第45話「魔王軍、再建中ッ!」

 クラーケン出現のちょ~~~~とばかり前のこと。

 魔王軍、臨時指令室(魔王城地下)にて──。



「おい、電源こっちだ!!」

「ばっか、そーいうのはあとでいいんだよ!」


 バタバタと配下の兵があわただしく駆け回る。


「これどーすんだ? 魔王様の玉座ぁ」

「あ゛? そーゆのは一番最後でいいんだよ!! 玉座とかマジで邪魔、優先順位最下位!」


 ボロボロの玉座が地上部分から発掘されたらしいのだが、それを適当にわきに追いやる魔王城の魔族たち。

 しかし、忙しいという割にはどうにも……。


「ったくじゃまくせーな、これ」

 ゲシ! と蹴り飛ばされる魔王の立派だった……玉座。

「へ。偉いさんはそーいうの好きなんだと、ったく地方官吏まで引っ張り出されて、大丈夫なんかこの国」

「知るかよッ。俺らみたいな地方役人は行けッて言われたら、黙って中央に従うの!」


 へーへーへー。


 とやる気のなさそうな顔でエッチラオッチラと機材をセットしていく魔王軍……?


「つーか、さ。誰? あのパイプ椅子に座った爺さん」

「は? さぁ? 誰かの家族じゃね? 国が無茶苦茶だから、老人ホームも軒並み閉鎖されてるっていうし」


「「あー……」」


 そういって、地方出身たしい魔王軍の兵士たちが大きなため息をつく。


 そして、パイプ椅子に巨体を小さく縮めている魔王をかわいそうな目で見ては、ソっと目をそらした。


 だけど──……。



「おい……」



 プルプルと震えた身体を抱きしめる魔王。

 なんか可哀そうだけど──。


「なんスか?」

 鼻をほじるのに一生懸命なシャイラさんがすっごく興味なさそうに答える。

 彼女もパイプ椅子だけど、ちゃっかりクッションを持ち込んでサイドテーブル付き。


 そして、ピンと鼻くそを弾いて魔王の服の裾で拭き拭き。


「って、顔に鼻くそ飛んできたんですけどぉぉぉおおおおおおおお!!」

「あーそー」


 今度は耳をホジホジ。

 もっさりと取れた耳くそをフー……と、

「汚ったねぇなぁ、おおおおい!!」


 エンガチョ! と、椅子から飛び起きた魔王がシャイラから距離をとる。


「あー……。いいんですかぁ。女性に汚いとかエンガチョとかぁぁ。最近そーゆーのうるさいんですよぉ」

「汚ったないもんは汚いわ!! あとさりげなく、人の服で指拭くな! うわ……ガビガビになってんじゃねーか!!」


 あーもう!! と、妙なものがいっぱいこびりついた服を叩く魔王。

 その姿たるや威厳も糞もない。


「で、なんスか?」

「ぐぬ……。く、口の利き方ぁぁあ……うぐぐぐぐ、なんでもないけど、なんでもあるぅ!」


「はぁ?」


 口に利き方から矯正したいところではあったが、言っても聞くとは思えないし、言うと問題になりそうなのでグっ! と飲み込む魔王。


「ひっひっふー。ひっひっふー……。落ち着けワシ。ふー……」

「しらー……」


 今度は爪の間の垢をコシコシと。


「だぁもう!! 見ろッ!! なんだこいつらは!! なんでワシの顔も知らんの?! つーか、誰? 誰なのこの人らぁぁ!!」


 魔王はふーふー! と肩で息をしながら、地下の臨時司令部で忙しそうに働く魔族を指さした。


「ほら、おじいちゃん。人様を指ささない──……彼らは地方公務員ですよ。戦線縮小と、人材確保のため、地方を放棄して中央まで召喚しました」


 ──おじい…………。


「誰がおじいちゃんだ!! って、戦線縮小?! は? ワシ聞いてないけどぉぉお!!」


 ガタンと再び立ち上がった魔王がみんなの注目を浴びつつシェイラに怒鳴り散らす。


「あーもー……。全部、じ後決済に決まってるじゃないですかー。イチイチ入院中のアンタの許可なんて待ってられないし」

「はぁ?! ふっざけんなし!!」


 グイっとシェイラの胸倉をつかむ魔王だったが、シェイラが何も言わず口をパクパク。


 セ・ク・ハ・ラ──。


「むっきーーーーーー!! なんでも、かんでもセクハラになると思ったら大間違いじゃーーーー!!」


 とかいいつつ、一応服から手を放してムガームガーと一人で愉快なダンスを踊るだけ。


「あーはいはい、言ってろクソジジイ────で、どーするんですかぁ?」

 すっごくやる気がなさそうにダラーと背もたれに体重を預けるシェイラ。


「ぐぬぬ……。話しまだ終わってないんだけどなー……ぐぬぬぬ」


 怒りでブルブルと震えながらも、魔王は気を静めて椅子に座る。

 なんか、バキッ! とか音がしたけど、気にしない。だって、パイプ椅子のサイズと魔王のサイズ釣り合ってないもん。


「とりあえずヴァイパーには新命令を送っておいたわい! あの野郎、3人目の女を口説き落として順調にハーレム築いてやがる。くそう、うらやましい」


「本音が出とるがな」


 ケッと、興味なさそうに答えるシェイラ。その態度に口角をピクピクさせながらも、


「──……とにかく、勇者どもの戦力を削らんといかん。このまま無傷で上陸されては、我が軍では太刀打ちできん──そこでだ、」


 バンッ!!


 と、命令書を掲げる魔王。

 病院で必死に書いた命令書! 苦労がにじみ出ている──……。


「あーそれ、書き直しておきましたよ。命令書は公文書なんだから、愚痴とか書かないでくださいよー。監査が入ったら七面倒くさいんですから」


「んな?! あーほんとだ! いつの間にぃぃい!」


「いや、入院中に決まってんでしょ──耳大丈夫ですか、アンタ?」

「口の利き方ぁぁぁああああ!!」


 むがーーーー!!


 魔王がせっかく恨みつらみを乗せた命令文をヴァイパーに送り付けたのに、味気ない命令にすり替わってるし、


「つーか、何勝手に命令付け足してんの!!」



〇 変なものをいきなり送るな



「どーよ」

 ふふん、と胸を張る。シェイラ。


「どーよ、ふふんじゃねーーーーーー!! 命令系統逸脱ぅぅぅうう!! 越権行為ぃぃいい!!」


 バンバンと叩く肘置きがないので、自分の膝を叩く魔王。


「いや、だって必要じゃん? また、爆弾欲しいんですか?」

「あ、いや、まぁ…………。あ!! それに──なにこれ!! もっと本文のほう多かったでしょ?! 削りすぎじゃね?!」


「はー?……『何を女3人とイチャイチャしとんねん!!──うらやまし……あ、げふん!! さっさと、殺して戦力を削れ? 女3人隙だらけやっちゅうねん!!』って、これ命令文と違いますからぁ? アンタ文書用務とか舐めてるでしょ?? ったく、死ねよ」


「し、死ねって、おま…………」


 ブルブルと震える魔王。

 せっかく万感の思いを込めて命令を掻いてヴァンプに送ったのに……。


 魔王パワーで羊皮紙を10枚くらい貫通しそうなくらいに筆圧で書いたのに!!


「要点はこれでしょ? 『〇 女に隙があったら殺せ』──……ってとこ。あ! なんか私に言ってないですよね? これぇ?」

「言ってません」即答


 ニコッ。


 魔王がきれいな笑顔。


「チッ……。まぁいいや、でーちゃんと様式整えて送っときましたから──あとは、」


 ドンッ!!


 と、そこに──ようやく司令部っぽくなってきた室内に巨大な地図が置かれた。

 魔族の兵士たちも、重量物を運搬して汗だくだ。


 その地図だが、

 記載部分には様々な記号や兵棋が並べられており、現在の戦況がよくわかるようになっていた。





「──勇者をどうするか、でしょ?」

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