第9話 からかい

 凪の学校生活一週間目が終わり、再び休日の土曜日である。

 なんだかんだで凪も学校では楽しくやっているようで、同じクラス、同じ水泳部に入部した三豊早苗という友人と休み時間や空き時間も仲良くしていた。

 なんでそれを俺が知っているかって?

 もちろん心配でちょくちょく一年二組の教室へ様子を見に行っていたのである。凪はそのことを知らない。「待って! お兄ちゃんの気配がする!」なんて言って何回が勘付かれそうになったことはあったが、一応バレていない。

 あいつは俺の専用のレーダーでも持っているのだろうか……。

 と、無事高校生デビューを果たした凪に比べ、今日の徳人は家でダラダラと実に有意義な時間を過ごしていた。

 部屋に籠ってアニメを見たり、マンガを読み漁る。もちろん課題も終わっているし、予習復習も完璧に昨日のうちで済ませているので、懸念なく楽しむことが出来る。


「お兄ちゃーん」


 凪の声が聞こえた。扉の前にいることが分かる。ガチャガチャとノックもなしに勝手に開けようとするが、ちゃんとロックをしているため開くことはない。


「んー」


 完全に意識はそっちのけで返事をする。


「一緒に遊ぼーよー!」

「んー」

「ねえー、お兄ちゃんってば!」

「んーー」

「今すぐドア開けないと、私ここで服を脱いで、一人でエッチなことをするよ」

「はぁ?」


 なんて馬鹿なことを言ってやがるんだ?

 やるなら勝手にしとけ。


「大声で近所にも聞こえる声で、

 お兄、ちゃんッ! 激しいよ~~~っ! もっとゆっくり、優しく……あんっ!

 って喘ぎ声をあげるよ」


 なんてクソ妹なんだ! そんなことをされたら一年間の近所付き合いが無駄になってしまうだろうが!

 ここは高校からも近いマンション。徳人以外にも一人暮らしをする学生は多くいるし、結構家賃は高いがこのマンションにも何人かは同じ高校の生徒もいるらしいのだ。

 どこの誰かはバレなくても、そういう誤解はできるだけ招きたくない。

 徳人はため息を洩らしながら、扉のロックを解除した。開いた途端に、扉は開き、部屋着姿の凪が現れる。

 やたらだぶだぶの大きなTシャツは片方の肩が露わになっており、下には短パンを穿いているんだろうが、それもシャツに隠れて見えていない。

 まるで下は何も穿いていないように見える。穿いてる……よな?


「お兄ちゃん、私が下に何も穿いていないんじゃないかって思ったでしょ?」

「ゲ……ッ⁉」

「ふふっ、気になる~?」


 半眼でにんまりと笑みを浮かべる凪はすごいムカつく。

 凪は顔を徳人の耳元まで近づける。


「穿いてないよ」


 と甘い声で囁いた。


「嘘つけ!」

「ほんとだって」

「この……」

「フフフ」


 どうやら完全にからかってきている。

 こうなってはやむを得まい。もう確認してやるのみだった。凪は徳人が何もしないと腹をくくっているのだろう。だからそこを突くしかない。

 徳人の右手は真っ直ぐに凪のTシャツへと伸び、がっしりと掴んだ。そして勢いに任せて、一気に捲る。


「……」

「…………」


 結果的に言うと、凪は穿いていた。

 真っ白な純白のパンツを。


「お兄ちゃんの……エッチ」


 単純的な事実を述べると、この状況は兄が妹のシャツを捲ってパンツを覗いた、ということになるのだろう。

 これは十分に犯罪の匂いがしてしまう。


「なんでパンツだけ穿いてんだよ……」

「じゃあ今から脱ぐ?」

「やめてください。俺が悪かったです」

「うん、よろしい。今日は一日私の暇つぶし相手になってくれること。それで許してあげる」

「はぁー……」


 なんでこんなことになってしまったのか。

 もういっそ穿いてない方が良かったのではないか、なんて考えるあたり俺も相当なバカだなと反省するのだった。

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