第20話 テスト前

 凪の高校生活も一ヶ月以上が経ち、今は五月になっていた、

 五月になると、新年度になって最初のテスト……中間テストがやってくる時期だ。


「はい、ここは中間テストに出るから、しっかりと復習しておくように」


 という先生のセリフも増えてきて、より一年生は授業の取り組みに真剣さが増す。

 なんせ最初のテストだ。この学力重視の浦笠高校ではテストの成績がこの先の進路にも大きく左右する。

 その為、赤点はまずあってはならない。


「はぁ~、中間テストまで二週間だよー、凪ちゃん」


 授業が終わると三豊早苗が涙声で凪の元へやってくる。


「そうだね。もうそろそろテスト勉強してる人は結構いるんじゃないかな」

「嘘⁉ もしかして、凪ちゃんも……?」


 恐る恐る訊ねる。


「いや、私はまだやってないよ」

「よかった~! 私も全然やってなかったから、焦ったよ~」

「あはは。でも、一応私、入試は一位で入学したから」

「あ! そっか、凪ちゃんってめっちゃ頭良かったんだった! ……じゃあ、どうしよ! 私このままじゃ、赤点取っちゃうかも!」


 どうやら早苗はこの浦笠高校にもギリギリで合格できたらしい。とは言っても、そもそものレベルが高いため、決して勉強が不得意というわけでもないだろうし、ただ単にこの高校の授業内容やスピードが早いと言うだけなのだ。

 しかし中間テストでいきなり赤点を取るなんてことがあったら、補習は逃れられないし、部活だって制限がかけられてしまう。

 それほどにこの高校は文武両道に厳しい。


「今から少しずつ勉強したら、きっと赤点は免れられるよ! それに分からないことがあったら私に聞いて。一緒に中間テスト頑張ろう!」


 凪の言葉に早苗は不安ながらも笑顔を取り戻す。


「うん! ありがとう、凪ちゃん!」


 そんな早苗を見ながら、ふと凪は思う。

 そう言えば、お兄ちゃんももうテスト勉強始めてるのかな……?


 ***


「はぁ? 一ヶ月前からしてるに決まってるだろ」

「ええ!」


 家に帰って徳人に訊ねてみると、さも当然のようにそんな答えが返ってきた。


「一か月前からって……そんな前から勉強してたの⁉」

「当たり前だ。俺はお前みたいに授業受けてすぐ頭に入らねえんだよ。だから毎日欠かさず予習復習はしているし、一か月前から準備しとかないと学年上位には入れねーの」

「お兄ちゃんって一年生の時、何位だったの?」

「最後のテストでは三位だった」


 中学の時から徳人は決して勉強ができないわけではないなかった。むしろ出来る方とも言える。

 そんなお兄ちゃんでも一か月前から勉強して三位なの……。


「でも、全然勉強してる雰囲気なかったじゃん」

「そりゃ、深夜に勉強してるからな。普通ならマンガ読んだりアニメ見たりする時間を使ってるだけだ」


 まさか徳人がそこまで用意周到だと思っていなかった。いや、徳人はいつも効率を考えて、一番確実な手段を取る。

 中学の時もそうやって誰よりも前以って準備して、そのおかげあってか成績はいつもトップだった。


「でも凪のことだから、少し勉強すれば大丈夫だと思うぞ。俺は兄貴としてお前に負けるわけにはいかないだけだ」

「ふん、お兄ちゃんは負けないもん! じゃあ、テストは勝負ね!」


 学年も違うのに、勝負とは如何なものかと思う。


「合計点数が高い方が勝ち!」

「まぁ構わないけど」


 徳人も了承すると、凪はやる気に満ち溢れた表情で部屋へと戻る。


「おい、もうすぐ夕飯だぞ」

「勉強してくる! できたら教えて!」

「全く……」


 小さく嘆息しながらも、フッと笑みを零す。

 俺も負けてられないから、もっと勉強しないとな。

 誰かが言っていた。


 ――勉強はやればやるほど結果に繋がる唯一のものだ、って。


「それに一回くらいは学年一位とかなってみたいしな」


 結局、夕飯ができても凪はしばらく部屋から出てくることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る