第32話「任務優先ッ!」
手に入らないならいっそ───。
奪われるくらいならいっそ───……!
「───いっそぉぉおおお!!!」
サオリは叫ぶ。
このまま一緒に死んでやるとばかりに!!
「ヴァンプはアタシのものだぁっぁああああ!」
「違う!! ヴァンプはそんなこと望んでないッ!」
うん。
望んでない。
「黙れェェェエエエエ!!」
お前が黙れメンヘラ女。
「ヴァンプは……。ヴァンプは……!」
おぉ、いっそ頑張れナナミ。
そいつ止めて───……。
「そう、ヴァンプは私達みんなを愛してくれてる───!」
うん。愛して──────……はぁ?!
な、何言ってんのこの子?!
「ヴァンプはこんな異世界から来た怪しげな女の子にも優しくしてくれた! 泣き虫で、すぐに根を上げる私を励ましてくれた! ヴァンプは───!」
「ソンナおためごかしヲォォオオオ!!」
聞く耳もたん! とばかりにサオリは魔法結晶に魔力を注ぎ込み、意図的に暴走状態に陥らせる。
それの一撃をもってナナミと相打ちを狙っているのだ。
「や、やめて!! ヴァンプが……ヴァンプが死んじゃう!」
あの威力がどれほどのものになるかヴァンプにも想像がつかない。
っていうか!
俺まで巻き添え?!
いやいやいや、もしやそれが狙い?!
いやだよ!
何でわけのわからん痴話喧嘩に巻き込まれて死ぬの?!
そんなんカッコ悪い……!!
なんて報告書に書けばええねーーーーーん!!
「ヴァンプ! 私が……私が守る!! 守って見せる!!」
もはや、暴走状態に陥った魔法結晶は止まらないだろう。
それを察してか、ナナミがヴァンプに縋りつき、自らの体と装備で守ろうとする。
しかし、それでどうにかなるはずもなく。
結界内の生きとし生けるものは全て焼き溶かされるだろう。
例外はナナミくらいだろうか?
もしかしてナナミですら消滅してしまう可能性もあるが───……。
だが、確信がもてない。
ヴァンプの脳裏にあったのは、
基本命令
〇 いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ
〇 例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ
〇 ホウレンソウ《報告・連絡・相談》を確実に実施せよ
〇 勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ────
〇 敵の弱点を最大限に利用せよ
の5つであった。
サオリが自爆してくれれば、勇者パーティのメンバーであると継続して騙すことができるだろう。問題なし。
勇者との協力も問題なし。
そして……「勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ───」だが、これってどうなんだ?
サオリの自爆で確実に倒せるか?
世界を焼き滅ぼしかねない魔法結晶の爆発だぞ……?
さすがにナナミといえど───。
「大丈夫だよヴァンプ……。私はこのくらいの爆発じゃ絶対死なないから───」
ですよねー。
自信ありげに笑うナナミを見て確信するヴァンプ。
うん……本気でこの勇者っ子なら、耐えきりそう。
ヴァンプは間違いなく死ぬだろうけど……。
あれ?
ってことは…………。
ヴァンプが戦死したら……もしや?
勇者ナナミは生存しつつの、ヴァンプ
(───任務失敗……)
ズーンとヴァンプの心に圧し掛かる事実。
な、なんてことだ…………。
そ、それは───。
それはマズイ!!
「───それはマズイ!!」
マズイ、マズい、不味い!!
しかも、戦死は最悪。
魔王様に連絡も出来ないので、状況不明で味方に多大な負担を強いることになる。
任務失敗するにしても、せめて撤収くらいは成功させなければならないのだ、何としてでも──!
こちとら、魔王軍四天王隠密のヴァイパーやで?
任務絶対!
何としてでも、これは達成せねばならん!
せめて、
せめて……。
せめて、任務を誰かに引き継いでからじゃないと───!
仕事の「引き継ぎと申し送り」は社会人ルールやでぇ!!
ッ!!
任務。
命令───。
〇
「ナナミっち、そこをどくッス!」
「え? ヴァンプ!?」
縋りつくナナミから這い出ると、ヴァンプをサオリ目掛けて疾駆する。
持ち前の瞬足を生かして一気に肉薄。
「サオリさん! ゴメンっす!」
「ヴァンプ───!!」
突如目の前に現れたヴァンプに驚くサオリ。
だが、もはや彼女はあきらめの境地に達している。
魔法結晶は暴走状態。
いつ爆発するか分からない───!
だけど、今すぐ爆発するとも限らない!
「(任務のためにも、)死なせるわけにはいかないッス!!」
「ヴぁ、ヴぁんぷ……?」
サオリの手に触れ、彼女を抱きすくめるようにして魔法結晶を奪い取るヴァンプ。
熱く───温かい熱を持った魔法結晶は、魔族であるヴァンプには実に心地よいものであったが、今はそれに浸る時ではない。
しかし、それをどうしようというのか───?!
サオリの張った結界は容易に破れず、もしかすると魔法結晶の爆発にすら耐えるかもしれないのだ。
それはサオリの最期の意地。
自分と、愛しべき男と───恋敵のみを消し去るため、他の誰にも迷惑をかけないための最後の砦。
それを───!!
「自爆なんてゴメン被るッス! 俺ッチにいい考えが浮かんだッスよ~!」
結界を見て思いついたことが一つ。
サオリの結界に匹敵するもので、ヴァンプが見知っているのもがある。
そして、ヴァンプにはそこに送り届ける手段があるのだ。
「お嬢──────ナナミっち!! 結界を破れぇぇぇえ!」
「ヴァ………………。わかった!!」
一瞬躊躇ったナナミだが、ヴァンプの目を見て───言葉を聞いて、彼の(仕事に対する)情熱を感じて!!
「たりゃぁぁぁああああ!!」
バリィィィイイイン!!
聖剣を一閃!!
あれ程の強度を誇った結界が呆気なく破壊された。
そして、周囲の空間が戻り───。
三人は人類が占拠した魔王軍の補給処に還ってくる。
周囲には人、兵士、仲間、物資、物資、物資───!!
ここで爆発したら大損害!
人類軍は大ダメージを負う!!
そもそも、サオリの魔法結晶はどれほどの威力を秘めているのか…………!
(任務優先! 任務達成は至上命令!! 魔王様───)
報告、
連絡、
相談───!!
「だから、コイツも届くはず───!」
ヴァンプは常に報告を欠かさない。
それというのも、ホウレンソウは社会人のルールであって、ヴァンプにはそれを可能たらしめるツールがある。
彼がどうやって人類軍のど真ん中───敵地から魔王まで連絡をしているのか!?
それは───……。
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