第30話 夏祭り2

 雄吾は副部長である鹿部麗奈とはぐれたらしい。


「鹿部先輩とはぐれたんですか?」

「ああ。花火上がるまで屋台でも見て回ろうというので、見て回っていたのだが、いつの間にかいなくなっていた」

「じゃあ、俺らも一緒に探しますよ」

「おお、それは助かる」

「ていうか、部長ってこういう祭りとか来るんですね」


 正直に言うと、あまり似合わないというか、イメージがつかなかった。


「麗奈が毎年誘ってくるのだ。断ると怒るし、麗奈を怒らせると怖いからな! こうして毎年二人で祭りに来ている」

「あー、なるほど」


 なんとなく察しがついた。

 鹿部先輩も大変だなぁ、なんて思いながらとりあえず麗奈にメッセージを送る。するとすぐに既読がついた。


「あ、鹿部先輩、ここに来るみたいです」

「お、そうなのか! 流石は徳人だ! でかした!」

「ていうか、部長も早くスマホにしてメッセージアプリ使ってくださいよ。未だにガラケーでメールもせず電話だけとか、不便過ぎですよ」

「う、うむ……。そうだな……。麗奈にも何度も言われたのだが、どうもこっちの方が使いやすくてな」


 雄吾はパカッとガラケーを開きながら、しょんぼりと言う。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん。部長と副部長って付き合ってるの?」

「いや、二人は幼馴染みなんだ。そうですよね、部長」

「ん? フハハハハ! そうだとも! 我と麗奈は幼き頃から交流がある。幼稚園も小学校も中学校も全部同じで、家も近所だったからな! フハハハハ!」

「つまりは、そういうことだ」


 徳人が言うと、凪もおおよそを察する。

 しばらくすると麗奈と合流できた。


「もう、雄吾! どこ行ってたのよ!」

「わ、悪かった! すまん!」

「もう……一緒に花火見れないと思ったんだから……。後で、リンゴ飴とチョコバナナ奢ってよね!」

「そんなに食べると太ってしまうぞ?」

「ちゃんと泳いで消費するからいいの!」


 プイッと麗奈はそっぽを向いてしまう。

 すると徳人の服がちょんちょんと引っ張られる。凪だった。


「もうすぐ花火始まるかも」

「もうそんな時間か」

「それじゃ、先輩たちも花火楽しんでください」

「せっかく会えたのだから一緒に――」

「雄吾、ほら行くよ! ごめんね、徳人君も、凪ちゃんに早苗ちゃん。また明日部活でね」


 と二人は行ってしまった。

 残った三人も場所を移動して、ゆっくりと見れる場所を探す。しかし、その道中で花火は打ち上がり始めた。

 ヒュ~と上る音、破裂音、広がる色鮮やかな花火に徳人の足は止まった。


「ここで見ようか」


 次々と打ち上がる花火。

 久しぶりに打ち上げ花火を見た気がする。


「綺麗だね」

「早苗ちゃん、見て見て! 星型の花火だよ! すごーい!」


 凪も早苗も楽しんでいる様子だ。

 たまにはこういうのも悪くない、か。


「ねえ、お兄ちゃん……また来年も行こうね」

「その気分だったらな」


 ***


「ほら、雄吾こっち」

「ちょっと買い過ぎではないか? 食べきれなくても我は知らんぞ?」

「……あ、花火始まった」

「ほら、始まったではないか」

「いいの。別に、私花火が見たくて来てるんじゃないから」

「なぬ? それは一体全体、どういう意味だ?」


 麗奈の頬はほのかに紅潮する。それを隠すように少し俯きながらも、再び雄吾と目を合わせた。


「教えないわよ!」


 私はただ雄吾と一緒に居たいだけ、なんて言えるわけでもグッと雄吾の手を引く。


「ほら、次はあそこでかき氷を買うわよ」

「ちょっと、麗奈? おーい!」


 結局花火どころではなく、雄吾と麗奈は祭りを楽しんだのだった。

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