第27話 自分なりに

 昼休み。昇降口前の階段に腰かける二人がいた。


「なぁ、陽太郎」

「どうした? 徳人」


 バナナオレと記されたパックジュースのストローを銜えながら徳人はぼうーっとした様子を見せる。


「お前って彼女いたっけ?」

「はぁ? 高校二年生という青春真っ盛りの時期に彼女とかいたら、こんなところで、しかも男二人で飯なんか食わねーよ」

「そうだよな……。だが、それでも相談できるのが陽太郎しかいないから聞いてくれ」

「まぁ、ダチとこうして語り合うのも青春っぽいからいいけどよ。んで、何を相談したいんだ?」

「女子が喜ぶプレゼントって何だと思う?」

「……また難しい相談だな」


 陽太郎も眉間に皺を寄せて、「んー」と唸り声を洩らす。


「女子の喜ぶプレゼントねー……。指輪とか?」

「気が早すぎるだろ」

「んじゃ、シンプルにペアルック的なものはどうだ?」

「ああー……。ありだな」

「だろ」


 陽太郎は得意げな顔をするので、少しイラっとした。

 するとバナナオレが底尽きて「ズズッ」とストローから空っぽを知らせる音がする。


「陽太郎だったら、そのペアルックみたいのをプレゼントするのか?」

「いや、俺はしないな」

「自分で言っておいて、しないのかよ」

「俺だったら、その女子に合ったものを考える。それが形あるものかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「なるほどね。思い出とかもいいプレゼントになるってやつか」

「そういうこと」


 どうやら意外と陽太郎はそういうところを細かく考える奴らしい。

 しかし、徳人が絶賛悩んでいるのは凪へと渡すものだ。先日、キーホルダーを失くしてしまい、凪は相当落ち込んでいた。

 それの代わりとなるもの。


「要はさ、自分の気持ちを示せばいいんだと思うんだよね。そういうプレゼントって。何をあげたのかっていうのは案外どうでもよくて、渡す相手のことを考えて気持ちが籠っていれば、値段とか大きさ、綺麗さとかも関係なく喜んでくれる……と思う」

「言いたいこと分かる。なんか、そういうのっていいな」

「だろ? だから、早く俺を好きになってくれる可愛い女子いねーかな」

「そのうちできるよ。陽太郎なら」

「男二人でこんな話するの、だいぶキモいけどな」


 互い笑いが零れる。

 でもおかげで、だいぶ考えが纏まってきた。


「さんきゅ。助かった」

「だったら、後で俺にもバナナオレ奢りな」

「しゃーないな。今回だけだぞ」


 ***


 翌日の夜。

 風呂上がりの凪は髪を乾かして、自分の部屋へと戻ろうとするところを徳人は呼び止めた。


「凪」

「なに? お兄ちゃん」


 徳人はそそくさと自分部屋から小袋を一つ持って出てくると、そこで凪も大体察した様子を見せた。


「ほら、これ」

「これって……」

「その……俺は凪の欲しいものとか女子の欲しいものが分からなかったから、俺なりに考えて無難なのを選んだ」


 袋を開けて出てきたのは、お守りだった。


「開運招福」の文字が刺繍で記されているそのお守りを凪は嬉しそうにギュッと握る。


「本当はネックレスとかブレスレットとか可愛いキーホルダーとか考えたんだけど、まぁ、これならいつでも持ち歩けるし、そのいろいろご利益がありそうだろ? だから今日、放課後にそれなりに有名な神社まで行ってきた」

「ありがとっ! お兄ちゃん!」


 凪の目尻には涙が溜まっていて、ここまで嬉しそうにする姿を見たのは久しぶりだった。

 でも、喜んでもらえたのならよかったと、徳人は安堵の息を洩らす。


「私、ずっと持っておくね。絶対に失くさないから!大切に持っておくから!」

「ああ、きっと良いことがあるさ」

「もう、今が嬉しすぎて、幸せ過ぎて、死にそう……」


 凪はとうとう泣きじゃくる。お守りを貰って泣くなんて変な妹である。

 呆れたように嘆息すると、徳人はそっと凪の頭に手を乗せて、泣き止むまで頭を背中を摩ってあげるのだった。

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