第44話「海の覇王」

 え?

 え? え?


 お、泳げないの?! 剣聖さまなのに?!

 要チェック要チェック………………じゃない!!!!


 や、

「やばくない?!」


 え?

 マジでオーディ泳げないの?


 え?

 おぼれ死ぬの?!


 え?

 馬鹿なの? 死ぬの?!


「ど、どどどどど、どーしよ!!」


 どーしよ、どーしよ!!


「このままじゃ、勇者パーティの信頼ががががががが──……!」


 せっかくここまで、一生懸命信頼関係を構築してきたのに、事故でオーディ死亡。

 原因──ヴァンプとの模擬戦……な~んて言われたらぁぁあああ!


「っていうか、お前ら誰かさっさと助けに行けよッ!!」


 つい口調の荒くなったヴァンプに一瞬甲板上がシンとする。

 ナナミたちもポカンとしていたが、


「ご、ごめん……あ、足のつかないところって怖くて──」

「ぼ、僕も海はちょっと……」

「塩水は苦手なの────」


 あ、はい。


「って、オーディ死んじゃう!! 死んじゃうから────!!」


 見れば、着水面でガボガボと藻掻いているオーディの姿が見えた。


「ヴぁ、ヴァンプ殿、今短艇を下ろしております──少し待機を……!」


 船の士官が平謝りに対応してくれたが間に合うものか……!


 巻き上げ機とクレーンを使って短艇を下ろしているのだが、現場までの推進を考えるととても間に合わないだろう。

 それならば──……!


「もう、いいっす!! 俺っちが行くッス──……!」


 あれ?

 なんで、俺──……。


 え~と、命令確認。


 現命令

 〇 いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ

 〇 例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ

 〇 ホウレンソウ《報告・連絡・相談》を確実に実施せよ

 〇 勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ────

 〇 敵の弱点を最大限に利用せよ

 〇 女に隙があったら殺せ

 〇 変なものをいきなり送るな


 ん~っと……。

「はい。問題なーし」


 ヴぁ、

「「「ヴァンプぅぅぅううううう!!」」」


「とぅ!!」


 マストの上から掛け声一つ。

 ヴァンプは海面目掛けてキレイな飛込を決める。


 そこに、士官の声が後を追う。

「ヴァンプどもお気をつけて──!! ここは魔の海域!! 海面下には何が潜んでいるか────……!」




 知ってる……。




 超知ってる。



「ごぼぼ……。ぶくぶく────……」


 一気に抜き手を切って泳ぎだしたヴァンプ。

 そして、船から離れてオーディに近づきつつ思う。


「まだ、海軍は健在なんスよね~。わが軍は」


 なんか、魔王軍の陸軍も空軍もボッコボコの状態だけど、幸い主戦場とならなかったため、魔王軍の海軍はほぼ無傷で残っていた。

 もっとも、海上特化の軍なので、陸戦ではあまり貢献できないんだけど──……。


「うば! あばば! だ、誰か────……!」


 バシャバシャと藻掻くオーディのもとにあっという間に近づいたヴァンプ。


「オーさん! 今行くっす──……あんまり暴れないで! 力を抜いて!」

「オーさん言うな!! って、ヴァンプか?! お、おれはまだ負けてねぇえ!」


 コイツ、あほか?


「場外は負けっす。いいから落ち着いて──あんまり泡を立てると……」

「負けてねぇ!! 倒れるまで勝負だ──がぼぼぼ!」


 あーもう!!


 勇者たちが見てなきゃ見捨てるのにぃぃい!!


「やかましい、勝負は、がぼぼぼお、こえから────ん?」

「いいから、大人しく────ってあれ?」


 散々暴れていたオーディであったが、突如身体が浮き上がる。

 一瞬にして、ボコんと会場に浮き上がったかと思うとさらに水面の上に──……。


「おお? な、なんだぁぁあ? なんか下に……」

「んぉ? なんスか? なんスか?」


 と──────。



 ギロ……。



 オーディとヴァンプが下を向いたとき、ソイツはいた。

 赤白い体にラメラメと点滅する不気味な皮膚。


 そして、ニョロニョロとのたうつ触手に、でっかい目玉────……。


「ク……」

 ヒクリとオーディが口角を動かす。

 ヴァンプもゾワリと肌が総毛立つ。


「「クラーケンだぁぁぁああああああ!!」」



 ダッパァッァアッァアアアアアアアアン!!



 そして、海が荒れる──……。

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