第13話 図書室
徳人は昼休みになると簡単に昼食を済ませて、残りの時間を図書室で過ごすことが多い。
よって今日も今日とて、徳人は図書室にやってくると、窓際のポカポカと暖かい席を陣取った。
図書室は良い。なんせ騒がしい教室とは違い、ここなら必然的に静寂の落ち着いた時間が訪れるのだから。
基本的にマンガを読むことが多い徳人だが、もちろん小説だって読むことはある。特にライトノベルはアニメの原作になることも多いし、砕けた表現でとても読みやすいので、学校では主にラノベを読むようにしている。
ちゃんとブックカバーのされているラノベを出すと、栞の挟んだページが一発で開かれた。
「……」
それから物語の世界に入り込んでしまい、いつの間にか時間が過ぎている。
ふと視線を上げると、向かい側の席に凪が頬杖をついてこちらを眺めているのに気がついた。
「……⁉」
「あ、やっと気づいた」
「いつの間にいたんだよ」
驚きでつい大きな声を上げそうになるが、図書室では静かにしないいけないのがマナーのため小声で言う。
「えっと十分くらい前」
「なんでいんの?」
「早苗ちゃんは職員室に用があるって言って行っちゃうし、他のみんなと過ごすよりはせっかくだしお兄ちゃんの様子でも見に行こうかなって。昼休みに一緒にいることって少ないじゃん?」
「でも、ここにいるってよく分かったな」
「分かるよ。だって、私もお兄ちゃんも五月蝿い場所嫌いでしょ。だから静かで落ち着ける場所って言ったらここしかないなって」
そういうところは流石、妹である。
「いつも図書室に来るの?」
「ああ、よく来るな。人も少ないし、ここなら本を読んでいても勉強していても誰にも邪魔されない」
あ、訂正。たった今、目の前の凪に邪魔されているわ。
凪は辺りを見渡して、人の少なさを認識する。二人を含めても五、六人ほどしかいない。
「確かに図書室っていいよね。中学の時もよく図書室や街の図書館に行ってたし」
「ああ、行ってたな。いつもお前もついてきてたけど」
「妹を置いてどっかに行くお兄ちゃんが悪いんだよ? 妹を放置するようなお兄ちゃんなんて、私の部屋に監禁しちゃうんだから」
「ヤンデレルートは止めてくれ。俺が一番苦手とするジャンルだ」
徳人は言いながら凪の手元をふと見るが、凪は本の一冊も、勉強道具さえも持っていないことに気づく。
もう完全に目的が徳人と話すことらしい。
「なんかこうやって昼休みにのんびりするのって新鮮だね」
「そうか? まぁ、学校だと二人きりにはなれないしな」
すると完全に口を滑らせてしまった徳人はハッと手で押さえるが、もう時すでに遅し。
凪のいつもの殴りたくなるようなニヤけ顔が向けられていた。
「お兄ちゃん、学校で私と二人きりになりたいの~? 二人きりで、ナニをするのかな~」
「その言い方やめろ! 誤解が生まれる!」
こうなってしまうと調子づくので、もう徳人は反論するのを止めた。
それからもう少ししてチャイムが鳴り響く。
「あ、もう時間かぁ。早いなー」
「ほら、教室に戻れ」
「お兄ちゃん、また図書室に来ていい?」
「別に俺にそんな権利はない。来たい時に来ればいいだろ」
「うん。じゃあ、暇なときはここに来るね!」
「せめて本か自習道具くらいは持って来いよ。俺だって本を読んだり昼寝したりするんだ。その度に邪魔されたら流石にキレる」
「分かってる~。じゃあね」
と凪は行ってしまった。
図書室で過ごす昼休みも、やっぱり悪くはないな。
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