第33話 合宿1
夏休みに入って一週間が過ぎた。水泳部は大会や記録が増えるため、毎日のように練習をする。
そして今日も今日とて練習があるのだが、凪と徳人は朝早くに家を出た。
「お兄ちゃん待ってよー」
「急がないと間に合わないだろ。寝坊した凪が悪い」
「そんなぁ~……」
大きなあくびを洩らし、重い瞼をどうにか開きながら凪は徳人を追いかける。
そして浦笠高校の正門に着いた頃には、水泳部の部員は全員集合していた。
「遅いわよ、二人とも」
「すみません、鹿部先輩」
副部長である鹿部麗奈に徳人は頭を下げる。
するとその後ろから大きな身体が現れた。
「まぁ、良いではないか! 滝川兄妹は我らの期待の双星! 多少の遅刻は許す!」
その言葉に鹿部も溜息を洩らすが、反論はしない。
水泳部部長の水嶋雄吾両手を組んで、ガハハと声を出して笑うが、その笑みが次の瞬間、冷ややかなアスリートの目に変わる。
「……だが、今日の合同練習で手を抜くようなことはするな? その時はいくら滝川兄妹であれ、厳しく対応する」
「はい、すみません。肝に銘じます」
そうして徳人と凪も少し離れた場所に停められたバスに乗り込み、移動するのだった。
今日の練習は他校の室内プールで行われる、合同練習となっていた。
しかもその学校が、全国でも有名な
最近じゃ表と裏という文字から、巷では光の表欄、影の浦笠と呼ばれるようにもなった。
そんな場所にこれから合同練習に向かうのだ。
「緊張するね、凪ちゃん」
「そう? 私はそれよりもまだ眠いかな。でもさ、表欄高校ってそんなにすごいの?」
「すごいよ!だってこれまで数多くの競泳選手を輩出してるんだよ?今度のオリンピックだって半分が表欄高校の卒業生だって聞いたし」
「へー」
「でも、最近じゃ
「ふーん」
何とも興味なさげに返事をする凪は、反対側の座席に座っている徳人を見た。
徳人の表情も真剣なものに変わっているが、時折深い溜息を溢している。
そして一時間の移動で目的地へと到着した。そこは浦笠高校とは段違いに広い敷地、大きな校舎と数、そして設備の整った室内プールだった。
浦笠も他校と比べても大きな方だが表欄は別格だ。
バスから降りて、さっそくプールまで移動すると、一人の少年が出迎えてくれる。爽やかな笑みで、一歩こちらへと歩み寄った。
「おはようございます。お待ちしておりました」
「これはこれは、表欄水泳部部長の
雄吾は硬く秀一と握手を交わす。
その後に秀一の視線は雄吾から外れ、徳人の方へと向けられる。だが、特に言葉を交わすことなく、秀一は中へと案内した。
「お兄ちゃん、あの人と知り合いなの?」
「ん? まぁ去年も合同練習はあったし、大会でも話すことがあるから、知り合いって感じかな」
「ふーん。そっか」
そこからはすぐにプールのある場所へと移動する。中では既に部員がウォーミングアップをしている姿が見える。
視線がこちらにちらほら向けられるが、たぶんの的は徳人なのだろうと凪は察した。この場の皆が徳人にライバルの視線を向けている。
だが次の瞬間、遠くからやけに明るい声が飛んできた。
「徳人先生~!」
その声は女の子の声だ。プールサイドの端から勢いよく走って来ては、徳人に向かってダイブする。
「ぐはっ!」
「徳人先生だぁ~! 会いたかったぁ!」
そのまま押し倒し、両手で強く抱きしめる。身体が密着し、水着越しにその柔らかな双丘が押し当てられた。
お兄ちゃんが……女の子に抱きしめられてる⁉
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