うつしていいよ
「……すぅ」
「ねちゃった」
枕元の時計を見ると、時間は六時すぎ。さすがに、そろそろ帰らないとお母さんが心配しちゃう、けど。
「…………もうちょっと、見てたいな」
お熱があるからちょっと苦しそうにしてるけど、それでも目を閉じて寝息を立てる靜さんの顔はいつもよりずっと柔らかい。
わたしに甘えてくれる靜さんはいつもの優しくてかっこいい靜さんとちょっぴり違って、びょーきのせいもあってよわよわな感じで、なんか、こう、いつもはぎゅってされたいけど、今日はぎゅっとしてあげたい感じだった。
靜さんは、あんまり笑わない。
自分でわかってるのかどうか、わたしにはわからないけど、わたしは靜さんが大好きだからわかる。わたしといる時は、前より笑ってくれるようになったけれど、いつも笑ったあとで、きゅって口を閉じてしまう。なんだかまるで、笑っているのがいけないことみたい。
靜さんの笑った顔はいつもの顔よりちょっと子供っぽくて、わたしと靜さんがちょっぴり近づく感じがして、好き。でも、そのあとのきゅっとする顔は、わたしといるのに寂しそうだから、きらい。
「今日の靜さんは、かわいかったなぁ……」
や、靜さんはいつもきれいでかっこよくてかわいいんだけど。
でもいつものかわいさとは違うっていうか。いつもはときどきちょっとだけかわいいところを見せてくれる靜さんが、今日はずっと、ずーっとかわいいままだった。わたしの前でくぅくぅ眠ってるいまも、いつもみたいにきゅっとなってなくて、かわいい靜さんだ。
「いつも、もっと甘えてくれて、いいのに」
わたしに出来ることなんて、きっと大人の靜さんにとってはぜんぜんふつーのことなのかもしれないけど。でも、だって、わたしはこの人の、カノジョ、だし。
『私は彼女じゃなくて、マキちゃんが欲しいな』
「〜〜〜〜〜」ぱたぱた
……靜さんはずるい。わたしは靜さんが甘えてくれるだけでこんなに嬉しくてふわふわしちゃうのに。わたしが精いっぱい「カノジョ」して、お返しをしようとしても、簡単にわたしをもっとふわふわにしてしまう。
わたしがいるだけでいいって、そんなのまた、わたしが嬉しいばっかりなのに。
「わたしも、カノジョじゃなくて靜さんがほしいな」
他の人じゃだめだ。靜さんじゃなきゃやだ。そのことを、もっと靜さんにもわかってほしいのにな。
眠る靜さんのくちに、ちゅっとキスをした。
「……うつしてくれても、いいよ」
靜さんのびょーきが治るんだったら、わたしがいくらでももらってあげるのに。
枕元の時計を見る。……あと五分だけ、いいよね。
わたしはまた、靜さんの唇に吸いよせられた。
******
※更新遅れてゴメンネの話
別の短編をまごまご書いてたらこんなに時間が空いてしまって…!
短いですが今回は風邪っぴき靜さん編のおまけ回ということでひとつ、なにとぞ、なにとぞー。
この間に書いていた短編『あなたのための魔法少女』も投下してますので、次回更新までそちらを読んだり読まなかったりしてお待ちいただければと思います。ではまた次回。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます