第38話 ドッキリ
突然ですが、お兄ちゃんにドッキリを仕掛けたいと思う今日この頃。
内容は至ってシンプル。これから手作りのスイーツを作るのだが、それが実は激辛というドッキリ。
甘いと思いきや辛いという衝撃に徳人がどんな反応を見せるのか、胸を躍らせる凪。
だけどただドッキリを仕掛けると、徳人は怒るのでちゃんとご機嫌をとるためのスイーツも用意済みだ。用意したというより少し前に実家から送られてきたやたら高そうなチョコである。独り占めするつもりだったが、徳人のドッキリの等価交換にする。
凪に抜かりはなかった。
徳人には買い物の用事を頼んで、外出させている。さっそく凪はスイーツ作りに取り掛かった。
作るのはスコーンだ。スコーン自体にも一味や七味を入れるが、ジャムにも動画で見て気になっていた激辛ソースを少量入れる。
入れ過ぎは本当に救急車を呼ぶ羽目になるので注意する。
そうして激辛スコーンを作り終えた凪は、徳人の帰りを待った。ちゃんとスマホを隠して動画を撮っている。
まるでユーチューバーの気分だ。
「ただいまー」
徳人が帰ってきた。
「おかえり!」
玄関まで出迎えて、買い物袋を持ってあげる。
「お、ありがと」
「いいの。あのね、お兄ちゃん! 私スコーンを作ったの!」
「凪が? 料理なんて珍しいな」
「結構自信作だから、食べてほしいの!」
「おお、わかったから」
ぐいぐいと圧を掛けてくるので、徳人は了承する。
手洗いうがいを済ませて、テーブルへとついた。すると既に皿に盛りつけられたスコーンが用意されている。
「見た目は普通に美味そうだな」
「うん。そのジャムもアレンジしてあるからたっぷりつけて」
「分かった」
何も知らない徳人はほんのり赤いジャムもたっぷりつけて、その口に頬張った。
ザクッと一噛みした瞬間、徳人の表情が変わった。
目を見開いて、大きく咳き込む。
「かれぇぇええええ! ゲホッ、ゲホッ!」
「アハハハハ!」
凪は魔女のように腹を抱えて笑っている。
「おい、何入れやがった⁉ ゲホッ!」
咳き込みながら、急いで飲み物を取りに行った。
水の流し込むも、口内のジンジンする痛みはそう簡単に取れてくれない。しばらく悶える徳人を満足した様子で眺める凪は、落ち着いた頃にちゃんと謝罪した。
「ごめんね、どうしても一回こういうドッキリやってみたかったの」
「お前なぁ、これ食ったか? マジで死ぬぞ」
「ごめんって。お詫びにね、ちゃんとしたのも買ってあるの」
そこは手作りじゃないのか、と心の中でツッコミを入れる。
凪は髪袋からやたら高そうな包装のチョコを取り出した。
「はい、これ」
「今度は何もやってないだろうな」
「既製品だから大丈夫だって」
疑いながらも徳人はチョコを一つ口に入れる。
今度はちゃんとチョコの甘さが口に広がってくれた。と同時に独特な風味も感じる。
「なんか変わったチョコだけど美味しいな」
と徳人はパクパクと辛さを消すように食べていく。
全部徳人にあげるつもりでいたが、気になった凪も一個だけ食べてみた。だが、思わず凪はキュッと口を萎ませてしまう。
「なにこれ!」
咄嗟に食べたチョコの容器を確認した。すると、それは割と度数の高いウィスキーボンボンだったことが判明したのだ。
自分の母親はなんてものを送ってきたのだと、凪は動揺を隠せない。たぶん、親も度数なんて見ず、普通のウィスキーボンボンと間違って送ったのだろう。
だが、一番の問題はそれを大量に食べてしまった徳人だった。
ほんのり頬を赤らめて、目もどこかとろんと虚ろっている。
「お兄ちゃん、それ以上食べちゃダメだよ!」
凪が止めるも、時すでに遅し。
「ああん?」
完全に徳人は酔っ払っていた。
「凪も、食べてごらーん。おいしーよ?」
喋り方がちょっとバカみたいになっている。
「ほら、もうダメだってば」
徳人からチョコを取り上げると、その凪の腕を徳人が思いっきり引っ張った。バランスを崩す凪は、徳人の方に倒れる。
「キャッ」
「なぎ~、なぎは温かくて、きもちーなー」
「ちょっと、お兄ちゃん!」
徳人は寄りかかる凪を抱き枕のように抱きしめる。
「ふかふかだぁ~」
そして凪を推し倒す形で、徳人は顔を上げた。そのまま数秒見つめ合うような状態で、ゆっくりと凪の顔に近づいていく。
「なぎ……」
「ダメだよ、お兄ちゃん……」
言いながらも目を瞑ってしまう凪の頬に柔らかな感触が伝った。そして静かな寝息が耳元に聞こえ始める。
どうやら凪の頬にキスをして、そのまま寝てしまったようだ。
「はぁぁあ。私の方がドッキリしちゃったじゃん。もう、お兄ちゃんのバカ」
そう言って徳人を抱きしめた後に、ついでに唇も奪ったことは、ここだけの秘密である。
兄妹がイチャラブするお話 花枯 @hanakare
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