第17話 風邪2
夜になると徳人の熱はだいぶ引いて、動けるくらいには回復した。
徳人は「もう大丈夫だ」と言って夕飯の買い出しに行こうとするが、それを凪は止める。
「お兄ちゃんは今日一日は安静なの!」
「でも……」
「買い出しも掃除も私がやっとくから、まだ休んでて!」
なんて強く言われたため、徳人は今も部屋で横になっている。
今は凪は買い出しで外出しているため、こっそりとアニメを見ていた。タブレット端末で契約しているアニメ視聴サイトのアプリを開き、適当に気になっていたアニメを流している。
にしてもいつも世話をされている側の凪がこう張り切っていると、不安しか感じられない。なんせあいつは実家でも家事一つやってこなかった人間だ。
何故かいつも母さんの手伝いをさせられていたのは俺だったし、凪が料理をするところも掃除をするところも見たことがない。
「いい勉強になるのかな」
いつかは凪だって自立して一人暮らしをする日も来るだろう。その時になって家事が一切できない女子なんてかなりまずいと思われる。
高校を卒業したら俺は大学へと行くつもりだが、凪はどうするのだろう。
まさか大学まで追いかけてくるつもりではないよな……。
流石に大学生になってまで兄妹で二人暮らしは
しかし、それと同じくらいに凪が誰かほかの男と一緒にいるイメージも想像できなかった。
「先が思いやられるなぁ」
なんて呟くと「ただいま~」と凪の声が聞える。
帰ってきたらしい。
アプリを閉じ端末を置くと、あたかもちゃんと寝てました感の雰囲気を出す。
「お兄ちゃん、ただいま。買い物してきたよ」
「おう、サンキュー」
「果物とかも買ってきたから食べたいときに言ってね」
「あいよ」
凪は買ってきたものを冷蔵庫に直しに行く。
こうして見るとまるで主婦っていうか、嫁さんみたいに思えてしまうが、勘違いしてはいけない。凪は妹である。
しばらくすると、再び凪がやってきた。
「お兄ちゃん! お風呂どうする?」
「んー、今日はやめとくかな。普通に身体拭くだけにするわ」
「じゃあ、私が拭くね!」
凪は目をキラキラと輝かせながら言う。
「お兄ちゃんが風邪ひいたら身体を拭いてあげるのがずっと夢だったの!」
「なんだよ、その夢……捨てちまえ」
「ひどーい! 妹に身体を拭いてもらえるなんて夢みたいにお兄ちゃんも嬉しいでしょ?」
まぁどちらかと言われれば、嬉しい方ではある。
しかしそれを口にすることはできなかった。
「拭きたいなら、勝手にしてくれ……」
「やったぁー!」
凪はウキウキ気分で出て行く。
お湯で温めたタオルを持ってくると、徳人は上半身だけ服を脱ぐ。
「じゃあ、拭くね」
「ああ」
凪は背中を丁寧に拭いていく。タオルの温かい熱が気持ちよく、汗を拭き取ってくれる。
拭きながら凪は徳人のその背中の大きさを改めて実感する。
引き締まった体には、水泳で鍛えられた筋肉がしっかりとついており、男性らしいごつごつした体つきになっている。
そんな背中を凪はつい指でなぞった。
「くすぐったいぞ!」
「あはは、ごめんごめん」
言いながら腕や首なども吹き終えてしまう。
「よし、サンキュー凪」
「え? まだ終わってないよ?」
「は? いや、もういいよ」
「下を拭いてないよ。ほら、ズボンも脱いで」
「はぁ⁉ なんで下まで拭いてもらわないといけないんだよ! バカか!」
「いいじゃーん! 恥ずかしがらなくても、兄妹なんだし」
なんだよ、その理屈!
「兄妹だから余計に嫌なんだろーが!」
「あ、もしかして……
凪は徳人の股部を凝視しながら言う。
「勃ってねーわ!」
一応股部を両手で押さえながら徳人が言う。
こいつにはデリカシーとか、恥じらいというものがないのか!
「じゃあ、別に見られてもいいじゃん。減るもんじゃないし」
おい、それを自分にも言えるのか?
なんて思いながらも徳人は頑固に拒否し続けた。
「じゃあ、私も裸になるから、お兄ちゃんも脱ぐってのはどう?」
「もはや意味が分からねえ! 目的が変わってるぞ!」
本当どんなプレイだよ。
「むぅー、ケチ」
もう何とでも言ってくれ。こればっかりは譲れないのだ。
なんとか徳人は恥辱行為を回避すると、自分で残りも拭き、着替えまで済ませる。
風邪がどうこうよりも、このやりとりが一番疲れたと思う徳人だった。
その後、ちゃんと風邪は治りました。
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