苦悩と遭遇
理想:バレンタイン当日にバレンタイン編を一気に投下してお話を進める
現実:バレンタインの二日後にバレンタイン前の話をちょっとだけ投下
……あんまりこっち更新できてなくてごめんなさい。
リアル14日は過ぎましたがここからしばらくはバレンタイン編です。
***
「……あぁ……」
「またやってんスか」
例によってバイト先であるビデオ屋のスタッフルーム。私と交代の休憩で戻ってきた佐川くんが呆れたようにジトッとした目で呻く私を見下ろす。
「あー……」
「廃人になってまスよ」
「いや……うん」
「会話になってませんよ」
どさっとパイプ椅子に腰を下ろしてポケットから携帯を探りつつ、投げやりに言われる。今日は遥さんもレジに立っているし、昼過ぎのこの時間はお客さんもほとんど来ないので慌ただしさとは縁遠い。それが余計に私に悶々とする時間を与えてくる。
「今度はなに悩んでんスか?」
「んー……」
「あの子から逃げ回ってるのと関係ありまス?」
「あーあー」
両耳を塞いで聞こえないフリをした。
「……ガキじゃないんスから」
「自分でわかってることを人に言われるのが一番効くんだってば」
「そこまでわかってるなら自分でなんとかしてくだサいよ」
「できたら苦労しねーんだよー……」
ま、でスよね。
と携帯に視線を落としたまま言われて、情けなさに追い打ちをかけられた気分だった。
逃げ回ってる、のかな?
……逃げ回ってるか。
マキちゃんと顔を合わせていないわけではない。ただ、わざわざ店に来てくれたマキちゃんを「忙しいから」「今日は遅くなるから」と理由をつけて帰らせる日が続いたのは事実で、それはまぁ、後ろめたいというか、顔を合わせにくいという思いがそうさせたのは間違いない。
風邪っぴきの弱りきったところを思いっきりマキちゃんに甘やかされた日からしばらく、はじめから紙っペラ程度しかなかったはずの年上の威厳とかいうものをすっかり失くした恥ずかしさと気まずさと……あと、正直次にマキちゃんと部屋で二人きりになったら襲わない自信がなかったからという、自分自身を全く信用していないという理由でだ。
いや、うん、よくないとは思う。思うけどね?
じゃあ言えるかって、小学生の女の子に「性欲を持て余すから遊びに来ないで」なんて言えるわけがない。誤魔化すしかないじゃん!
「でも、もうすぐバレンタインですし。こういうの、付き合いたてのカップルには大事なんじゃないスか?」
「それを悩んでるんでしょうよ……」
ふーん、と気のない返事があって会話終了。相談に乗ってくれる訳じゃないらしい。いやまぁ、友達って距離感でもないしね、わかるけどさ。
だからっていつせにこんなこと相談するのは恥ずかしすぎる。っていうかいつせだと「なんで我慢? 押し倒しちゃえば?」って言われて終了になる未来しか見えない。いつせはいつせで、この間昔の話を互いにぶちまけたこともあって、マキちゃんとは違う意味で顔を合わせにくい。
「……チョコは用意してんすスよね?」
うめき続ける私を見かねてか、携帯から目を上げないままながら話を進めてくれた。
「…………そりゃ、まぁ」
「今日買いに行ってくださいね」
あ、バレてる。
「はい……」
* * *
……うわぁ。
職場と自宅と三角関係的に位置するショッピングモールに足を運んで、ちょうど時期らしく盛大に飾り付けのされた吹き抜けフロアのバレンタインコーナーを見た私の感想がそれだった。
「こういうの苦手だわー……」
いや別に、否定するつもりは全くない。商業主義うんぬんとか言うつもりもない。誰かが催しを興して、それを楽しむ人達がいるのは良いと思う。
存在を受け入れるのと、自分がその中に入っていけるかは別だというだけで。
「いやー……バレンタインにチョコ用意するとか、いつ以来だろうねぇ」
誰にともなく誤魔化しながら、若干鳥肌の立った腕を服の上からしゃこしゃこ擦りながらコーナーの隅っこにすすすと近寄ってみる。……うへぇ、甘ったるい匂いだけでもう無理かも。
商店街みたいな威勢の良い呼び込みにも腰が引けて、もうなんというか、近づきたい要素が一つもない。
「なにかお困りかしら?」
「う?」
バレンタインコーナーのドスの利いた甘ったるさに辟易としているとぽんと背中を叩かれた。振り返ると、なんかすんごい美人がいた。
私より十センチは背が高くて、胸がでっけぇ。顔を見る前にスタイルがもう美女。セーターの上にもこもこしたダウンを着ているのに、腰から下の細さが目を引くので、なんというか漫画みたいにデフォルメを施された胸でっか、くびれすっご、足ほっそ、みたいなスタイルだ。
少し高い目線に合わせて見上げた顔も、明らかに染めたのとは違う天然物のブロンドの長髪に縁取られ、どことなく欧州人の印象を受ける美女だった。
なんだろう、こう、婦人雑誌の裏面に載ってる海外ブランドの広告とかにいても全然違和感なさそう。
「あ、えーっと……」
「ごめんなさいね、なんだかさっきからお店を覗いてウンウン言っていたから」
ド美人に奇行の一部始終を目撃されていたことがわかって赤面する。
「いや、あの……ちょっと気後れしまして」
「うふふ、初々しいわね」
別に口元を隠すような仕草があるわけでもないのに、どこからか気品が漂う笑みだ。
「彼氏さんに?」
「いや……あー……」
小学生の彼女に、とも言えず曖昧に笑う。
「んー……あ、もしかして彼女さんかしら?」
「っ、な、なんで」
「あら当たり?」
あらーあらあらうふふ、とニコニコされる。エスパーか、パーエスなのかこの美女。
「実はね、私も彼女への贈り物を選びに来たのよ」
いたずらのネタばらしをするように「べ」と小さく舌を出す。すげー、そんな顔しても全然子供っぽくない……。っていうか、そっか、この人も女の子の恋人がいるのか。小学生じゃないだろうけど。
「私はもう少し探すつもりだけど……よかったら一緒に見て回らない?」
「え、あー……」
有り難いといえば有り難い誘いなのだけど、こんな後光が差してそうな美女、私とは住む世界が違い過ぎるし。そもそも同じ恋人に贈るという条件とはいえ、小学生の女の子にあげるものと、こんなモデル体型北欧ハーフ(推定)美女が恋人に贈るものじゃ見るべきお店から違うでしょっていうか。
「ていうか、あの、彼女さんに贈るのってこういうとこのチョコでいいんですか?」
「どうして?」
「いや、なんかその、もっと高級品とか贈るんじゃないかと……」
「んー、あの子高級な詰め合わせとかよりポッキーとかの方が喜びそうなのよね」
意外に庶民派な彼女だった。
「でもポッキーひと箱わたすんじゃ味気ないじゃない? だから、なにかこの時期ならではのものとかないかしらーと思って」
「な、なるほど」
まぁ、そういう基準で見て回るなら、私もマキちゃんへのチョコの参考にできるかな。
「じゃあ、えっと、お邪魔でなければご一緒させてください」
「邪魔だなんて。私から誘ったんだもの」
ふおお、ふんわり笑顔が上品だ……はー世の中には美人っているんだなぁ。
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