたカードが入っている」
そこに舞台の上に現れる巨大な球体。その中には色とりどりのボールが送風によって舞っている。
「この中のボールに記された番号と同じカードの方は名乗り出て下さい。それぞれ賞品をお渡ししましょう!」
わーわーと歓声が沸き起こる。
彼らは必死になって、手元の書類の入っている封筒の中からカードを取り出す。
中にはパーティー気分に酔いしれてどこにその書類を置いたのか必死で探し出す者も居たりと会場は混乱の様相をきたす。
「さあ、それでは最初の賞品から参りましょう! トップバッターは……これだぁ!」
と司会の瀬埜が煽るように賞品を紹介し、その大きな球体のバルーンの中から福栄誠司がボールを取り出す。
いくつかの賞品が若者の手に渡った頃───。
「さあ、119番です! 119番の方は居ませんか?」
「ああ、救急車は呼ばないでくださいね!」
とありきたりのジョークを飛ばす福栄に笑いが起こる。
「あっ! やったー! 私だぁーっ!」
喜びの声が上がると、一人の少女がその場で跳びはねて喜んだ。
「おめでとうございます! それでは壇上へどうぞ!」
小柄な少女は人ごみを掻き分けてフロアを移動し、やっとのことで階段を昇って壇上に到着する。
「改めておめでとうございます! 高級オーディオコンポですよ!」
「私、音楽が好きなんで、すっごく嬉しいですぅ!」
その少女は全身を使って感動を表現していた。
「おめでとう!」
そう言って福栄が握手を求めて手を差し出す。
「ありがとうございますぅ!」
少女も嬉しそうに両手で握手に応じた。
そして……。
硬く握りあった瞬間……。
「むっ……キミはっ!?」
「やぁっと、捕まえたわ」
「くっ!」
福栄はその手を振りほどこうとするが、両手でしっかりホールドされて逃れる事が出来ない。
少女の握力とは思えない力だ。
「魔界から指名手配中の特A級逃亡者、乱塊! 異界の秩序を大いに乱した罪で、
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