第18話 進路希望調査

「もうみんなも二年生。今からちゃんと進路のことも考えていかないといけません。浦笠高校は進学校ですから、ほとんどの人が大学を受験しますが、もちろん就職する人や専門学校へと進む人だっています。今のうちに皆さんの希望する進路を把握して、面談も行う予定ですので、明日までに進路希望調査票を提出してください」


 と朝のHRで担任の先生から渡された進路希望調査票を徳人は眺めていた。

 用紙には第三希望までの希望する職業と、進学するかしないかの選択と、進学する場合の希望する大学、専門学校の欄が設けられている。

 後は備考欄も少しある。

 今は休み時間で、教室の中では徳人と同じように進路希望調査票と睨めっこしている人も何人かいた。


「徳人~」


 と声を掛けてきたのは同じクラスであり、水泳部に所属している友達の有馬ありま陽太郎ようたろうだった。

 陽太郎とは一年の時から同じクラス、同じ水泳部ということもあり、仲良くさせてもらっている。


「進路希望調査票か……。徳人はどうすんの?」

「それを考えているんだよ」

「大学で水泳を続けるんじゃないのかよ」


 まぁ、パッと思いつくのはその線だろう。この高校にも部活推薦で入ってるし、卒業しても水泳は続けていたい気持ちはある。

 しかし、それで将来食っていけるなんて甘いことは考えていなかった。


「水泳はあくまでも趣味で続ける感じになると思う」

「なんでだよ~。大会新だってたくさん取ってるし、もしかしたら高校の日本記録にだって届くかもしれないのに、それは勿体ないぜ」

「例え、日本記録を取ったとしても、だ。競泳の世界は甘くない。陽太郎だってテレビでオリンピックや世界大会を見たりするだろ。あんな大舞台に立てるほどの力が俺にはない」

「……」


 陽太郎も反論はできなかった。

 あんな風に人生の全てを水泳に賭けるなんて選択、俺にはできない。


「じゃあ、どーすんだ?」

「普通に大学に行って、公務員になるのが安定だな」

「めっちゃ普通だな」

「普通でいいんだよ。ちゃんと働いて、自立して、親にもこれまでの学費や生活費を返してやりたいし」

「真面目過ぎるだろ……。俺とか大学まではガッツリ親の脛をかじるつもりだけどな」


 そこは人それぞれだろう。

 しかし徳人はあまり親の力に頼ることなく、大学へと行きたかった。

 できれば、その分の浮いた学費で、凪に好きな大学、好きな道へと進んでほしい。そう考えていたのである。


「夢とかないのか?」


 陽太郎が訊ねる。


「夢かぁ……。あんま、ないかな」

「そっか。っていうか俺も全然ないんだけどね。俺はやりたいことをやっているだけだからさ」

「陽太郎らしいな。じゃあ大学に行くのか?」

「そのつもり。やっぱキャンパスライフは一回くらい経験すべきでしょ!サークル入ったり、合コンに行ったりして、可愛い女の子たちと仲良くなって、最高に楽しい時間を過ごすんだよ!」


 理由もまさに陽太郎らしかった。


「でもさ、兄妹して泳ぎが速いんだしさ。妹の方は、そういう競泳で世界目指したりとかしてないのか?」

「凪が世界を……?」


 一瞬、嘲笑ってやろうと思ったが、それはすぐに消える。

 高一の時点で高校生の日本記録にかなり近づいている。もしかしたら天才肌の凪ならその道でもあり得るかもしれないと思ってしまったのだ。

 でも、ふと思ってしまう。

 凪は将来何かなりたいものでもあるのだろうか。もし夢があるのなら応援してやりたいし、協力だってできる限りしてやりたい。


「よし、帰ったら直接本人に聞いてみるかな」


 ぼそっと独り言を呟くと、授業開始のチャイムが鳴り響いたのだった。

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