第5話 部活勧誘1

 徳人と凪の通う高校は学力偏差値が高いことで有名だが、他にも力の入った部活動でも有名だった。

 野球部、サッカー部を始めとした運動系の部活動も各大会で結果を残し、書道部や演劇部、放送部と言った文化系の部活動もコンクールやコンテストで数多くの賞を受賞したり、入賞したりしている。

 学校の入り口や校長室、職員室前の廊下のガラス張りの大きなスペースにもトロフィーや優勝旗などが数えきれないほど飾られていた。

 その中でも去年からの水泳部は特に成績を伸ばしており、その一因として挙げられるのが滝川徳人という生徒によるものだということは、知る人ぞ知る噂だった。


「よし、我々も新入生たちを勧誘するぞ!」


 水泳部の部長、水嶋みずしま雄吾ゆうごが部室で声を高らかにして言う。

 部活動の盛んなこの高校では、新入生の部活勧誘はかなり重大なイベントとなっていた。ここで可能性の芽を取り入れ、より夏や秋にやってくる大きな大会へと備えていくのだ。

 それはどこの部でも変わらず、血眼になって一年生の奪い合いが始まってしまう。水泳部も同様で、さらに言うと今年はより気合いも入っている。


「そんな張り切らないでくださいよ、部長」

「何を言うか、徳人! 今年は、お前も含めて、歴代最高とも言える面子が残っているのだ! さらに今年の一年の中には、お前の妹公いもうとぎみだっているのだろ!」

「ど、どうしてそれを……⁉」

「ふん、部長の情報網嘗めてもらっては困る。それくらい我の耳にはすぐに入ってくるんだ! 俺の知らないことなど何一つない!」


 メガネをクイッと中指で上げながら言う。

 それは流石に言い過ぎだとも思う。あと、一人称を「我」なのか「俺」なのかどっちかにしてほしい。


「我が水泳部でも断トツのタイムを持つ徳人の妹公だ。これが期待できないわけがないだろう! なぁ、皆のもの!」


 雄吾が他の部員たちに語りかけるが、明らかに温度差が違う周りはシーンとした沈黙が訪れる。


「ふん、まぁよい」

「その喋り、キモいのでやめてください」


 徳人は先輩でもあることも関わらず遠慮なしにストレートに言う。


「キ、キキ、キモいだと⁉」


 さっきまで威勢は何だったのか不思議に思うほど、たった一言で雄吾の表情が崩れた。

 だが、この水嶋雄吾もまた水泳部部長という肩書に相応しいほどの実力を持っている。専門種目はバタ(バタフライ)で、既にこの辺りの大会では大会記録をいくつも持っている選手だった。

 しかしいつからなのか、雄吾にはこの飾ったような喋りがいつの間にかデフォルトになってしまい、高校三年生ともあろう人なのに、中二病臭いにおいをプンプンまき散らしている。

 雄吾は一度仕切り直しの意を込めて咳払いをする。


「ゲフン、とにかく我が部にはさらなる戦力が必要なのだ! そして今年の夏は、我が校が全種目を総なめにする! 今年こそ、我が水泳部の真なる力を見せつける時ぞ!」

「はいはい」


 もはや徳人も諦めて適当な言葉だけを返す。


「それではまずは役割分担だ! 二年は昇降口で一年に声を掛けまくる! 昇降口以外にも中庭や、校門までの道はとにかくマークをつけろ!」

「「はーい」」

「我ら三年は、ここで待機をしながら、近くを通った一年に声を掛けていく! そして徳人!」


 最後に雄吾の人差し指が徳人に向けられる。


「お前は妹公をここへ連れてくるのだ。かなり速さの持ち主だという前情報はとっくに仕入れている。期待しているぞ?」

「はぁー、分かりましたよ」


 本当にどこで手に入れたのか気になってしまうが、まぁいいだろう。どうせ凪も水泳部に入るつもりだろうし。

 そうして水泳部は各々の持ち場へとバラけるのだった。

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