第17話「流星」
──お嬢には指一本触れさせないっすよ!
パカンッ!! パカンッ!!
ヴァンプの竜巻のような斬撃によって次々に弾け飛ぶスケルトンたち。
実に小気味の良いい音を立てて弾け飛んでいく。
「数だけで押し切れると思うなっスよ!」
ナナミの隙だらけの背後を守るため、ヴァンプは体中に隠し持っている暗器や投げナイフを駆使してスケルトンを粉砕していく。
目にもとまらぬ速さでの投擲、そして斬撃!
時には周脚ッ、からの───後ろ回し蹴りぃ!!
「そこだぁぁあ!!」
今も、地面から起き上がったばかりのスケルトンに、ナイフを投擲。
パッカーーーーーン! と良い音を立てて白骨が再び泥に沈んでいく。
そして、少しの空間的優位を確保すると、残身。
「……クリスちゃんも、いい加減に起きるッス」
安全地帯をわずかに確保したヴァンプは少女に話しかける。
だが、聞いているのか、聞いていないのか。
しゃがみ込み、焦点の合わない目でブツブツと呟いているクリスティ。
(ち……足手まといな!)
幸いにもスケルトンはほとんどボロクズのような武器しかもっていないので、簡単に防具を破られることはないとは言え──数が圧倒的過ぎる。
(それにしても、この装備どこかで───……?)
腐ってボロボロの装備だが、スケルトンたちに既視感を覚えるヴァンプ。
破れて土に溶けた旗印にも見覚えが……?
記憶を刺激する何か。
それを思い出すところで───。
「ヴァンプ! ナナミぃ!!」
ドカーーーーーーーーン!!
凄まじい剣気を纏って、オーディが斬撃とともにナナミ達に合流した。
オーディの進撃路と着地地点ではスケルトンが噴水のように空を舞っている。
「くそ、囲まれたぞ!?」
ササッと、慣れた動きで円陣に加わることができるのは、さすが近接最強の剣聖オーディといったところか。
「どうする? 退くか? 戦うか?」
言葉にわりに悲壮感を感じさせないオーディの口調。
おそらく、オーディにはこういった全面包囲という、一見して絶対絶命の場面の経験もあるのだろう。
周囲の状況に比して、随分落ち着いた雰囲気を感じさせる。
(なるほどスね……。ナナミが使い物にならないときは、オーさんが前線指揮をとるわけっスか!)
一見、ピンチとも言える状況にあっても、ヴァンプは勇者パーティの情報収集を欠かさない。
もちろん、オーディ同様にヴァンプにも、その顔にはことさら焦った様子もない。
ないんだけど……。
「───クソ! 圧殺されるっスよ!」
……さすがにスケルトンの数の多さには顔を顰めていた。
なにより、クリスティが働いていないので、彼女を守らねばならないという負担がある。
せめて自衛だけでもしてくれれば……!
「参りましたね……敵のど真ん中ですよ」
サオリは上空から観測と援護。
彼女は発動の容易な下級魔法を連射しつつ、迫りくるスケルトンをなぎ倒していた。
だが、スケルトンの数があまりにも多すぎるため焼き石に水と言った様子だ。
「お、おい……! あれを見ろ! ま、まずいぞ!! 敵の本隊も来やがったッ」
そこにオーディの悲痛な叫びが飛び込んでくる。
うぎぎぎぎぎぎぎき……!
うぎぎぎぎぎぎぎき……!!
彼の眼前に映ったのは、補給処から列を連ねた完全武装のアンデッドが突入してくる様子だった。
く……!
さすがにまずいか?
「あ、圧殺される?!」
ナナミがいれば負けはしないかもしれないが……!!
このままでは、きっと誰かが死ぬ!!
その誰かは、おそらくクリスティ……!!
「退くぞ! ここは一度、体制を立て直すべきだ!」
ナナミが戦術的にも無知なため、戦闘時のリーダー補佐はオーディの務め。
彼はそれにより、戦術的後退を進言しパーティに飲み込ませる。
「仕方ありませんね……」
「了解っス!」
「わ、わかった!」
サオリ、ヴァンプ、ナナミはすぐさま反応。
しかし、
「ブツブツブツ……」
一人動かない者が……。
「ここから援護します! 今のうちに───」
サオリが上空から援護射撃をしつつ地表で戦う仲間たちの後退支援を行っている。
「ナナミっちも早く! ここは俺っちが!」
その魔法援護をかいくぐる様にヴァンプが投擲武器を一斉に放出し、パーティの死角を突かんとする補給処の兵士を薙ぎ払う。
「う、うん! わわわ、わかったッ!──────たぁ!!」
ナナミはオロオロとしながらも、聖剣により神々しいオーラを纏った衝撃波を正面にぶつけて大きく跳躍する。
ズドォォォォオン!! とスケルトンの包囲を打ち破る一撃、その隙に飛び去るナナミ。
だけど、
「あれ? く、クリスティは?」
そう、クリスティは…………。
「いけ! 止るなッッ! 距離を取ればサオリが
オーディは体全体で包囲を押し破るように突進ッ!
そこにヴァンプが援護として側面と後方を固める。
「お任せなさい──────出でよ、異界の巨星!!」
バリバリバリ……!
空に現れた巨大な魔法陣! その先から真っ赤に燃えた隕石が顔を覗かせる。
これぞ、サオリの殲滅魔法、「
それは、さっき敵にぶちかました隕石の連撃で、まさに殲滅魔法そのもの!!
(……な、なんて魔法を使うんスか?!)
どれほどの魔力量を秘めているのか……。まったく魔法の衰えを感じさせないサオリ。
(ええぃ、人類の
ヴァンプは顔をひきつらせながらも、今だけは味方で良かったと胸を撫でおろす。
そうとも、今はひたすら逃げるのみ……!
「ひぇ~! 巻き込まれたら死ぬっすよ!!─────って?!」
「あ、ま……待ってクリスティが!」
それぞれが後退した戦場。
そのあとには誰も残されていないはずだというのに───!
「いやだ……! 暗い、怖い! 誰か…… 誰かここから出して……」
いないはずなのに!!
「「「クリスティ?!」」」
「クリスちゃん?」
な、なにやってんのあの子?!
あろうことか、撤退に指示も聞こえないほどにパニックに陥っていたらしいクリスティ。
「わ、私が行く───」
ナナミが引き返そうとするのをオーディが止めた!
「馬鹿やろう! お前が行ってどうする! サオリの魔法に巻き込まれでもしたら───!」
ナナミたちが後退したことで、あっと言う間に白骨の群れに飲みこまれたクリスティ。
あの中で生存できるはずが……!!
「く───な、なんてこと?! ま、魔法指向性の変更……!! ぐぐぐぐ……クリスティ、逃げなさいッッ」
サオリは殲滅魔法の照射方向を無理矢理変えるべく魔力を余分に注ぐ。
世界の理に作用する殲滅魔法に、途中から介在するのは術士をしても至難の業───!
いくら魔力の総量が大きくとも、世界の理に介入は───……。
「ぐはっ!」
ブシュゥウ!!
彼女の柔肌から魔力の迸りが溢れ、内から彼女の肌を割いていく。
だが、それでも魔法に介入するサオリ。
彼女の矜持としても、魔法に仲間を巻き込むわけにはいかない───……いかないけど、
「だ、ダメ───……方向を逸らすので精一杯ッ!……ぐぅ」
サオリが血の涙を流しながらも魔力を制御している。
だが、それでも直撃を逸らすので精一杯だ。
今のままでは、間違いなくクリスティを巻き込んでしまうだろう───……!
「クリスティぃぃぃぃいいいいい!!」
ナナミの悲痛な叫びが戦場に響く!!
あの小柄で愛らしい仲間が、白骨に飲み込まれ、殲滅魔法に焼かれんとする。
そんなのって!!
ダメ───クリスティ…………!
ナナミの悲痛な叫びが響くなか───。
「…………もー。しょうがないっスね」
え?
だ、誰の声……?
茫然としたオーディとナナミ。
そして、血に涙を流すサオリの前に敢然と立ったのは、あの斥候のヴァンプだ。
「「「ヴァンプ?」」」
いつものように掴みどころのない雰囲気をそのままに、陽気ささえ纏わせて敢然と立つヴァンプ。
「俺ッチがいくっす。たとえ死んでも、俺ッチくらいなら大して影響ないっスよ」
それよりも、
「クリスちゃんは大切なんっスよね? なら、任せるっス」
コキコキと首を鳴らし、なんでもないように引き返していくヴァンプ。
それを、唖然と見送るしかできないナナミたち。
「ヴぁ、ヴァンプ?」
「ヴァンプお前……」
「ぐぅぅ……ヴ、ヴァンプ?」
ニィと口角を釣り上げたヴァンプが一度だけナナミ達を振り返り────。
「古い戦場跡を見落としたのは俺ッチのミスっす。だから、今すぐそれを取り返して見せるッスよ!!」
───そして、突貫した!!
「だめぇぇぇええ! ヴァンプぅぅぅぅううう!!」
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