第22話 ご褒美

 テストでは学年一位には届かなかったが、それでも過去最高得点を取ったし凪との勝負にも勝利した。

 家に帰ると、凪は圧倒的な差で学年一位になったのにもかかわらず重いため息を洩らしていた。


「お兄ちゃんに負けた……」

「そもそも勝負が違い過ぎるだろ? だって同じ八科目だったとは言え一年と二年じゃ教科も違うし、テスト範囲だって全然違う。そこでまず公平な勝負になっていない」

「でも……久しぶりに気合い入れて勉強したのに」

「はぁー……。じゃ、期末でまた頑張ればいいだろ」

「……うん」


 しかし凪は自分の勉強だけではなく、三豊早苗の勉強の面倒も見ていたらしいのだ。きっとその分の時間を自分に割いていれば、さらに点数は上がっていただろう。


「三豊さんの方は大丈夫だったのか?」

「うん、ギリギリだったけど全教科赤点は回避してるから、安心してたよ」

「それは良かったな」


 本当に浦笠高校で赤点を取ると、補習の連続で部活どころではなくなる。その為、部活生は絶対に赤点を取ってはいけないのだ。

 徳人は部屋着に着替えると、お腹も空いてるので夕飯の準備に取り掛かろうとするが、凪が何やらもじもじと俯きながらやってきた。

 頬を紅潮させ、どこか恥ずかしそうにしている。


「その……勝負のことだけど……」

「ああ、だったな」


 正直に言うと徳人にとってはどうでもよかった。

 勝負を仕掛けたのは凪の方だし、徳人は最初から何してほしくて勝負を受けたのではないのである。


「何かしてほしいことある?」

「え?」

「なんでもいいから言って。なんでもいいからね、なんでも!」


 やたら強調して言ってくる。


「うーん……」


 徳人は考える。だが、やっぱりこれと言ったことは思いつかなかった。

 だからと言って凪がこのまま引き下がるとも思えない。


「今日の夕飯を手伝うってのはどうだ?」

「それは簡単すぎ」


 おい、普段料理を全くしないお前がそれを言うな。


「じゃあ、一週間家事を手伝うこと。いっつも俺ばっかりやってるから、たまには凪も働け」

「ええー。期待してたのとは違うけど、まぁ仕方ないから、やってあげる」


 言うと、凪は徳人の隣にピッタリくっつく。


「私は何をすればいい?」

「まずは離れろ」

「ええー!」


 これでは手伝いではなく、ただの邪魔である。

 しかし、役割を分担すると凪もテキパキと料理の補助をしてくれる。


「なんか夫婦でご飯作っているみたいだね」

「普通に兄妹で飯を作っているだけだろ」


 すると凪は分かりやすく頬を膨らませる。

 けど、こうやって二人で料理をするのも楽しいと思った。

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