第21話 テストの結果
中間テストの一週間前になると大会前の部活以外は全て活動を休止しなくてはいけない。
水泳部は特に大会も迫っていなかったため、もちろんテスト勉強に励むべく部活はお休みとなった。
それから一週間後。
前以って勉強してきた徳人も、徳人に勝つべく勉強してきた凪も、自信ありげな顔でその日の朝を迎える。
「おはよー、お兄ちゃん」
「おう、朝食はできるから、さっさと食べて着替えろ」
「うん……」
凪は重い瞼を今も擦っている。
いつも以上に眠そうだ。
「まさか徹夜してたのか?」
「ちょっとね……。テスト前だし」
明らかにちょっとのレベルじゃない。相当遅くまで勉強してたんだろう。
徳人の知っている限り、凪がここまで勉強しているのは初めてだ。たぶん受験と同じくらいには気合いが入っているんだろう。
「先に顔でも洗ってこい」
「うん、そうする」
と眠そうに凪は洗面所へと向かうのだった。
いつものように朝食を済ませて、制服に着替え、二人で登校する。
「お兄ちゃん、勝負のこと忘れてないよね」
「ああ、忘れてねーよ」
「ちゃんと合計点数で勝負だからね!」
「はいはい」
こいつは勝負にならないと本気で勉強をしないのか?と不安になるが、現に勉強はしていたんだし良しとする。
学校に近づくと、何やらブツブツと独り言を言う生徒や、歩きながら暗記帳を見る生徒がちらほら見えてきた。
みんなギリギリまで頭に詰め込んでいるらしい。
昇降口まで来ると、凪とも別れる。
「んじゃ、テスト頑張れよ」
「もちろん! お兄ちゃんもね!」
教室の中でもやはり緊張感の漂う空気が溢れていた。
ざわざわと喋りに時間を使うものは少なく、各々が席について教科書やノートと睨み合っている。
「よう、徳人」
そんな中に混ざろうとノートを出す徳人に話しかけてきたのは有馬陽太郎だった。
「前回の学年三位は、今回は何位になるのかね~」
茶化す気満々で言う陽太郎は、いつもの通りでテストの緊張などまるで感じられない。
それもそうか。
「邪魔しないでくれ、学年二位」
「いや~、って言ってもそんな差があるわけじゃなかったじゃん? たったの二点差だぜ?」
「今回は結構はそれなりに自信あるから、二位の座は貰うわ」
「んじゃ、俺は一位になるだけだね」
「そりゃあ無理だろ」
言いながら二人の視線は教室の角の席へと向けられた。そこには誰とも会話せずに黙々と本を読んでいる女子がいる。
彼女が学年一位の成績を誇る
「椎名さんにテストで勝つとか、部活止めて勉強しないと不可能だろ」
「あはは……かもな」
陽太郎も苦笑いで呟く。
「ま、お互いがんばろーなー」
「ああ」
これ以上は流石に邪魔になると察したのか陽太郎も自分の席へと退散する。
そうして三日間に及ぶテスト期間が始まったのだった。
***
三日間のテストの感触は確かにあった。
分からない問題も特になく、スラスラと徳人のペンも動いてくれた。
後はケアレスミスがないことを祈るばかりだ。
凪も三日とも自信ありげな表情で帰っていくを見る限り、かなり自信があるらしい。凪なら、まず間違いなく学年一位は取れるだろう。
そうして今日はいよいよテスト返却と順位発表の日である。
浦笠高校ではまず最初にテストの返却を
「次に滝川徳人」
「はい」
先生に呼ばれてテストを受け取りに行く徳人に先生は感心した表情でテストを手渡した。
「今回もよくできていたよ。部活との両立で大変な中、よくやったね」
「ありがとうございます」
と案外と淡泊に返事をする徳人は席に戻ってテストを確認した。
予想通りというか、手応え通りの結果と言えた。
これは順位発表が楽しみだな。
昼休みになると徳人は陽太郎と一緒に順位の張り出される廊下へと向かった。一年生も二年生も三年生も同じ場所に張り出されるため、廊下はかなり混雑している。
「その様子からして自信ありって感じだな」
いつもの通りの陽太郎に徳人は言う。
「おうよ! 今回も絶好調! 平均も九十六点で、いい方だし」
「そっか」
するといよいよ先生たちがやって来て順位を張り出し始めた。
科目は八科目あり、合計八百点満点で順位が決められていく。一年生もどうやら八科目だったらしく、凪との勝負にもちょうどよかった。
徳人も陽太郎も張り出された順位表を上位五位から一気に目を通していく。
五位は違う。そして四位も違った。
……。
三位 有馬陽太郎 775点
二位 滝川徳人 795点
一位 椎名縁 798点
という風に記されている。
「マジか……」
そう言ったのは陽太郎だった。
まさかの790点以上が二人もいるなんて誰が思うだろうか。
しかし徳人は曇った表情を一瞬だけ浮かべた。
「一位じゃないのか……」
そう、徳人は一位の自信があったのだ。流石にこの点数なら一位が取れると思っていたが、椎名縁はさらにその上の点数を取っていた。
徳人の視界の端には縁が移り込む。
まるで喜ぶ様子も安心する様子もない、ただ無表情な縁の姿だ。
「負けたか……」
隣では陽太郎がかなり悔しがっているが、そんな陽太郎を放って徳人はそのまま一年の方も結果を覗いた。
一位から探した方が早いだろうと、見てみると一発で見つけられた。
堂々と一位の下には滝川凪の名前があったのだから。
一位 滝川凪 789点
「凪もかなりの高得点じゃねえか」
確かにこの点数なら一位のはずだ。
だが、勝負はどうやら俺の勝ちのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます